地名巡りその1:地名一覧備忘録編。
地名の楽しみ方について、お話しします。
まず、地名とは何か?
辞書的な定義によると、その要点は以下の通り。
・ある土地の名称。土地の呼び名。
・山川草木など自然的環境を表現する自然地名と、その場所の歴史や開拓者名を残す人文・歴史地名(これには自治体名すなわち行政地名を含む)に大別される。
・広義には地理的なすべての存在に対する固有名詞の総体を指す。
・行政上や法律で用いる公称のほかに、俗称や俚称として通用している複数の別称がある。
・名称においては固有名詞としての名詞部分のほかに、街道、川、海、山、滝、といった普通名詞の部分を含むものがある。
これを私自身の解釈で語るとすれば、地名とは「地誌・民族誌そのもの」。実際にその土地を歩いてみて、「確かにこの地形は地名の通りだな!」「地名からは想像できない地名、どうしてこんな地名になったのだろう?」「同じ地名を他の土地で見たのだけれど、それとは由来は違うのかなあ」などと妄想が無限に広がっていくというのは、まさに旅行の醍醐味のひとつ。
それが予想もできないような様々な要因で複雑に変化するものでありますから、人知を超えたような感覚がして面白い。
しかもそれは、歴史、地質、方言、土地開発などなど、あまりにも多様な要因で突飛に変わるものですから、気軽には断定など出来ず大変に難しいのですが…。
だからこそ、いい。研究したいという知識欲が湧いてきますね!
自分たちの手で調べるから尊いんだ 絆が深まるんだ
さて今回は、私がここ3年程度で収集した地名を一覧にしてまとめます。
ありとあらゆる学問分野の知識を総動員した、個人的なフィールドワーク知見の成果だ!
まァ、本格的に地名そのものへの考察を加える応用編は次回以降です。
一気にベラベラと話過ぎると内容が散らかるのでね!
なお、語るまでもない前提かもしれませんが、今後の考察は日本国内でのみ妥当するものであるとご了承ください。
見たけりゃ見せてやるよ(震え声)
交通地名
イチバ:市場、一場。中世以降の市場のあった場所。「市を一月に何回開催するか」「何日ごとに開催するか」などにより廿日市、八日市など。
ウマヤ、マヤ:厩、馬屋。「マエ」転訛の場合もあり。
オイワケ:追分。道の分かれるところ。
カケハシ:梯、懸橋。河川の渡河点。
シナ:品、科。主に舟運による商品流通があった場所。なお、長野県でみられる「信濃」「更科」などの「シナ」は、段丘を示す俚言か。
カシ:河川水運の船着場。「カセ」転訛の場合もあり。
カルイザワ:軽井沢。山地の入口にある、牛馬の進入ができない小沢。古語「かるふ」は物を背負うの意。
キド、キンド:木戸、近道。集落の入口。
クツカケ:沓掛。峠下あるいは渡河点。
ゴテン:御殿。かつての将軍(征夷大将軍のこと)の座所など。
サカモト:坂本。古くは峠のことを坂と呼んだため、すなわち峠下。
サルガバンバ:猿馬場。山の上にある平坦地。
シュク:宿。古代の駅伝制度崩壊後にできた、民営の宿泊施設を中心に発達した交通集落。
セイサツ:制札。高札のこと。集落の入口、あるいは国境・郡境。
タテイシ:立石。古代の交通路には人工的に道標を置いたことから。
ツクリミチ:作道、造道。低地の築堤や丘陵の切通。
ツジ:辻。道の分かれるところ。十字路から連想された国字である。
ナワテ:繩手、畷。古代の土地測量の直線基準線。
ハシモト:橋本、橋元。橋の付近にある橋畔集落。
ハヤウマ:早馬。駅地名。「ハヤマ」転訛の場合もあり。
ヒノヤマ:檜山、火山。古代烽火の跡。独立小丘陵が多い。
フナハシ:舟橋、船橋。橋を建設できない急流に浮橋で渡した場所。
マツギ:松木。古代の駅屋「馬継」の転訛。
ミサカ:三坂、御坂、美坂。山麓地名。特に山を神聖視すると美称を付け、祭祀遺跡や神社がある。
ワタリ:亘、渡。渡河点あるいは渡津集落。
自然地形地名
アイオイ:相生、相老。川や街道が合流する場所。
アクツ:阿久津、堆、圷。川沿いの低湿地、畑。
アワラ:粟原、芦原。湿地や沼地。
