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印刷について①〜初めての本作り その6〜

出版の事を全く知らない者が悩ましい事として、最終的な本という形にこだわるには必須の、印刷、製本はどこでするのか、という問題です。

製本家の栃折久美子さんの本「えほんをつくる」によると、ヨーロッパでは長らく、本を売るということは中身を売る事だったとのこと。それを蔵書として製本するのは、本を買った方の個人的な趣味によるとのことなのです。
それでルリユールという製本家のお仕事が成り立っていたのでしょうか。中身は同じでも、違うデザインの製本でそれぞれが所蔵するということがあったわけです。
なんと!それ、楽しそう!
しかし、明治時代、最初に西洋式の製本技術を日本に伝えたのがイギリスだったので、版元(出版社)で製本まで行なって市場に商品として出す方法は、イギリスから伝わった出版の流れであったとのことです。
個人で製本をする時代には生きていない私たちがイメージする本という形式は、出版社から完全に出来上がった本として、同じデザイン同じ装丁のものが店頭に並んでいる状態です。

そんなわけで、版元である私が印刷製本までをどこかに頼まなければならない。

デザイナーさんと同じで、その点も真っ白な状態でしたが、たまたま最近自主制作で本を作った友人がいて、彼らに聞いた印刷所数カ所に連絡をして、親身な返信をしてくださった藤原印刷さんにお願いすることにしました。
印刷所も早めに決められたのは安心でした。

藤原印刷は、松本に本社がある印刷会社ですが、都内にも支社があり、うち合わせはそちらで行いました。メインで切り盛りされているのは藤原ご兄弟。
デザイナーの飯野さんとはじめて東京で藤原章嗣さんとお会いしたのが6月上旬でした。

お話によると、私たちのように少部数でも個人で本を作りたいと相談に来る方は確実に増えていて、忙しいとのこと。出版の世界も少しづつ変わってきているようです。

初版の本を持っていき、大体のぺージ数や希望部数、表紙は布張り、できたら箔押しでタイトルを入れ、可愛いくて特別感のある感じにしたいなど、できるかどうかはさておき、希望を伝えました。
本文の紙サンプルや、表紙用の布など見せてくださり、布張りの本はだんだん減ってきていることもあり、廃盤になるものも多いので早目に決定して量を確保した方が良いとアドバイスをもらいました。
大小田さんとは、表紙に浅葱色〜青辺りの色が良いかなと話していたので、その辺りのサンプルを数個持ち帰りました。

また、製本方法についても、上製本(ハードカバー)、並製本(ソフトカバー)、スイス装(片側のみ表紙についている)、ドイツ装、フランス装、コデックス装、上製本でも背の部分に全部糊付けをする(タイトバック製法)のか、背から浮かせるもの(ホローバック製法)かなど、色んな形態があることを教えてもらいました。
背から離れるホローバック製法は、本を開いた時にフラットになるので、声に出して読むことを想定しているこの本にはこちらを採用。

左から、オリエンタルシルク、仁コットン、江戸上布

また、当初、表紙の絵柄として選んでいた大小田万侑子さんの染色作品「春日の神さま」が、箔押しにするには細かすぎるのではないかということで、再検討することになりました。

最初の表紙案

紙は、いくつかのサンプルを見て、持ち帰り案件となりました。

新しい言葉、情報が飛び込んでくるので、メモもろくに取れずで最低限、決めなければならないことは頭に収めて帰った記憶です。

ここからしばらく表紙について考え直すことになりました。
当初希望だった細かい絵柄を優先する場合は、布ではなく紙の表紙に印刷するだけでいくか、布表紙+箔押しを優先してデザインを考え直すか、振り出しに戻ったので、あーだこーだと選択肢を広げて考えていきました。

後日、印刷所から連絡があり、表紙用の布はサンプルとして持ち帰った3種類ともに在庫があるとのことで、それぞれの価格もわかりました。
化繊、綿、麻と違う素材のものを持ち帰っていたようで、価格にも倍以上の差がある事がわかりました。

色んな選択肢を並べて悩みながら、最終的には、布表紙+箔押しを優先して、デザインを替える方向で進めました。
布に決めた上で、また他の色がいいのでは、、など、最終的に採用した仁コットンの青色に行き着くまでにも悩み、小さな布サンプルから本になった状態を想像するのは、素人にはなかなか難しいことです。

見返しについても、デザインは大体決まっていたものの、白地に模様を入れるのか、青やカラーの見返しに白インクなどで模様を入れるかなどの案が出ましたが、最終的には本文と同じアラベールに薄いブルーで模様を印刷、という形に決まりました。

表紙と中面の紙、見返しが大体決まったところで、束見本を作ってもらいます。
束見本は、製本の感じを見るために作られるもので、中の印刷はなく、ページ数や紙の厚み、表紙、見返し、全体のバランスをチェックできます。
6月末に、束見本ができてきました。

仁コットンで決めた表紙が可愛くて気分が上がる!

ここまできて、大小田さんも交えて、表紙のデザイン、訳章のデザイン、新装版で新しく加えた呼吸法の章をどんなデザインにするか、著者の大小田さん、デザイナーの飯野さん、私の3人で直接会って話し合いました。
初めての本作りの中で、出来上がりを頭の中だけで想像するのはやはり難しく、束見本ができたことで形が見えてやっと方向性がクリアになり、希望も伝えられるようになっていきました。
Zoomなどで話すよりも、直接会って束見本を囲んでいろんな可能性について話していると、お互いの感覚がわかりやすく、3人の共通認識ができます。やはり、紙の本は、モノを目の前にして触りながら考えるのが一番納得するのですね。

その後、2週間ほどで、飯野さんから章扉や感訳部分のデザインが上がってきて、それにはわたしたちが希望していた、絵本ような世界観があって、とても楽しい本になりそうな予感が!
表紙のデザインも新しく考え、箔押しの色をどうするかという段で少々悩んだものの、結局このシルキーマロンに決めました。

箔押しのインクはシルキーマロンに決定

印刷について②につづく。


今までの記録はこちら

本づくりの始まり〜初めての本作り その1〜
やまとかたり 〜初めての本作り その2〜
初版本から新装版へ 〜初めての本作り その3〜
大小田万侑子さんの挿絵 〜初めての本作り その4〜
デザインのこと 〜初めての本つくり その5〜


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