麒麟がくるレビュー・2軍 その16「大きな国」の木の下で藤吉郎
私の単なる思いつきで、今年82歳になるじーちゃん(日本人。日本在住)と12歳になる息子・エル(日本人とスペイン人のハーフ。スペイン在住)にNHK大河ドラマ『麒麟がくる』のレビューをお願いしている。
が、ちょっと今回はいつもと勝手が違う。
じーちゃん欠席の巻
まあ、いつかこんな日が来そうな予感はしていたが。
昨日、じーちゃんの妻(ま、母です)から連絡をもらっていた。
じーちゃん頭痛で元気がない、というので第16話の感想は1日伸ばしにして聞くことになっていたのだ。
でもやっぱり今日もじーちゃんは「頭痛がきつくて食事もロクに摂ってない」らしい。
そうか・・・是非もなし。
ここはゆっくり養生していただき、また次回にいつものようなキレキレの(皮肉)感想を聞かせていただこう。
どうかじーちゃん、お大事に。
となれば、2軍のエース・エル樣に立ち上がっていただくほかなさそうである。
ねぇ。何年経ったの?
コロナウイルスのせいで国の全世帯が外出を自粛していたスペインだが、最近は年齢で時間帯を区切った上での外出がOKになった。
しかし、まだ学校の授業は全てオンラインである。
数え年12才のエルも今はやっぱりホームスクーリングに忙しい。
「ね。今日いつ麒麟の話しできるの?」と訊ねると、
鍋と計量カップと氷を持って理科の実験の準備に忙しいエルは、私に目も合わさずに言った。
「お昼休み!」
さて、昼休みにまずエルが主張するのは、ドラマへの不満である。
「前の時から何年経ったのか、ちゃんと教えて欲しい」
というのだ。
ドラマの中でどのように時間が経過しているのかがわかりにくいというのである。
注意してドラマを観ていれば、
「弘治元年 秋 1555年」
といったテロップが入っているのだが、漢字が苦手なエルは、全くスルー。
彼だけじゃない。
テロップを読める私でも、そのテロップ以前が何年の話しなのかを意識していないから、時間の経過が意識できない。
藤吉郎の
「あ。去年関所で会った・・・」とか言うセリフで初めて、
「えっ。もうあれから1年? 2、3日前かと思った」と驚く具合だ。
で、今回。
元服し、松平元信になって登場した元竹千代。
「え。これがあの竹千代?」
エルは、一足飛びに自分より大きくなった竹千代こと元信に戸惑った。
時間の観念がドラマ特有なんである。
「すっかり大きくなったねぇ」
普段は自分が言われるセリフをそっくりそのまま元信にプレゼントしたエルであった。
頭いいのは信長、秀吉、元信(家康)の3人だよ。光秀は何か違う。
エルは将来の家康、松平元信をデキる奴だと見込んでいる。
実は、彼はあと2人、信長と秀吉の頭の良さも元信と同レベルで認めている。
まさかの、三英傑そろい踏みである。
言っておくが、エルは三英傑のことなど全く知らない。
<エルが選ぶ頭のいい登場人物とその理由>
【織田信長】
・アクションが早い(行動力がある)
・大事なインフォーメーションをちゃんと掴んでいる(16話では、間者を送って斎藤道三が持つ兵力が少ないことを把握していた)
・tactics(タクティクス/戦法)をうまく使いこなせる人(将棋が上手いから)
【木下藤吉郎(のちの豊臣秀吉)】
・物覚えがいい
・物わかりがいい
・大事なインフォーメーションをちゃんと掴んでいる(今川方がいいか織田方がいいかを自分で判断できるくらい状況を分かっている)
【松平元信(のちの徳川家康)】
・tactics(タクティクス/戦法)をうまく使いこなせる人(将棋が上手い)
・人質なのに大事なインフォーメーションをちゃんと掴んでいるから自分の周りで何が起きているのかちゃんと知っている
3人のうち、ちゃんとした武将として活躍しているのは、今のところ織田信長だけだ。
しかし、藤吉郎や元信にも将来の大物としての片鱗がドラマに現われているということか。
エルにも感じられるほど「きっちり人物描写ができている」と、そこは素直にドラマを褒めるべきだろう。
「え。じゃあ、明智光秀は?」
ドラマの主人公・光秀について訊ねると、エルはこともなげにこう言った。
「あ、光秀はね、強い人にguide(ガイド/誘導されている)感じ」
光秀は所詮ナンバーワンにはなれないということか。
なんだろう、この核心の突き具合は。
エル、結婚生活について考える
実は、このところエルは光秀と煕子の様子に少しがっかりしている。
思っていた夫婦像と違うらしい。
【光秀と煕子の関係】
・煕子は、光秀のservant(サーバント/召使い)みたい。ご飯用意して、うちわであおいで、刀を受け取ってあげて、大声で呼ばれたらすぐに光秀のところに来るんだよ。光秀は、刀くらい自分で置け!
・光秀と煕子はあまり楽しそうじゃない
・信長と帰蝶みたいに仲良しじゃないねぇ
・帰蝶みたいに強くないんだねぇ、煕子は
・道三と赤い唇の人(深芳野)みたいに2人でお酒飲んだり、笑ったりとかしないねぇ
なるほどね。
私自身が光秀と煕子をカップルとして観察したことがなかっただけに、新発見であった。
道三の決起
私にとっては感動的だった大桑城での道三の「大きな国」スピーチシーン。でも、エルは道三の事がはがゆくてたまらなかったようだ。
・「仏がuseless(ユースレス/役立たず)で、意見を聞いてもあれは喋らないって、道三は知らないの?」←事実である
・「みんなが負けるって言うのにどうして戦うの? ケチなんでしょ? お金がいっぱいいるよ、戦争には」←真実である
・「え。道三て自分で立ち上がりにくくなるほど年を取ったの? 前はすごく強い感じだったのに。でも、走って出て行ったよね・・・」←道三の企業秘密であろう
・「大きい国とか言って、欲張ったらだめ。美濃だけでも十分大きな国だよ。普通の家の庭より全然広いんだから」←事実である
・「帰蝶はなんで、また砂金を使って負けそうな道三のために鉄砲隊を呼んであげないの? お父さんでしょ」←思ってもみなかったが、激しく同意!
勝て、斎藤道三。
さあ、いよいよ来週は長良川の戦いである。
ヤバいと知りながら、道三の勝利を願う我ら2軍。
すっかり彼は『麒麟がくる』レギュラーなんだから、絶対に勝って欲しい。
「高政はアホじゃないよ。戦いについてはアホじゃないから、気を付けて!」
確かにエルが言う通り、国衆を味方につけた高政(義龍)は、アホではない。一体道三はどんな戦法で高政の大軍に向かうというのだ。
どこかに道三勝利の望みを見つけようとする我々だが、画面からなかなか厳しい現実を突きつけられる。
「道三の兵ってあれだけ? 少なっ!」
「光秀の家来ってあれだけ? 少なっ!」
集まる道三や光秀らの家臣の数を見て絶望的になるエル。
道三を殺さず、このままレギュラーを続けてもらうための方策はないものか。
こうなったら史実はどうでもよろしい。
これはドラマであって、ドキュメンタリーではないはず。
勝て、斎藤道三。