ウチコシ、オツコシ:打越、打腰。山の鞍部や小丘陵の向こう側。
ウトウ、ウツ:宇頭、宇津。切通のある坂、あるいは空洞のある地。
エキ:浴、溢。中国地方において、谷地。
オキ、オク:奥、沖。集落の中心から離れた場所
カラ:唐、柄。水の乏しい沢。
キ:木、城、柵。古代の城柵地名。
クシ、コテ、クジラ:串、小手、鯨。小丘陵の向こう側、岬、あるいは海食崖。
クテ:久手、湫。山間の湿地帯。
クネ:久根。集落の境界。
クラ:倉、蔵。岩の露出した崖や岩肌、あるいは岩場の多い山。
コシ:腰、越。山や台地の麓。
サコ:迫、佐古、廻。谷よりも小さい山間地。
サダ:佐田。陸地が海に突き出した地形、あるいは山に囲まれた平野。
サワ:沢、澤。東日本では「谷(ヤ)」のこと、西日本では沼沢地のこと。
スカ:須賀。砂地や砂丘、あるいは川沿いの自然堤防。
セト:瀬戸。両側を陸に挟まれた海、ありは崖に挟まれた場所。
セン:山、仙。「~セン」は呉音読みで中国地方に分布。なお、「仙」は国字。
ゼンダナ:膳棚。階段状の傾斜地。
ソネ:曽根、曾根。長く伸びた高まり、あるいは山の尾根筋、峰。
タケ:岳、嶽、嵩。森林限界を超える高山、すなわち樹木のない山。
ダバ:駄馬、駄場。山間の小平坦地。
ツル:鶴、釣弦、水流、都留。川の曲流部。
ツルマキ:鶴巻、弦巻。弓の部品から、丸みを帯びた微高地。
テイキ、チャーキ:馬の鞍の一種で、への字状に盛り上がる微高地。
ナメ、ナメラ:滑。岩が露出したところに水が流れ滑りやすい場所。
ナラ、ナル:奈良、楢、成、平。均すの意で、山中の平地や緩傾斜地、あるいは河岸段丘。
ノダ:野田。湿地帯や氾濫原。
ニタ、ヌタ、ノタ:仁田、沼田、野田。水田開発に適する湿地帯。
ネ:根。山や台地の麓、あるいは海中の暗礁。
ノ:野。樹木のない草原、すなわち開発ができない土地。
ハケ、ホキ:峡、𡋽、岨。谷川の両側の山の集まる場所。
ハナ:花、鼻、端。台地の先端、あるいは岬。
ハネ:羽、埴、葉。粘土質の土地。
ヒナ、ヒウラ、ヒナタ:日名、日浦、日向。山の南向きの斜面の麓。
フクロ:袋。川が蛇行し川に囲まれた場所。
ホラ:洞。谷よりも浅いところにある集落。
ムタ:牟田、無田。草の生い茂った湿地。
モリ:森、盛。特に土地神を祀る、木の生えた場所。
ヤツ、ヤト:八津、谷津。湿地帯や氾濫原、あるいは台地に深く入り込んだ樹枝状の谷。
ヤナカ:矢中、谷中。沖積低地にある湿田。
ヤマ:山。起伏の大きい地形、あるいは木が生える場所全般。
沿岸地名
アンド:安土、安渡。魚の回遊を待ち受ける良い漁場の浜。のち「ワンド」に合流したか。
クリ、クロ:栗、繰、黒。岩礁帯。
シマ:島。字義の通り、島や沿岸の岩場。あるいは低湿地帯の中に分布する自然堤防上の集落や三角州、新しい埋立地。
ツ:津。河川・湖沼の船着場、あるいは単に海岸。
トマリ:泊。海岸の船の停泊地、あるいは駅地名。
フクラ:福良、吹浦。海岸の湾曲地、あるいは蛇行河川の氾濫原。
マ:間、馬、麻。港湾や入り江、漁港、海峡や水道、あるいは台地の先端。
メラ:米良、布良。フクラ、マの転訛か。
ユリ、ユラ、ユルキ:由利、由良。海岸の砂が揺り上げられた地形。
ワダ:和田、曲。海岸や川で入り江などの屈曲した場所。
ワド、ワンド:湾処。海岸の入り江。
崩壊地名
アズ:㘱、小豆、温海。崖の崩れたところ。
アハ、アベ、ウバ:阿波、阿部、姥。剥げて崩れ落ちる土地。
イタ:板、飯田。急斜面の崖地。
ウサ、ウシ:宇佐、宇志。氾濫地帯、高潮地帯、地滑り地。
ウメ:梅、埋。平坦地では埋没地、山間部では地滑り地。
カキ、カケ、ガケ:柿、垣、加治、鍛冶、梶。土石流や崩壊の頻発地。
カナ、カニ、カノ:鉋(かんな)のこと。削る道具から地滑り崩壊を意味。
カメ、カム、カン:亀、神。侵食地名。
クイ、クエ:崩、久米、杭。古語で崩れるを意味。
クキ、クヌギ:国木、久喜、釘貫。山崩れした地。
クルミ:胡桃、来見、来馬。侵食地名。
コイ、コヤ:恋、児屋。傾斜がみられる崩壊地。
