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【地球の冷やし方 ぼくたちに愉しくできること 】  レビュー

『地球の冷やし方』とはどんな本?

『地球の冷やし方』は、工学博士である著者の藤村 靖之氏が科学的な知識を用いながら、さまざまな視点で地球の気温上昇を抑えるための知恵や工夫を紹介している本である。
愉しく・誰でも・簡単に・支出をおさえて、幸福度が上がる』をテーマに、エネルギーになるべく頼らない生活を提唱している。

『地球の冷やし方』の素晴らしさはここ!

インターネットでは探せない良質な情報

私が言いたいのはこの本に載っているようなアイデアはインターネットでは出会えないよ、ということ。
ニュースなどで気候変動を取り上げる機会も増え、じゃあ私たち個人には何ができるのかと具体策をインターネットで調べる人もいることだろう。
ただ、私も調べたことはあるがそのくらいもう知ってるよと言いたくなるような情報が多いのだ。
その反面、地球の冷やし方にはエネルギーに依存しない家の構造日常の習慣、他国の実例などを詳しく解説から提案までしているので、気候変動に対してなにか自分にできることはないかと考える人にはぜひ読んでもらいたい一冊。

科学的な根拠と具体的な数値で、説得力と信頼性がある

著者は工学や物理などの知識をふまえてエネルギーに依存しすぎない社会を提唱しているので、ほとんどのアイデアには具体的な数値が載せられていて内容の信頼性が高い。
けれど小難しい内容ではなく、文系の私でもさらさらっと読めたしちょっと難しいなと思う箇所もあったがそういう所をスルーしてもアイデア自体は分分かりやすいので大丈夫。

アイデアや工夫がユニークかつ知らないことばかり

気候変動を食い止めるためのアイデアを出しなさい、と問われたらあなたならいくつ出せるだろうか?
本書では77個も具体的なアイデアが記載されていて、フツーに暮らしていると気づかない&知らないようなアイデアばかりなのだ。
樹々よりもコンクリートの面積が多いような地域で暮らしている私には"わらと土で作る冷房不要の家に住む”とか"鶏と住む”などのアイデアは絶対に浮かばないし、私と似たような暮らしの人は「え、なんで鶏と住むことが気候変動を止めることと関係あるの?」と思うことだろう。
真似できることもあれば簡単にはできないこともあるが、気候変動に興味のある人であればチャレンジしたくなるようなアイデアが盛りだくさんとなっている。

写真やデザインが良い

本書の写真を見たときになんとなく懐かしい気持ちになった。なぜなのか考えたところ「あ、これ学生時代の社会の教科書とか資料集のテイストに似てる!」と気づいた。
やさしくて温もりがあって少し乾いた質感の写真が屋台骨のように各アイデアを支えており、また本書に使われてる文字(フォント)が読みやすいので横書きの文章が苦手な私でもすらすら読めた。

タイトルも良い

たとえば、『地球沸騰化を食い止める77個のアイデア』なんてタイトルだとちょっと堅苦しいし、著者の人間性やスタンスは表現しきれてないなと思う。
地球の冷やし方」というスケールが大きいものをまるで小さいもののように扱うタイトルのおかげで、気軽に挑戦できそうなアイデアが載ってそうな感じも出ているし、著者の人間性も感じられるのでタイトルが個人的には推しポイントである。

こんなアイデア知らなかった5選

『地球の冷やし方』には知らないアイデアがたくさんあったのだけど、その中でも個人的に刺さったアイデアをイラスト付きでいくつか紹介しよう。

ウズベキスタンは夏用の家と冬用の家を建てる

ウズベキスタンの冬用と夏用の家は構造がぜんぜん違う

ウズベキスタンでは多くの人が敷地内に夏用と冬用の家を所有しているらしく、冬は南側に断熱性の高い家で、夏は天井の高い風通しの良い家で過ごす。
物をあまり持たない文化らしく、引っ越しも1時間ほどで終わるとのこと。
日本には省エネルギーで暮らすための工夫やシステム(例:オール電化)はあるが、エネルギーそのものを極力使わずに生活するシステムは現代にあまり無いように感じる。
季節によって家そのものを変えるなんて大胆な発想・・・ウズベキスタン人・・・スゴい。日本の都市部では難しいかもしれないけど土地が安い地域なら真似できるんじゃないだろうか?
とにかく、家は一つだけという常識に囚われなくていいということ。

