パルデアの歴史① まず世界はどういう状況か?
はじめに 2つのパルデア史の舞台装置としての結晶体
これから書く文章では全体として「パルデアの歴史」を扱いたいが、本当に何もかもがぼやっとしている「エリアゼロ」がどういった場所であるか「結晶体」が舞台装置としてどう機能しているのかなど、諸々当たりをつけなければどうにもならないので、これらについて最初に述べることにする。また、基本的に与太話の上、シリーズ他作品のネタバレを含むのでご注意頂きたい。
基本的には
・反物質世界ってどこのこと指してる?
・ひょっとしてまたかなり世界の危機だった?
・何気に地方の位置関係が示されていない?
・金属プレートと地上絵って対になってる?
・キタカミの管理人、実はかなり大変な立場?
・並行世界の存在のアレ
あたりの文章となる。ウザいくらい予防線を張ったが物理学は素人かつ総じて仮説なので許して欲しい。また、あまりよくないが考えが変わればたまに訂正や更新を行いたい。
スカーレット・バイオレット世界の宇宙構造と結晶体
まずこの仮説では、スカーレットとバイオレットの二つのバージョン世界の関係性のモデルの一つに「CPT対称性がある程度やぶれたミラーユニバースのようなもの」があると仮定する。
最初に注意してほしいのは、ポケットモンスター世界の作り手はこの物語を描くことでいまだ最先端の宇宙物理学者ですら知り得ない真の現実的宇宙をシミュレーションしたいわけではないであろうし、そこまで厳格な設定を作り込むことに意味を見出していないであろうし、私も上記のように一部の学者が提唱している説を挙げたからと言ってそれがそれそのものであると言いたいわけではない。あくまでも「モデルのひとつであるのではないか」程度のニュアンスであるということが前提であるとさせてもらい、以下に続ける。
一般的にミラーユニバースとは、いわゆるビッグバンの生じた時空の点から、我々の宇宙とは真逆のもう一つの宇宙が生じたはずであると考える研究者たちの示す宇宙論である。
二つの宇宙はまず時間の符号が異なる。そして粒子と空間に関する符号も逆になるが、ビッグバンの時点を挟んで対称性は保たれているとされる。これがチャージ(C, 物理量の総称)、パリティ変換(P, 空間座標の反転)、時間(T, タイム)の対称性であり、まとめて「CPT対称性」と言う。そしてミラーユニバースの両宇宙ではこれらが完全に反転して成立しているとされる。我々から見た場合のもう一つの宇宙は我々から見た反物質が支配的な宇宙であるが、おそらく意識を持つ両宇宙の者たちはどちらも「自分は歳をとっていくから、時は過去から未来へ流れている」と感覚できるし、あちらから見ればこちらの物質が反物質なのであり、その世界にいる限り何の違和感もないはずと考えられている。
ここで反物質という言葉が出てきたが、これはCPTの内、Cの対称性による物質とは真逆の存在である。陽子に対して反陽子があり、これらにそれぞれ電子と陽電子が結びつくと水素と反水素になる。この二つが等量で出会うと符号が逆であるために「対消滅」を起こし、大きなエネルギーを放出して両者とも消える。だが、宇宙物理学者たちの計算では最初期の我々の宇宙は物質と反物質が等量存在していたと想定されていたので、それならば対消滅によって全てが消滅していたはずだが現実にはそうではなかったという矛盾が生じることになり、長年の謎であった。
しかし、近年の素粒子物理学の実験で、素粒子のスケールでは物質と反物質では反応が必ずしも反転した形で起こらないことがわかった。つまりこの宇宙では始まりの際に、反物質よりも物質が僅かに残るという意味で優勢だったため、我々の現在があるということである。そしてこれに伴って両宇宙の時間の対称性もまた疑問視する向きが出てくることになった。
そしてポケモンの世界にはその反物質を司るという、やけにざっくりと、それでいて突出してスケールの大きな設定を持ったギラティナという生き物が存在する。
彼は伝説上の始原の時代にアルセウスによって生み出されたものの暴れ者だったためにこの世界から追い出され、「やぶれたせかい」に逃げ込んで生きていたという。世界のいくつかの神話に共通するパターンだが、日本で言えば日本神話の月読命(ツクヨミノミコト)や須佐之男命(スサノオノミコト)など、放逐された神々の神話がある。そして前述の宇宙開闢の際に「対称性のやぶれ」によって反物質がほぼ消滅したという宇宙論の顛末をも重ねているのだろう。「敗れた」と「破れた」が掛かった非常に上手い表現であった。
