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「光る君へ」うろ覚えレビュー《第36話:待ち望まれた日》

ドラマの役柄とそれを演じる役者をどうしても重ねて見てしまう。
藤原道長を演じる柄本佑の場合、車のコマーシャルなどに出演しているのだが、道長とはえらく感じが違う。左大臣のくせに、あの長髪ぶりは平安時代らしからぬと思うし、なんでそんな喋り方なの? とか思ってしまう。
左大臣のくせに。

■中宮の懐妊

ようやく中宮彰子が懐妊した。
藤原道長も御嶽詣を敢行した甲斐があったというものだ。
しかし、中宮の周囲の人の多くは、「中宮が一条天皇の子を身ごもったこと」を喜ぶばかりで、「家族が増える」とか「夫婦の子が生まれる」とか、現代のカップルが普通に喜ぶポイントとは少しズレている。
皇后や天皇という立場の悲しさみたいなものを感じるのだ。
「仕事」みたいだ。
実際に、跡継ぎを作ることこそが天皇と皇后の「仕事」なんだが。

■中宮の出産

出産があんなに大変なものだとは知らなかった。
いや、平安時代の高級貴族の出産というものが。
ええー。あんな大騒ぎ、するぅー?
しかも、その騒ぎが起きることを皆が予測していたように、物の怪に怯えながらも粛々と対処している点にも驚いた。

その大騒ぎ具合ってば、凄まじかった。
物の怪の影響力とはこれほどしっかりと目に見えるものだったのか。
阿闍梨あじゃり(天皇の儀式などを行う高僧)は、物の怪を調伏するためにまるで力仕事のように祈禱を行う。
藤式部を含む女官たちが祈る。
道長含む天皇に仕える公卿たちが祈る。
(ふと思ったが、こういうのって生まれくる子の父親の一条天皇は祈らないものなのね)

これらの祈禱の様子は、『紫式部日記』の記述を拾い上げて表現しているようだ。

怨霊? 呪い? これが出産のときに普通に起きることなの?

伊周は、どっちかといえば「チーム物の怪」側のメンバーである。
彼も呪詛に忙しい。
なんせ最近は、何をどう仕事してんだかよくわからんくらいヒマそうだからな。かなりしつこく彰子めがけて悪い念を送り続けていた。
安倍晴明が生きていたら、どうしていただろうか。

こういうの見てたら、てるてる坊主とかも、一種の祈祷なのだなと頭の片隅で思った(話がズレた?)。

しかし、皆の願いと祈りのお陰で彰子は無事出産を終えた。
なんと男の子、皇子の誕生である。

ややこしくなった。
なぜなら、亡き定子と一条天皇の間には第1皇子である敦康親王あつやすしんのうがすでに存在する。彰子が可愛がって養育していた子だ。
順番から言えば、道長の孫となる皇子よりも先に敦康親王がまず天皇に即位するはずだ。
道長の表情は微妙である。
だって、この皇子は道長が願うようにのちに後一条天皇となり、敦康親王は天皇になれないのだ。

彰子と赤子。頭悪そうな顔になってすいません。
似せようと努力はしたのだ左手で。これでも。
いや、それにしても頭悪そうだ。

■嫉妬の対象となった藤式部

藤式部が他の女房たちに嫉妬されている。でも仕方がない。
そうなるお膳立てが完璧なんだもん。嫉妬されるでしょ、そりゃ。

まず、中宮が悪い。
これみよがしに、藤式部がやってくると他の女房たちを下がらせるのだ。
そんなにあからさまに重用しては、藤式部のためにならないことくらいわからんだろうか。
懐妊がわかったあともこう言う。
「母には心配かけとぉないわ。そなたがおってくれたらそんでええねん」
そう言ってひとりだけ選んで頼るから、藤式部は他の女房たちの嫉妬の対象となるんだろうが。
クラスの担任の先生にひとりえこひいきされた生徒は、かえってクラスメイトにいじめられたり嫌われたりしがちですからね。

それに、源倫子も悪い。
彰子の出産のために彰子とともに土御門殿にやってきた女房たちだが、倫子は、藤式部には専用の立派な立派な部屋まで用意した。道長の指図もあってのことではあるが、倫子の藤式部への期待も大きかったのだ。
他の女房たちの部屋はどうなってんのか知らないが、ずいぶん立派な部屋。
きっと同僚の女房たちは藤式部のことを「何様?」と思ったことだろう。

そのうえ、藤原道長が悪い。
彼に関しては、ひいきだけではなくて、彼と藤式部との距離が近すぎることが問題となってきている。
彰子の出産記録としては正式なものを頼んであるというのに、さらに藤式部にも別の記録を頼んでいた。
祝いの席で、藤式部との和歌の贈答もあったが(これは実話とされる)。
あまりにもおおっぴらである。正室の倫子は怒ってしまった。
それまでの道長といったら、藤式部の部屋に気軽に立ち寄るし、気軽に話もする。夜に2人きりで話しをしている様子も女官たちに目撃されている。
2人の間にはナニカアル。

そう思わされてしまったら、他の彰子おつきの女官・女房たちはやる気も失せるだろう。気持ちは理解できる。

誰でしょう? ヒントはホクロの位置と「嫉妬」。

■大宴会

彰子が生んだ敦成親王あつひらしんのうがすこやかに誕生後50日を迎えたことを祝う宴席が設けられた。
ここでもやはり『紫式部日記』に書かれているエピソードがうまくドラマに取り入れられている。

無礼講で宴会を楽しんでほしいと、道長は上機嫌だ。
公卿たちはしたたかに酔っ払ってしまった。

酩酊した藤原公任が藤式部たち女房にからむ。
「若紫(一般には『源氏物語』のヒロイン紫の上の若い頃の呼び名とされている)いてる? べっぴんのお姫さんはおらへんなぁ」
今宮中で流行りの『源氏物語』に引っ掛けた戯言をうっかり口にした公任。
藤式部はドラマではピシャリと以下のように言い返す。
「こないなとこに光る君みたいな男はんは、いたはらへん。せやから若紫もいてへんねや」

また、藤原実資が酔っ払って、女官が着ている十二単の着物が何枚重なっているのか延々と数えたりもする。

たまの無礼講で男たちが酔っ払うのに女房たちは戸惑い、辟易している様子。ただ、それくらいならしゃーないかで済ませることもできた。
だがそこに、主催した藤原道長その人が疑惑爆弾を投下してしまったのだ。
藤式部は道長に請われて、祝いの歌を披露した。

いかにいかが 数えやるべき 八千歳やちとせの 
あまり久しき 君が御代をば

皇子の長い代を寿ぐ歌である。

それに道長が用意してあったように返歌するのだ。

あしたづの よはひしあらば 君が代の 
千歳ちとせの数もかぞへりとてむ

自分に長い寿命があれば皇子の長い代がどれほど続くか数えることができるのに、という歌だ。


やっちゃったね。道長。
歌の内容自体は特に問題ないのだけれど、公衆の面前で交わされた藤式部と道長との贈答歌のような形になってしまって、雰囲気が怪しくなってしまった。
正室の倫子も、素早くその微妙な雰囲気を感じて怒りを滲ませながら席をたってしまう。
これはまずいよ。倫子は敵に回したらだめだよ、道長。

いくら彰子に重用されても、いくら道長に大事にされても、所詮は道長ファミリーではない藤式部の「現実」は、一介の女房だ。
赤染衛門にまで鋭い視線で見つめられ、道長との関係を問われた藤式部のこれからは一体どうなるのか。

ま、主人公ですからなんとかなるとは思うのですがね。

To Be Continued.