薬缶やかんは電気ケトルに比べて温室効果ガスの排出量が少ない

電気ケトルではなくて薬缶を使ってみる

我が家では長らく電気ケトルを使っていたが、この本を読んだあとケトルが壊れたので薬缶に切り替えた。
なんと電気ケトルは薬缶にくらべて温室効果ガスの排出量3倍くらい、光熱費も薬缶に比べて3倍になるらしい。
たしかに電気ケトルの方がお湯は早く沸くのだけど、早く沸かすために使われるエネルギーや光熱費を鑑みて冷静になると「はて、どうして私はそんなに急いでお湯を沸かしていたのだろう・・・?」と狐につままれたような気分になる。 
私の生活には1分1秒を争う早さでお湯が必要じゃいと気づけたし、薬缶でお湯をわかしてる間に台所でできることは沢山ある。

圧力鍋は燃料消費量が電気炊飯器に比べて10分の1で済む

電気炊飯器と圧力鍋。味の良し悪しは変わらないようだ。

圧力鍋でご飯が炊けることを知っている人はどのくらいいるだろう。
電気炊飯器は予約や保温ができて便利な反面、私たちが思っているよりもはるかにエネルギーを消費するようで、家庭用電力消費の3.4%を、日本全体では標準的な原発3基分の電力を消費しているらしい。
日本の主食ともいえるお米を炊く機械がそんなにもエネルギーを必要とするなんて・・・信じがたい事実だ。
私はまだ圧力鍋でご飯を炊いたことはないのだけど興味がある人は試してみてほしい。

ドイツはゼロウェイストの意識が高い

ドイツは量り売りが常識。というかゴミをなるべく出さないのが常識。

ゼロウェイストという言葉はご存知だろうか。
ゼロウェイストは無駄、浪費、ごみをなくすという意味で、要はゴミを出さないようにしよう!という考え方のこと。
リサイクル先進国のドイツは調味料や食材の量り売りが常識で、日本に比べて包装容器にパックされた食材は少なく、包装ゴミに限ればドイツのゴミ排出量は日本に比べ10分の1以下だというからびっくりだ。
というか日本のスーパーは個包装をしすぎてて心底ウンザリしている。
買い物するたんびにどんだけゴミが出てどんだけ分別しないといけないんじゃーいと思っている。じゃがいもとかにんじんとかその他もろもろ山積みで良いよ!
日本にも量り売りの文化が浸透して欲しいし、包装する必要がない量り売りの存在を多くの人に知ってもらいたい。

ライ麦でストローを作る

プラスチックストローは捨てられ過ぎ。

アメリカではプラスチックのストローが1日5億本捨てられている。日本では推定1日1億本、年に2トン
海亀の鼻にプラスチック製のストローが刺さった動画が有名になったことは多くの人が知っているはず。
最近では紙製のストローを使用する飲食店もめずらしくないが、紙製だと廃棄の過程でCO2排出量がプラスチック製に比べて4.6倍とかえって多くなるそうだ。
上記の問題を解決する良いアイデアが"ライ麦の茎でストローを作る"というもの。ライ麦の茎は筒状になっているので、ストローにぴったりだしもちろん土に還る。
解決策として100点満点な気がするのでプラスチック製のストローを作る会社はなる早でライ麦畑を育ててライ麦ストローに切り替えていって欲しい。

この本のレビューを書いた理由

気づけば4,000文字以上のレビューを書いていて、あれ?なんでこんな熱量あるんだっけとふと我に返ったのでここまで書く理由を思い出してみよう。

  1. 本書はとても面白い本(私的に)なのにインターネット上でのレビューが少ない

  2. 金額がお世辞にも安いとは言えず購入するには敷居が高い、なのにインターネット上で試し読みができない

  3. 色んな人に手にとって読んでもらいたい本なのに、とにかくインターネット上での情報が少なすぎる

と、ここまで書いてみたけどインターネットという言葉を連呼してるだけだった。

私は普段インターネットで本を買うことが多いので、インターネットで試し読みができずしかもレビューも少ないとは一体どういうことなのだと憤慨・・・では全然ないけど、とにかくやきもきした。

こんなに面白い本なのに・・・!