ポケモン世界の人間側からの言及としては、ハートゴールド・ソウルシルバーの物語で訪れるシント遺跡にてはじめて「はんぶっしつ」についてシロナから直接的に語られる。だがその内容はシリアスな割にこれまたざっくりとしており、当時は何が言いたいのかは不明であった。
だが、ミラーユニバースを含む多世界解釈や対称性のやぶれ概念は、赤・緑からスカーレット・バイオレットに続く「バージョン世界」の微妙な違いを説明するのに、株式の会社の販促商法という味気のない側面から見るより遥かに楽しく有用な概念ではないだろうか。
特に最初に述べたように、ミラーユニバース概念は、スカーレット・バイオレット世界についてパラドックスポケモンや結晶体についてある程度説明が出来る可能性がある。
対称性のやぶれを示唆する結晶体
恐らく結晶体はそれ自体がある程度「やぶれている」か、「やぶれた」ものに関連すると思われる。とてもわかりやすい演出として、結晶体は単純な鏡像反射をせず、主人公が結晶体を覗き込む時、結晶体に「映る」主人公は後ろを向いており、離れる程に像は大きくなる。これはこの結晶体を構成する物質および時空の対称性が通常ではないことを示したいのではないか。
もちろん現実的に何かしらの要素が反転した物質を結晶化できたとしてこのような性質を示すかは誰も見たことがないしわからないが、ジャンルが違えばホラーであるこの異常現象の描写には意味があるはずである。
また結晶体が直接的に反物質であるならば主人公と触れた瞬間に対消滅をするのではないかという恐れはあるものの、後述するがエリアゼロが非因果的な領域であったり、結晶体は反物質そのものではなく反物質的なものとこの宇宙との間で何らかの仲介を担う性質であるといった仮定を設ければ、回避できなくもなさそうである。
そこで冒険的に、この変な鏡像とエリアゼロがタイムマシンの稼働に寄与する空間であるという根拠のみから、結晶体の性質を反物質的かもしくは反物質と物質を急激な対消滅をさせずに繋ぐ「側面がある」あたりのラインで仮定してみる。
エリアゼロの状況 金属プレートはただの状況説明?
エリアゼロの金属プレートは、まずは数々の指摘の通り光円錐のことであると思う。光円錐とは我々の宇宙を説明する四次元空間を三次元として描く図であり、逆向きの二つの円錐とその間の平面から構成された構図から時空を説明する。平面に対して垂直な軸は時間軸となる。時間ゼロは観測者にとって「いま」であって、上は未来、下は過去である。平面の広がりは空間を表しており、平面ゼロは「ここ」である。
一般的には時間軸のひと目盛り一秒に対して平面のひと目盛りは約30万キロであったり、一年に対して1光年であり、光速が基準である。この宇宙では光より速いものはないので、宇宙の膨張速度をどんなに大きく見積もっても光速を超えた先に我々と同じ物理法則の事象は存在し得ないとする。つまり、一秒に30万キロが宇宙の広がりの最大値であるとし、この空間グラフに宇宙の未来を描くと、時間ゼロから時間軸の未来に向かって45度の頂角の逆転した円錐が生じる。この範囲が存在し得る我々の宇宙の未来である。そして過去も真逆に同じようにすると上部の円錐が絶対未来、下部の円錐が絶対過去の時間となり、この図は我々の宇宙全体の事象を表すことが出来るということになる。ガラスから外には出れない砂が下から上に昇っていく砂時計のイメージが当たらずとも遠からずである。
この見立てから言えば、金属プレートの光円錐を横から見たような図もそれにあたるが、「00」は「いま・ここ」であるが未来と過去が重なっており、エリアゼロはそういった状況に置かれていると読める。こういった過去と未来の曖昧な領域は、「大域的双曲性」の領域と言われ、その重なる部分は非時間的集合であって、因果律が曖昧となっているとされる。なるほどパラドックスポケモンやいつからいるかもわからないこの状況はまさにそれである。恐らくこの金属プレートはそれなりに科学の発展した時代の者が、他にここに来た同等以上の誰かが迷わないように置いたのであろう。
当然、「えっ誰が置いたのそれ?」となる。そして同時に、金属プレートがメッセージであると言う点からも少し気になるところが出てくる。そもそも誰かに残すメッセージとして、同じかそれ以上の知識水準である誰かであれば調べればわかるであろう状況説明をするためだけに、高度な冶金技術を用いてまでしてこんなものを残すだろうか?
