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つれづれ雑記*家人、料理をする、の話*

 先日来より、家人が料理にハマっている。

 ヘッダー、およびつぶやき記事の写真は家人が生まれて初めて作ったオムライス。
 予想外の上出来に、家人は、顔には出さずに得意満面(器用な人だ)、私たちは(今後のためにも)万雷の拍手にスタンディングオベーション、つまり、ベタ褒めをした。
 
 だがしかし、ここでこっそり言うけど、この華々しい成果の裏側では秘密裡に黒子の働きがあったことは、案外知られていない。

 いつだったか家族で話しているとき、家人が、一時期よく行っていたご飯屋さんのだし巻き卵焼きが美味しかった、と言い出した。
 そのお店は、カウンターで注文すると待っている目の前で店員さんが焼いてくれたそうだ。
「サッサッサーッと焼いてくれるんよなあ」と言いつつ、空中で鍋を揺する仕草をする。
「一度、自分で作ってみる?」「そうやそうや、やってみたら?」
 娘ら外野からの声に、何か勘違い、いや、思うところがあったのか、家人はだし巻き卵焼きに挑戦することになった。
 
 まず、卵焼き鍋がいるという。私は卵焼きをいつも小ぶりのフライパンでテキトーに作るので、我が家にはいわゆる卵焼き鍋がない。あの四角い鍋でないとどうしてもモチベーションが上がらない、と言うので、休日にホームセンターで購入した。
 
 その後、スマホであれこれと検索、YouTubeでも動画をチェックし、買ってきたばかりの真新しい卵焼き鍋を持って上下前後に振ったり揺すったりして、イメージトレーニング(?)も万全。
 とりあえず、焼きやすい量でということで、卵は2つ割る。
 卵ひとつあたり小匙2杯の水と小匙2分の1の白だしを入れてかき混ぜる。
 卵焼き鍋に少しずつ流して端から菜箸で(フライ返しを使うように勧めてもYouTubeでは誰も使っていないと拒否された)巻いていく。必要以上に大きな仕草で鍋を振るのが少々気になるが、ところどころ破れながらも、何とかかんとか、巻き終わる。
 切り分けて皿に盛り付けると、娘らから、
「おおー、すごいやん」と称賛の嵐。
 家人の鼻がすこーし高くなる。
 幾度か休日のたびに繰り返すうち、そこそこ上手く焼けるようになり、自信をつけた。
 その自信はやがて、とんでもなく大きな野望となる。

 ……「オムライスを作ってみたい」
 
 家人の言葉に、娘らは無責任、いや、熱いエールを送る。
「おー。イケるんちゃう? 頑張れー」

 私は内心、これはえらいことになった、と思ったのだけど。
 でも、せっかくやる気になってる人の気を削ぐというのも大人げない話だし。上手く仕込めばひょっとして、休日のお昼は家人のオムライスで、ということになり、私はちょっと楽ができるかな、という考えもちらりと浮かんだ。
「よし、やってみよか。何とかなる、やろ」
 
 まずは中身のケチャップライス。
 家人はチキンライスがいい、などと言うが、手軽さを考えてそこはベーコンで妥協してもらう。後は、玉ねぎとピーマンとにんじん。

『材料はこれね』
『全部、みじん切り、小さく切ってね』
『あ、その前に野菜は洗って』
『玉ねぎは先に茶色の皮むいてから半分に切ってね。みじん切りはこうやると楽やから。それから目が痛くならないように換気扇を回すといいよ』
『ピーマンは、いきなり輪切りじゃなくて、縦割りにしてからヘタをとって。縦切りにしてから端から切るとみじん切りになるから』
『ベーコンはねえ、面倒でも一枚ずつ。くっついちゃうから』
『にんじんはピーラーで皮むいて。火がとおりにくいから、切ってからレンチンしておくとええよ。え、何分くらいって? あー、わかった、こっちでやっとく』
『とりあえず、ベーコン炒めよか。油が出てきたら、野菜入れてね、あ、玉ねぎからね』
『炒まった? ケチャップ入れよか。先に入れて少し煮詰めとくといいから』
『ご飯、人数分はこのくらいね』
『ご飯入れるから。ちょっと野菜、端によけて、そうそう』
『そんなにガチャガチャかき混ぜなくていいよ。チャーハンじゃないんだから。だーからー、鍋、振らないで、油が飛び散るから』
 
 とりあえず、ケチャップライス、完成。
 続いて薄焼き卵で一人前ずつ巻く。

『あ、卵はボウルの角で割らんほうがええよ。なんでって? 割れすぎて殻がめり込んでしまうやろ、あ、ほら、白身が垂れてるやん、そんな力任せにやらんでも割れるから』
『卵を先に溶いといてから、フライパンに油を入れて温めて始めてね。フライパンが熱くなり過ぎるから』
『卵は、フライパンを回したら広がるからね、あ、固まるまで触らんといて』
『あんまり早うにケチャップライス入れたら、卵が破れる…、あ、遅かったか』
『卵で巻くのに、そんなに鍋を上下に振らんで。箸じゃなくフライ返し、使ったらええやん、え、YouTubeではみんな箸を使ってた? あー、そう』……
 
 何だかんだで、とにかく完成。皿に盛る。
「わー、すごーい」「上手いやん」
 娘らの歓声に、鼻高々の家人。
「美味しいやん、うんうん、いけるいける」
 ますます、ご満悦の家人。

 はいはい、よかったねー。
 でも、私はなぜだか、いつもよりも、数倍、疲れたように感じるのは気のせいかなあ。
 

 「大名釣り」という言葉がある。
 舟も棹も全部用意してもらって、何なら餌もつけてもらって、自分は棹だけ持って、針に魚がかかったら釣り上げるだけの釣り、のことを言うそうだ。
 本当にこんな釣りがあるのかどうかは知らないが、家人の料理を見ていて、「大名釣り」ならぬ「大名料理」、なんて言葉を、ふと思った。

 ……やれやれ。
 

 

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