ならば私がレビューしてやろうじゃないかと腕まくりして気合いを入れて書いていたら最終的に4,500文字をオーバーしていた次第である。

もしかしたら著者に『実際に手に取って試しに読んでもらってから買ってほしい』という意図があるかもしれないが・・・もし意図があったらごめんなさい。

『地球の冷やし方』を読んで

この本を読み終わったあと、自分にもやれることがまだまだ沢山あるのだとポジティブな気持ちになった反面、もの悲しくもなった。

この本のアイデアは斬新なものもあれば『使い捨てじゃないカイロを使う』とか『家庭で植林する』とか『アップサイクルする』とか昔ながらの方法を再発見してそれを解説するようなものもあるのだけど、昔ながらの『知恵』や『工夫』ってどうして今に続いていないのだろう??

この疑問の答えに産業革命とか大量消費社会とか資本主義 etc.がからんでいるのは分かっている。
私自身、資本主義の恩恵を受けている場面はたくさんあると自覚している。
もちろん、地球は年々暑くなるし大量消費社会ってそんなに良いもんじゃないよね〜みたいな意識は広がりつつある。
それでも使い捨てカイロは毎年ドラッグストアにあふれるし、ときどき道端に落ちているのを見かける。

今さら写真と文章で丁寧に説明してもらわないと昔ながらのやり方の素晴らしさを理解できないところまで来てしまったのか・・・と。
私たち大衆はあらゆるものを取捨選択してきた結果、大事にした方がよいものも捨ててきたんだなぁ(泣)と改めて実感してもの悲しくなったのだ。

著者はまえがきでこのように語っている。

アインシュタインはこう言ったそうだ。「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセット(心の枠組み)のままで、その問題を解決することはできない」と。しかし、気候変動に代表される深刻な環境危機に直面してもなお僕たちは、問題を引き起こしたのと同じマインドセットのままで、その問題を解決できるかのように思い込み振る舞っている。
〜中略〜
ガソリン車が問題なら、車が無くても幸せに生きられる社会システムにかえてゆくことが、なぜ先に来ないのだろうか?
石油火力発電が問題なら電力消費量を減らしても幸せ度が上がるライフスタイルが、なぜ追求されないのだろうか?
(以下略)

地球の冷やし方 ぼくたちに愉しくできること(著:藤村 靖之)より

個人が愉しくできることは確かにある。
けれど、気候変動の大部分の原因をつくっている企業や社会システムという巨人はまだまだ腰が重そうだし、私たち人類の大多数のマインドセット(心の枠組み)は完成図が決まってるパズルのように隙がない。

だから、このレビューを読んでくれた人がこの本に興味を持ち、購入し、現代では当たり前になってしまった心の枠組みを取り払い、新たな枠組みを手に入れるきっかけになることを願っている。

新たな心の枠組み

おわりに一言

気づいたらまあまあ長文になってしまい、いったい何人の人がここまで読んでくれたかは分からないが、最後に著者のまえがきで沁みた部分を抜粋しよう。

アインシュタインはこうも言った。「狂気。それは同じことを繰り返しながら違う結果を望むこと」と。僕たちはいま狂気の時代を生きているのかもしれない。この狂気の時代を凛と生き、本書がその一助となれば本当に嬉しい。

地球の冷やし方 ぼくたちに愉しくできること(著:藤村 靖之)より

アインシュタインも藤村さんもイイこというね・・・!


なんというか、『地球の冷やし方』を読んで私も可能な限りこの狂気の時代を凛と生きていきたい、と思ったのです。


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