ここからは、金属プレートに彫られた図がまず単純に光円錐であることを前提とするが、それだけではない可能性も含めて、考えていきたい。
異常な時空の領域が放置された惑星の危機?
エリアゼロが未来と過去の重なる領域であって、因果律が曖昧にあるようであることは述べた。だがそれに何の問題があるのであるかと言うと、突拍子もないが宇宙の消滅の危機である可能性がある。アインシュタインの方程式から導き出せる事象として、「大域的双曲性にある領域において高いエネルギーがある状態では、特異点が生じうる」というものがある。(あったと…思う) エリアゼロのような領域においては、測地線の完備性が失われる(事象の地平面との境界を壁と見た時にそれがやぶれるみたいなこと…で合ってる?)と現れてしまう、らしい。
特異点とは諸々の条件で重力が無限大になる場所のことで、普通は事象の地平面に囲われてブラックホールとして存在している。それが事象の地平面に囲われず「裸」の状態で出現すると時空が極度に歪んでしまってブラックホールを形成するかもしれないし、新たな宇宙を生じたりするかもしれないとされている。
だが宇宙開闢から百億年以上経ってもそれが起こっていないということは、何か絶対的な自然法則があって特異点は裸で出てこれないのではないか、という仮説を立てたのが2020年にノーベル賞を受賞したロジャー・ペンローズである。この仮説を「宇宙検閲官仮説」という。過激な裸の本が出回らないために検閲してる人がいるのでは?みたいな説である。
要するにエリアゼロみたいな時空の中で、高エネルギーを持つ結晶体みたいなのがたくさんあると、ブラックホールやら現行の宇宙が存続している均衡が崩れてビッグバンやらが生じうるんじゃないか?ということである。(ただし我々の宇宙においては近年、裸の特異点がそのまま存在している可能性が明らかになり始めており、あくまでもやや古くなりはじめた仮説である。)
そして金属プレートが示す状況と結晶体から考えると、これがそのままパルデアの現状であるようで、主人公目線の物語では語られぬが、一地方どころか全宇宙の危機なのかもしれない。穏やかなパルデアの雰囲気からして俄かには信じがたいが、考えれば毎度天変地異だの最終兵器だの異次元がどうだのの物語であるし、あながち否定もできまいということで考えを進める。
(見ての通り、詳細な理論は理解も把握もしていないので、まあ「時空の重なり」と「暴走するエネルギー」がそのままにされていることから、思ったより危ういことが起きうるような状況設定にあるのでは?という程度にしておきたい。また、古代の神話が当時の知識で世界を描こうとして今の人から見ると不思議な物語に見えてしまうように、ポケットモンスターという物語もまた現代で分かり得る知識に制約されたものであることも大前提である。そこには現代の価値観に合わせた都合のよい舞台装置が組み込まれていたり、あえてぼやかすことで繋ぐところもあるだろう。故にこの辺りの解釈は突き詰めたり仮説同士で殴り合っても世界をどうとでもできる神の下の子羊同士で唾を吐きあうようなもので、あまりにも注力することは無益と考える。)
では、誰が時空をずらしたのか?
