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つわり中、麻辣湯を食べに行くだけの1日

つわりが徐々に落ち着いてきている感覚を得ている。
散歩しても気持ち悪くならなくなり、スマホの歩数計の数値は数週間前と比べると格段に上がった。
それでも食べることにはブレーキがかかっていて、なぜか辛い物ばかりを欲し、それ以外を食べようとするとみるみるうちに少食になってしまう。ぐうぐうと鳴るお腹に反して、喉元はワガママなもので
「辛くないなら食べないほうがマシ!!!」
と女王様のようにツンと顔を背けるので困ったものだ。

休職中ということもあり、平日はとかくやることがない。
朝起きて、家事を済ませれば長い1日がどっとやってくる。
大好きだった料理も、冷蔵庫の匂いと偏食女王に阻まれてしまい、
ほぼキッチンに立てない。しかも濃い味しか受け付けられず、気がつけば私は外食の虜になっていた。
とある日夫が買ってきてくれた蒙古タンメン中本のテイクアウトは、
一人前ぺろっと食べられた。以前より辛みにも強くなっている気がして、無敵モードのようにガツガツと食べていたわけである。
そんなこともあって、ランチは辛いものを食べに出かける日々が始まった。

クリニックに行く日は池袋周辺でタイ料理を食べた。
東口に1軒、西口に1軒行きつけのお店がある。
特に西口のお店はこぢんまりとした個人店で、リーズナブルなのに量も多くて数年前からお気に入り。
パッタイを頼んで、唐辛子をたくさん撒き、お酢を垂らせば偏食女王も納得のお味だった。

タイ料理にも飽きてくると、麻辣湯が食べたい気分が強くなった。
麻辣湯も数ヶ月前に初めて食べてからハマり、機会があったら食べに行くお気に入りの辛いものだった。
高田馬場に美味しいお店があると知り、平日のお昼一人で向かう。
初めての店に赴く時はいつも小さな緊張があるが、麻辣湯の店は外国資本の店が多く異国感が強いのでその緊張もひとしおだった。
店は韓国系のお店でおしゃれな雰囲気。店員の方も日本人で丁寧な対応にホッとする。
トングとボウルを取ると、ショーケースから好きな具材を選び、ボウルに入れていく。
つわりの縛りは食材にまで侵食しており、私は肉が食べられない。
それでも豆腐や海鮮、野菜が潤沢にあるその光景はオアシスのよう。
張り切っていつもよりとってしまった具材にハラハラしながら、レジの測りに乗っけると、いつもの1.5倍ほどの量を取ってしまっていた。
通常時でもこんなに食べたことないのに、完食できるかな・・・。
そんな不安に駆られながらレジで番号を受け取り、完成を待つ。
麻辣湯の店はどこも女子大学生が多い。高田馬場という立地もあり、平日のこの日もまわりは一回りほど離れた女の子たちばかりだった。
ちらほら聞こえるのは、もうすぐ社会人になることを嘆く話、サークルの話。タイムスリップして、学食に紛れ込んだような感覚になり少しドギマギする。私も10年前はこんな話をしていたのに今はマタニティマークをつけてつわりの奴隷のため、ここにいます。

自分の番号が呼ばれた。愛想の良い中国人風の男性がニコニコと麻辣湯を持ってきてくれた。
ありがとうございます、とにっこり返し待ち焦がれていた麻辣湯を受け取る。

エビ、イカ、豆腐、魚団子、たけのこ、春菊、きくらげ・・・
好きなものしか浮かんでいない丼に色めき立つ。
一口スープを啜れば、やさしいまろやかさな豚骨ベースに佇む唐辛子の辛さと控えめな花椒に包まれ、さらに一興。
今まで食べたなかで一番好きな麻辣湯だ!!
そこからは箸が止まらない。喉の女王様も大喜びでとめどなく食材たちが体内に取り込まれる。美味しい美味しい。
美味しいの判定が厳しい今、この麻辣湯は食の喜びや楽しみを与えてくれる数少ない救世主となった。

あんなに心配していた量もどこ吹く風か、気がつけば全てなくなっていて、未練がましく丼の底をレンゲですくっては、何か残っていないかとこそいで、小さな具材の破片さえも取り込んだ。

食べ終えて外に出ると気持ちも軽やかでスキップしたい心地だった。
麻辣湯ありがとう、またすぐに食べに来るね。
妊婦は高田馬場を少し散歩し、おとなしくまだガラガラの電車に乗って帰路に着くのだった。さらに寄り道して、図書館にも行っちゃおう。

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