「光る君へ」うろ覚えレビュー《第4話:五節の舞姫》
花山天皇が突っ走る。ドラマですから。
ギアをあげてきている彼が即位し、花山天皇となった。
ドラマの中に表現されているような天皇の奇矯な振る舞いについては、残された説話を参考に創作されたものだ。
アレ、つまり「花山天皇が即位の際、神聖な高御座に女官を引き入れてことに及んだ」というのもそのひとつ。
もしかしたらその即位シーンがあるかもしれない、そしたら一体NHKはアレをどのように表現するのかと期待半分心配半分で、やっぱり期待していた。
が、ドラマにその場面はなく、代わりに源雅信がアレの噂を口にしただけだ。
だが花山天皇は我々の期待を裏切らなかった。
取り巻きたちの烏帽子をはたき落とすほどのご乱行と、彼がのち寵愛することになる藤原忯子とのアブナイ一夜の触りが描かれた。
せっかく起用した本郷奏多を無駄なく用いて花山天皇を表現した点を喜びたい。
ただし、時代考証ご担当の倉本一宏先生は、花山天皇の奇行や精神不安定なさまについては、ささいな出来事を膨らまし花山天皇の子孫を貶めるために政治的に曲解して創作した後世の説話によるものだとお考えだ。
著作にもその点を明確に記しておられる。
じゃぁ、なんで時代考証の先生が、そんなデタラメを大河に許したんだよ! という疑問の答えは「ドラマだから。エンターテイメントだから」の言葉に尽きる。大河ドラマは歴史の教科書ではない。
スパイスの効いた悪名高いエピソードを入れてくれるところにあたしを含めた歴史クラスターが小躍りする。はい。
もっとも、ドラマに見られる好色で精神が不安定な点以外にも、積極的な政治をめざした姿勢も(ドラマ内では銅銭をコントロールしようとしたところ)、優秀な歌人であったという一面も併せてすべての花山天皇が好き。実際はかなりの教養人やと思うんよね。
同じで違う藤原氏
乙巳の変で中大兄皇子と一緒に活躍した中臣鎌足が「藤原」の姓をもらったことから始まった藤原氏。彼らは朝廷における政争に勝ち、伝統ある他の氏族たちを排斥して台頭した。だが、増えていった子孫の中には、まひろの家のように中・下級貴族の者もあるのだ。ひとくちに藤原氏といえども、立場はさまざま。
ドラマの開始当初から描かれていた身分差について、今回はいちだんとクローズアップしてきた印象だ。
まひろは、源倫子の身代わりに五節の舞姫のひとりとなった。
当時、身分の高い貴族の女性は、人前に姿や顔を見せるのははしたないこととされ、代わりに中級貴族などの娘が奉仕するのは珍しくはなかったようだ。
「高貴な方の目にはとまらない自信がある」という変な自負とともに舞姫役を務めたまひろ。だが彼女は、舞の真っ最中にとんでもない事実を確認してしまう。
舞を鑑賞する右大臣藤原兼家の家族の中に、弱い牛若丸みたいだった頃から知っている三郎が着座していたことを発見。三郎が実は「あの」藤原兼家の息子の三男の道長だったという(視聴者はとっくに知っていた)事実にまひろも気づいたのだ。
居眠りばかりの三郎は舞姫がまひろだと気づず、一方的にまひろが三郎=藤原道長つまり、
「三郎(道長)が実は身分が高い人物だということ」
「三郎が自分の母を殺した道兼の弟だということ」
この2点を知ったのだ。
お互い気になる存在だった2人の間にこれから波乱が起きる。
すっ飛んでいる源倫子
源倫子って何を隠そう、藤原道長の正妻となる人である。
いかにもええとこのお嬢さん、箱入り過ぎてどこか浮世離れしている。
和歌や物語など赤染衛門先生主催のお勉強会で、まひろがガンガン文学少女的資質を発揮している際、鷹揚にまひろを受け入れている様子が幸せそうなお方だ。
今回は、その倫子が自分の屋敷に盗賊が入ったことにどこかウキウキしながら他人事のように他の姫君たちに報告しちゃうところは、さすがのお嬢様だ。自分ちの被害について頓着してない。
こういう人が車の運転したら怖い。
まひろも思ったことをそのまま嬉々として発言し、倫子とまひろによる空気を読まない合戦は不思議な緊迫感もあって、赤染衛門先生のご苦労がしのばれる。
ところで、源倫子にはペットの猫がいる。
あの猫ちゃんの名前はなんだろう。
ちなみに、一条天皇が飼っていた猫は「命婦のおとど」と呼ばれていたと清少納言が書き残している。
猫は当時の貴族たちに人気が高かった。
エブリベア=直秀=散楽師=盗賊!?
謎の男のことをなんて呼んでいいかわからず、エブリベアと適当に呼んでいたが(謎の男の役者が毎熊克哉なので)、彼の名前は直秀らしい。
その直秀はいくつかの顔を持っていたようだ。昼間は散楽師をしているのだが、彼は盗賊という副業を持っていたみたい。
彼を含む盗賊たちは、まるで忍者のような軽い身のこなしで例の源倫子の住む(つまり源雅信の)屋敷へと侵入した。
あたしが注目したのは、侵入の方法だ。
彼らは砂利が敷き詰められている屋敷の敷地内に、手際良く藁かイグサでできた長いゴザのようなものをサッと広げ、その上を音も立てずに走っていった。なるほどねー。こうしたら音を立てないわけだ。学んだー。
このドラマの設定年代と同時代には、袴垂と呼ばれる大盗賊がいたと『今昔物語』などに書かれているが、直秀は袴垂をモデルにした人物なんだろうか。
とにかく、特に夜の平安時代の都は物騒だったし、貴族たちは自分たちの屋敷に盗賊たちに目をつけられることを恐れていたという。だって、ねらわれたらあの時代の屋敷を突破して押し入るなど、そう難しくはないだろう。
直秀は義賊なのか。
そして、なんとなくおせっかいしているように見えるが、彼はまひろと道長をつなぐキューピッド的な役回りも担っているのか。
そういうわけで、来週こそは藤原行成が大活躍だと期待するが、今年のあたしのおみくじの結果は末吉だったのでだめかも知れない。