そのような力を持つ存在は、設定を鵜呑みにするのであれば、アルセウスと彼が生んだ三匹くらいしかいない。そしてトラブルの種であるこの場所の性質からしても、容疑者としてまず浮かぶのはギラティナさんである。伝承上この生き物は、自らを生んだというアルセウスに歯向かい、人間を傷つけたために罰されて「やぶれたせかい」に逃げ込んでいた。しかしパルデア地方の物語の150年前に反抗を企て、ヒスイ地方で「光る」「大きな」ポケモンたちを従えてアルセウスに挑戦する。しかしアルセウスに遣わされたヒスイの主人公に懲らしめられるとそれを諦め、ヒスイ地方に留まり同地を守ることを選択した。そしてその10年後(パルデアの物語から140年前)にパルデア地方の大穴でテラスタル化した「光る」ポケモンや「大きな」ヌシポケモンが発見されるようになる。そしてヒスイ地方はその後シンオウ地方時代に移るが、光り輝いたり、大きくなるポケモンは存在しなくなっている。このような一連の共通するポケモンの反応の大元の原因がギラティナさんではなくても、結晶体がギラティナさんの行動に由来するものの可能性があり、ギラティナさんには「逃亡中は具体的にどこにいたのか」と聞きたくなる。 (ただし、大きくて光っているポケモンというのは、現代においてはレンティル地方でも「イルミナポケモン」として出現する。この島の親玉はゼルネアスであるので、この現象がギラティナのみに付属するわけではないという別の仮説が立つ余地はある。ただ統一的に理解するのであれば、生命現象をドライブするある種のエネルギーの濃度が高い場所においては、ポケモンは光ってデカくなるということは言えるだろう。)
そしてここでは、キタカミがギラティナと関わっているのではないかという指摘をしたい。そもそも150年前のヒスイと現代のパルデアと言っても、時空を「やぶれる」生き物にとってそこまで遠くはない。そもそも、ヒスイとキタカミはガチグマが泳いでこれる位置関係にあり、恐らく北海道と岩手の距離感を想定してよく、例えいつでも自由に「やぶれる」わけではないにせよ、飛行能力を持っているギラティナとしては何の問題もないだろう。そして更にキタカミとパルデアは恐らく結晶体を通じて何らかの移動手段がある。ギラティナにとっては好都合であるばかりか、彼がやぶった可能性の方が大きい。
何よりもキタカミの管理人という人間は、何やら「推し」のともっこ像は僻地に建て、オーガポンに至ってはほぼ無視し、モモワロウにも何も言及しない。ではキタカミセンターの神社のような建屋は何を祀っているのかという残された疑問がある。
ここでシント遺跡に描かれていたギラティナの紋様は赤い三角形であることを思い出すと、三角形の中の模様はキタカミ型の鳥居のようなものに非常に似ている。シント遺跡を岐阜のあたりと比定するならば、距離的にはむしろキタカミの方がシンオウに近いことが示唆され、ヒスイから南下した根強くかつ秘匿されたギラティナに関する信仰が残存している可能性は十分にある。
また、パルデアにおいて太陽信仰を礎とするのであろうパルデアエステートやベイクタウンの巨大遺跡が真東を向いているのに対して、キタカミセンターの社は西を向いている。後述するが、この惑星の月は何故か西から昇ること、ギラティナは月読命をモチーフの一つとしていることなど、この一致は関連性を疑っても良いはずである。
つまり極めて古い時代にヒスイ地方を追われたギラティナは離れたキタカミに逃れ、時空を「やぶった」か「もともとやぶれていた」かはわからないが、移動用のポータルとした可能性がある。鬼が山の山頂付近はそのために因果律を失ったため、死人に出会えるという事象が起こり得たのではないか。そしてギラティナと共に移動したのか、それとも後からやってきたのかはわからないが、今はシンオウで失われたヒスイガーディの狛犬があることからも、このキタカミセンターという何らかの信仰施設がヒスイ由来であることは確かであり、ウォロのようにギラティナを利用したり、信仰したり、畏れたりしていた一団が主神の名前を隠し、社を建てた名残なのではないか。
以上よりこの仮説の結論としては、時空は生き物が介在しない段階で元々裂けていたか、何者かの故意であるなら過去のギラティナかそれに類する存在がやらかしたものであるとする。次は、大穴に残る地上絵を手掛かりに、裂け目がどこに開いてしまったのかを考えていきたい。
地上絵の仮説 ようやく明かされた地方の位置関係?キタカミセンターは何の中心か?
