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牛乳から世界がかわる

今回は最近読んだ本で面白かった、『牛乳から世界がかわる』をご紹介します。

テーマは酪農家の仕事や流通・加工の仕組み、飼料の輸入、環境や農業全体への影響などで、副題に『酪農家になりたい君へ』とあるように入門書としてわかりやすい内容です。
様々な内容の中で私が「これは知ってほしい」「知らなかった!」というものをここでいくつか取り上げます。

飼料の輸入

日本の畜産はエサとなる飼料を輸入に頼っています。
畜産にはTDN(可消化養分総量)という数値があり、この自給率を見ると、2022年は国内生乳生産量のうち43%が飼料も自給している"本当の"国内生産量ということになるそうです。
近年は輸入飼料の価格が高騰し、酪農家の経営に大きな負担をかけています。飼料を全て自給できればいいのでしょうが現状は難しい…。そういった状況のなかで筆者は次のように述べています。

日本の酪農はどのような姿を目指していけば良いのでしょうか。価値観を共有する国との関係、その国に対しての輸入国としての責任はどう果たすべきなのか、ということを今、しっかり考える必要があります。(中略)
日本において酪農を営むということは、世界の貿易のあり方も考えることが必要なのです。

TDNという数値、そして"本当の"国産生乳の量という考え方を私は初めて知り、なかなか飼料輸入の課題の壁は高いと痛感しました。
たとえば私のような酪農家以外の農家が飼料を栽培して、それを酪農家と直で売買したら自給に一歩近づけるんじゃないかと考えたことがあります。実現できるのか、またお互いwin-winの関係になれるのかは分かりませんが、何か自分も取り組めないかと思っています。
また上記の言葉にあるように、輸入するにしてもフェアな関係で信頼ある取引をしていくことも大切なんだなと教えてもらいました。


そもそも、動物を食べる必要はあるのか?

畜産の色々な課題を考えると、これって元をたどれば人間が肉や乳製品を摂取するからダメなのでは?という問いに行き着きます。
最近は代替肉や植物性ミルクなどがあり、動物から得られるものを食べないという選択肢もできます。ただ筆者はこう語ります。

環境に負荷を与えないやり方で育てた乳牛からの生乳を、必要以上にではなく適切な量を食べる、ということが、実はとても大切な考え方なのではないかと、私は考えています。

この意見には大いに同感です。
現代日本は飽食の時代でたくさんの食品がすぐ買える環境にあります。ただ、私たちは自分の食べるもののことをちゃんと考えているのだろうかと私は思うのです。
スーパーに並ぶ肉が乳産地はどこでどんな飼育方法なのかを気にしていますか?気軽に外食で肉を食べたりスイーツを買えますがその頻度は多すぎないでしょうか?
普段の生活で少し気にかけることで私たちが課題解決に協力できることもあるのかなと思いました。

また本書では、動物福祉(アニマルウェルフェア)や倫理観の視点から、肉を食べるという根本的な問いについて考察しています。
畜産は動物に肉体的苦痛をもたらす、ほとんどの人は肉を食べなくても大丈夫なのだから肉食に合理的な理由はない、肉食には文化的な意義をもつ場合もあるet…。
結論にはいたっていませんが、こうやって考えてみることで私は食べるという行為に深く目を向けることができました。

リジェネラティブ農業

農地を作るために森林伐採をする、農薬や化学肥料の使用で土を汚染しているなど、農業は環境に負荷を与えながら人間の食糧を生産しています。
様々な環境問題が顕著になってきたことで、土壌を健康に維持することの重要性が世界中で注目されてきました。

リジェネラティブ農業とは土壌中の微生物を活性化させることで土壌を再生させる農業を指します。雑草を生やすことが光合成量を増やし土中の微生物と養分のやりとりを促したり、多様な植物・微生物・菌が畑に存在することで相乗効果をもたらしたり、家畜を歩かせることで土に刺激を与えたりします。

この考え方を私は少し前に知って、とても興味がありました。
土は農業にとっての基本でありとても大切なものです。土壌を多様に豊かにすることで自然環境と人間がバランスよく共生できれば今後も安心して農業をすることができます。負荷をかけていると分かっていて農業をやるのは心苦しいことなので、自分もできることから始めようと思案しています。


「農家が風景を守っている」

最後に紹介するのは、実践編で紹介されていた北海道枝幸町の石田牧場さんのお話から。家族経営で放牧酪農をされています。
私がお話の中で胸が熱くなったのは息子の晃介さんの言葉です。

北海道から東北地方にわたり、自転車で各地をまわる中で心打たれたのは、都会の景色ではなく、枝幸と同じような農村の風景でした。日本にはこんなにも美しい田園風景があって、農家の人たちがいるからこそ、その風景は守られているということに気がついたのです。
そして故郷である枝幸の風景を守ることこそ、自分が枝幸で生まれ育った意味があるんじゃないかと思うようになり、父の後を継いで酪農家として生きていこうと決心しました。

まったく同じ気持ちを私も大学生の時に感じる経験をしました。だからこそ地元に戻ってりんご農家になりましたし、このnoteなどを通して農ある風景や暮らしの良さを発信しています。
同じ想いをもつ方がいて頑張っている姿にとても嬉しく心強く思いました。



普段は野菜や果樹の栽培に接していますが、私は畜産にもすごく興味があります。県内の養豚・養鶏牧場と酪農家さんの所でアルバイトや作業体験をさせていただいたこともあります。
この本を読んで改めて酪農の世界への理解が深まり、興味もさらに高まりました。

自分も何かの形で畜産に関われたら、一緒に課題に向き合えたらいいなと改めて思いました。


出典:『牛乳から世界がかわる 酪農家になりたい君へ』 小林国之 著、農文協