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おすそわけ日記 69 「日常の重なり」

渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中の『永遠のソール・ライター』展へ。

友人に勧められ、1950年代からファッション誌で活躍したニューヨークの写真家の作品展と云う予備知識しかなくて会場に行ったら、初っ端のモノクロ写真から圧倒された。

修道女の後ろ姿を撮った作品で、ベールと服のラインが美しく、まるでモデルとスタジオを使って撮ったモードな写真の趣。どうやったら、日常の一瞬をこんなにも魅惑的に切り取れるのだろう。

カラー写真には、さらに惚れ惚れした。ライターの特徴の一つとして、映り込みまで計算していて、遠景、近景、手前のガラスへの映り込みと云う風に、複数の情景が重なって一枚の作品になっている。

幾つもの日常が交差する瞬間を留められる感性と技術力、そして見極める決断力に唸るしかない。焦点が複数あって、この風景、あの人物と焦点を合わせて見ていくと、まるで自分がカメラになったかのような錯覚に陥る。

街では、沢山の人の日常が同時に進行していく。ライターの作品は、人と街の日常の重なりをたった一枚の写真で見せてくれる。

今日、ライターの作品に出会って「私は写真が好きだ。」と思った。

私は中高と写真部だったが、撮影よりもモノクロ写真の現像の方が、理科の実験のようで面白かった。大人になって、トイカメラの面白さを知って手当たり次第に写真を撮り、デジカメで自分の作ったぬいぐるみを使って写真絵本を手作りで作るようになった。

気づけば、いつもカメラを手にしていたけれど、自分がそれ程写真好きだとは思っていなかった。でも、この写真展を見て、身体の奥がうずうずしている。

写真を見るのも、撮るのも、現像するのも、結局、全部、好きなんだ。


【今日の一枚】 展覧会で購入したポストカード。ライターの隙間から撮る写真にも心惹かれます。左下の男性のポーズがまるで意識して描いたかのようで、彼が絵を描く様に写真を撮ると言われているのは、色彩感覚だけでなく、このシャッタータイミングの素晴らしさもあるのではないかと思います。Saul Leiter「天蓋:Canopy」1958年。

今日もおつきあい頂いて、ありがとうございます。

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