キタカミにいる「管理人」は公民館の管理人のような顔をしながらずっと「キタカミセンター」の社の前に佇んでいる。そしてモモワロウが悪さを働いた際だけは消えていた。結局名前も明かされず、謎である。
そもそも「センター」というのは何なのか。文字通りに取れば何かの中心であることである。だが少なくともキタカミセンターはキタカミの物理的な中心ではない。そこでこの章ではパルデアとイッシュから見ての「センター」なのではないかという説を考えてみたい。
検証した結果は後ほど書くが、空をやけに早く動く太陽の動きから各地が朝になるタイミングを測って時差を出すと、パルデア、キタカミ、イッシュは現実のマドリード、盛岡、ニューヨークとほぼ一致している。つまり、この三つの地方はモデルとなった我々の地球の地域と少なくとも同じ経度上に存在している。
また三つの地方の緯度も現実とほぼ同じとするならば、これらは概ね北緯40度に位置しており、惑星スケールであればほぼ同一平面にあると見做せる。これを北半球直上から見るとどうか。キタカミから北緯40度の円に二本の線が引ける。そしてこれは地上絵の意匠の一部として見れないだろうか?
パルデアとキタカミ間の時空がやぶれているのはオーリムとフトゥーの「転移」によるシーンが証拠となるが、イッシュにも人が消えるというジャイアントホールが存在しており、今思えばそのまま「大穴」である。またブライアが設置した結晶体エネルギーの照射球などもある同様の作用が生じてもおかしくないはずである。そしてその結晶体ホールのネットワークの「センター」が二等辺三角形状の鋭角部に位置する、ギラティナ信仰か、時空の歪みを知り得る何者かがいるキタカミなのでは?ということである。
そこでいまだブライアとアカデミーの両者にコネクションを持つキタカミの「管理人」の地位や立場がいまいちはっきりとしていないことに注目したい。
怪しいキタカミ「管理人」はこの宇宙を守る英雄?
では、この宇宙のやぶれの原因の生き物の信仰に関わっている気配がありながら何も語らず、子どもに100万円をせびるおどけた坊主を、あえて「管理人」の名からロジャー・ペンローズの有名な「宇宙検閲官仮説」と、毛がないことから「ブラックホール脱毛定理」の大仰な擬人化としてデザインされたキャラクターであると仮定してみる。
前者の「宇宙検閲官仮説」とは、前述もしたがブラックホールの中にある「特異点」がブラックホールから出てきてしまうと理論上宇宙は大変なことになるが、開闢から百億年以上の歳月が経ったこの広い宇宙で一切それが起こらなかったことを鑑みると、まるで「検閲官」が存在するかのように特異点は絶対にブラックホールから出てこれない自然法則が存在しているのではないか、という仮説のことである。そして後者の「ブラックホール脱毛定理」はブラックホールにおいて観測可能な量が質量、電荷、角運動量の物理量だけであり、これ以外の情報はブラックホールの事象の地平面に落ち込むと消えてしまい、外部からは観測されないという定理である。何とも不思議な名前をしているが、「ブラックホールには他に何も情報がない」から「つるつるだ」ということで「ブラックホールは毛がない」という意味で名付けられたものである。
ここで重要なのは、この冗談のような名前の「脱毛定理」から「宇宙検閲官仮説」は今のところ成立しており、もしも神か仏か超越的存在がこの定理を崩したとしたら理論上、我々の宇宙は「裸の特異点」が生じた瞬間に消失する危機が生じうるということになる。(ただ、今後新たな発見や理論があれば何もかも覆る可能性は何度でも注意書きをする)
…といったことを間に受けると、彼は裂けてしまった時空から、特異点がこの惑星に現出しないよう「余計な何かを抜くことで管理する」人間のデザインとしてハゲていることが考えられる(脱毛定理を体現するために気合を入れて剃っているのかもしれないが)。その場合、彼はギラティナの信徒ではなく、ギラティナの影響で起こる凶事を鎮め封印を行う者となり、そのペルソナはまさに神の怒りを鎮めようとする神主のそれである。
つまり、ギラティナは時空のやぶれと月読命といった宇宙物理学と日本的信仰の災厄的側面のイメージの合いの子の「神」であったが、管理人とは宇宙を乱す「毛」が生えぬように「検閲」することで「管理」し、またその体裁はギラティナという現前する神を鎮める祠の「神主」という形を取っている。彼を構成する要素は全体としてギラティナを神として認めながらも反ギラティナ的であり、科学と信仰の両方のイメージを背負ったギラティナという「災害」に対して彼もまた科学と信仰の両方のイメージを背負って「防災」を行っている者であるかもしれない、ということが見えてくる。
そして彼はキタカミセンターの社から主人公や外来の人々の目を逸らそうとする。離れたともっこ像を観光地化するのはそういった側面もあるのではないか。そうした秘密主義は伝統もあるかもしれないが、明日世界が滅亡することを知り得たとして、誰かに言っても頭のおかしな団体扱いをされるか、混乱を招くだけでどうにもならない事柄だからかもしれない。確かに、ポケモン世界では派手で目立つ意味の理解も難しい無謀な野望を抱き試み散っていくアレな大人たちの陰で、子どもが知らない何か大事そうなことを知り、何かを行い、そしてはっきりとは語らない大人たちも存在してきた。彼もまたそうなのではないか、ということである。
実際に彼は「主人公」をブルーベリー学園の人間と結びつけ、共にブライアを最深部に至らせ、結晶体がイッシュに運ばれる流れの最初から関わっているなど、彼が何かしらの「管理」を行うための活動は積極的に行っているように見える。個人的には、地上絵に示される(かもしれない)ようなこの惑星にあるやぶれの構造を知っていて、結晶体の移動によって何かしらのバランスを取ることを意図したのではないかと思うが、一旦置く。
4つの世界?
ここで大穴の地上絵に立ち返ると、「センター」は円の内部の三角の鋭角にあたるキタカミであり、そこに管理人がいるとする。すると二本の直線と円の交点の一つはパルデア、もう一つはイッシュである。そして全体を見ると同じ図形が四つあり、一つの円の全体から見て内側になる直線から出た直線が、次の円の直線の片方を成している。これらが前述の通り惑星の北半球であり、ワームホールか時空の歪みややぶれが生じうるルートを示しているのであれば、このワームホールは別の円、つまり別の宇宙への接続が示唆される。この三角形からほぼ垂直に次の円へ向かう直線と円の交点が示す場所は、実際ハワイ(北緯20度)よりも緯度が若干高いがアローラ地方ではないか。アローラは未来や過去どころか別次元へのホールが生じる地である。そしてアローラと重なるイッシュは、ブラック・ホワイトで描かれたジャイアントホールつまり「イッシュの大穴」にて「境界」の名をもつキュレムとの関わりで主人公が消えた可能性がある。こういったことから、地上絵は四つの世界の内外のワームホールの路線図ではないかという思い付きが得られる。
(ここでもう少し妄想を飛躍させるなら、この世界においてはアローラも実際にハワイと同じく北緯20度線にあり、ホールを通った者の呼び名の「FALL」とは、歪んだ空間に落ちたものと言うだけではなく、パルデア、キタカミ、イッシュの北緯40度線の円から隣の世界の北緯20度線のアローラに「落ちた者」のことかもしれない。イッシュの最初の主人公もこれに消えた可能性があり、ジャイアントホールという大きな穴に落ちたと言う意味でもFALLである。そうすると、この図は反時計回りに上部へ進む「螺旋構造」の断面であるかもしれないし、空間的な段差は存在するが単にエッシャーの永遠に続く階段の錯覚絵のように空間を均して描いているのかもしれない。そして段差が存在するのであれば「のぼる」力がなければ基本的には時計回りにしか進めないという可能性も出てくるが…与太話もいいところであるのに更に逸脱してきたのでこの話も一旦ここで終える。)
ここで今までのバージョン世界を思い出すと、ブラック・ホワイトで示された世界線はブラックシティとホワイトフォレストの存在の差で二つ、無印の物語開始からブラック・ホワイト2の2年後までにプラズマ団によってキュレムが捕獲されるかされていないか二つの合計四つであり、アローラの物語ではサン・ムーン、ウルトラサン・ウルトラムーンの四つである。そして本作ではスカーレットとバイオレットと、それぞれのオーリムとフトゥーにホワイトブックが渡る世界である。
確かにウルトラホールで示されたように世界ないし世界線は無数に存在することも確からしいが、バージョンの名を得た、または明確に並行世界であろうものが四つ程度の数を超えたことは今のところなかったと思われる。これはいよいよミラーユニバースどころではなくなってくるし、議論が発散するのでこの場では構造全体には言及しないが、「主人公」が現れることでカタストロフを回避していく世界線が四つ程度強く近く結びついて存在し、これらが本シリーズの舞台であるという風に考えることもできる。またパラドックスに限らず、大穴からレックウザが飛び出てきたり、てらす池から急に現れたミロカロスなど、それぞれのバージョン世界の生態系についても、ワームホールによって影響し合っていることが強く示唆されている。
ただ、ここで重要なのは地上絵は各バージョン世界がやはり繋がっていることを示しているのではないか、ということである。
誰が金属プレートと地上絵を残したか?
では、最初に触れた金属プレートはエリアゼロの時空が未来と過去の重なった非因果的状態の中にあることを示し、地上絵はどうも次元を超えて隣接するいくつかの宇宙の構造を示しているように思われた。当然、このメッセージは誰が残したのかという疑問が生じる。
まず、この二つの遺物の特徴は二つの点で一致しており、それは「守られている」ことと「世界の現状を伝えている」ことである。そして異なる点は表記法の「新旧」であり、物語のテーマからしてもこの二つは対になっているのではないだろうか。地上絵は極めて古い表記方法であるため、あまり細かい情報は書けなかったようだが、邪魔になる強力なポケモンもいる見通しの悪い薄暗い洞窟の隅っこで円や直線、角度についても高い精度を保ち、かつ対称性のある大きな図形を描くのは生半可な技術ではない。そして岩場に隠された場所に描かれることで生半可な者が到達することから「守られている」。これを書いた者は力があり、技術も持ち合わせながら他に表記の方法がなかったと思われ、そのまま古い時代にいた人間が描かれたと見てよいだろう。古代パルデア王国時代の儀式の跡とみる向きもあるが、当時の技術でこの場所に辿り着くことは至難であると思われることや、何らかの呪術を行うには場所として象徴性が低いことからここでは一旦退けておく。
これに対して化学的、物理的な耐久性を高めた高度な冶金と合金の技術によって造り出された金属プレートは、現代の人類が情報を長い期間遺せる可能性が最も大きな表記方法であり、その方法自体によってあらゆる事象からメッセージは守られる。そして金属プレートには現代のパルデアの都市が描かれており、後述するが少なくとも古代パルデア王国時代のものと思しき遺跡群が都市だった時代ではないことがわかる。そしてヘザーが発見した200年前の時点でも経緯不明なものであったので、シンプルに現在よりも先の時代の者によって書かれたと考えてよいと思われる。
では具体的に誰かと言えば、明かされない登場人物がいるという可能性もあるが、順当に考えれば、過去と未来に飛んだとされるオーリムAIとフトゥーAIである。だが、それらが同じ場所にあるということは、エリアゼロがスカーレット世界とバイオレット世界で交錯している場所であると考えなければ成り立たず、地上絵の内容が世界の連なりを示している説を強化するものと考えて良いのではないか。そうすると、オーリム博士とフトゥー博士が、彼らの楽園のためにこのように複雑な時空のどこにホールを開いたのかが問題となってくる。
閑話休題 「ユニオンサークル」の意味と「主人公」らの物語の構造
ちなみに、世界を円と表すのであれば、「ユニオンサークル」はプレイヤー同士のサークルつまり世界を一時的に一つにするという解釈が出来るわけであり、「主人公」という「モブ」ではない、意識的ではないにせよ何かの使命を帯びた者に許されたメタ操作と言える。
それぞれのバージョン宇宙における惑星では生態系が異なり、主人公たちはこれを超えて互いの世界にいない存在を交換することで「補完」し合う。そして物語を進めることで暗に何らかの破滅を防いでいる。恐らくそのカタストロフの先に、ウルトラホールのような世界が広がっているのだろう。
これらは失われたり失ったものを取り戻して世界を良い姿に近づけ合うことであって、陰陽が表すものであり、宇宙論から見ればやぶれを注意深く計算することであり、生き物の体内においてはDNAのエラーの訂正機構のようにも見え、正常な世界が進行する際に現れるフラクタル構造を表現しているかのようである。
一旦終わり
ポケットモンスター世界、スカーレット・バイオレットではガラルと比べても表現の幅が圧倒的に広がっているというか、もはや常人のそれではないというか、本当にあるような楽しくて面白い世界を作りあげてやるぞという意気込みと異常と言えるほどの練り込みがどこにでも見出せて、ほんとすごいなと思いますよね。本当はこちらもだいぶ作り込まれているパルデアの歴史を考えたかったのでタイトルをこうしてますが、物語の根底に触れるところとなるとまあ、五里霧中というか、難しいですね。この記事も何か考えが変われば全然更新しますが、いいところにして次に進みたいですね。
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