サラ、サル、サレ:猿、皿、佐礼、去坂。地滑り地。
タチ、タツ:断、立。断崖地形。
ナギ:凪、渚。川沿いの崩壊地。
ツエ、ツユ:潰、杖、露。古語で潰れるを意味。
ハギ、ハク、ハコ:萩、羽毛、箱。山肌の剝落地、あるいは水衝部の川崖地。
ヒラ、タイラ:比良、平。傾斜地や崖地。
フキ、フケ:吹、保木、深日。崖崩れの多い沼地や湿地。
*補足:「ヒラ、タイラ」は字義の通り平野部、あるいは台地上の広い土地を指すのがふつうの感覚。しかしその一方で、「深い山々の中で、この狭い区画だけが可住地の平らな地だ」という命名もあり得る。後者こそが本項の「ヒラ、タイラ」であり、常に地名はこうした二重の視点での解釈が可能であるから、一義的な理解は難しい。
音地名
ガラ、コロ:強羅、合良、川原。小石がごろごろする場所。
ゴロ、ゴロウ:五郎。特に高山において、岩のごろごろする場所。
ドウメキ、トドロキ:等々力、轟。滝のとどろく音から。
トド:百、十々。川音を表す。
開拓地名
アラキ:荒木、新木、新墾。新田開発地名。特に「荒」の字は商売繁盛を願う文字意識として好まれる。
イオウ:医王。山岳信仰の一種。「妙見」や「大日」も同種。
イリョウ:井料、井領。農業用水の維持管理に充てる料田。
イッシキ:一色。荘園制下の一色名田。
ウイ:宇井、初、生。何かに囲続された空間。
オノ:小野。小高い場所の緩傾斜地。
カイト:垣内、海道。一反前後の屋敷地、あるいは多くの屋敷の集まる空間。
カクラ、カグラ:狩倉、鹿倉、神楽。領主が狩りをする山、すなわち禁猟区のアジール。
カド:角、門。住居を中心とする一区画の屋敷地。
カノウ:狩野、鹿野。焼畑地、あるいは集落にほど近い山。
カンガ、タングワ:亘過、鍬田、遁科。寺院の外縁で、聖俗境界のアジール圏。
キョウデン:京田、経田。寺への樹新地
キリヤマ:切山、桐山。焼畑地。
コウヤ:荒野、高野。荒地を指す開拓地名。
サス:佐須。焼畑地名。なお当然だが、「砂州」ならば沿岸の堆積地形である
シンショウ:新庄。古い荘園に対する新しい開墾地。
シンデン:中世~近世に開発された新しい開拓地。「○○新田」は開拓した地元の名士の名前。「開発」や「開作」も同。
ズシ:逗子、辻子、厨子。小さな道に囲まれた区画のこと。
ツキ:築、月。埋立地、あるいは微高地。
ツクダ:佃、手作田。荘官の直営田。
トオボシ:唐法師。大唐米など赤米の栽培地。
ナギ:名木。焼畑地名。
ニワ:庭。小集落内の小区画。のちにカイトやクミに集合する。
ハリ、ハレ:治、墾。未墾地を切り拓いた開墾地。
ベットウ:別当、別峠。別当の旧屋敷所在地、あるいは峠・鞍部。
ベップ:別府。別の免符により新たに開拓した荘園。「別所」や「別名」も同義。
ミオ、タオ:干拓地において、干拓以前に水流があった痕跡。
ミソサク、ミショウサク:御正作。中世地頭の直営田。
民間信仰地名
アイノカミ:相、緩、饗、藍。田の神のこと。
アオノキ:青木。古代の葬所に関する地。
アゲタ:神饌田。神に捧げる稲を作るための田。あるいは、近世では没収された土地。
アフリヤマ:雨降山、阿夫利山。ひろく山の神。
イヤ:祖谷、伊屋。畏怖を与える谷奥の山地。
イイモリヤマ:飯盛山。高盛飯状の山体、あるいは豊作祝い。
イナバ:稲葉、稲場。田の神のこと。
ウブスナ:産土、本居、生土、氏神信仰、あるいは安産願い。
ウンナン:雲南、宇南、海上。水神、あるいは作物の神。
エビス:恵比寿、恵比須。漁業・商業の権能をもつ日本神話のヒルコ、あるいは大型海生哺乳類の死骸にまつわる。
オウジ:王子、しばし八王子。牛頭天王の八人の王子から。習合して日本神話のスサノオ。
カギカケ:鍵掛、神懸。豊作や山仕事の予祝。
カンジョウ:勘定、神上、勧請。災厄の親友を防ぐ祭り。
ケチ:化知。伐採・植樹の作業を忌む土地。
ゴオウギ:牛王木、郷ノ木。寺社の発行する厄除。
ゴリョウ:御料、五郎、五両。御霊信仰。
ショウグン:将軍。陰陽道の方際の神、すなわち道教の大将軍信仰。
コンセイ:金精、金勢。男根信仰。
サイノカミ:塞、財、最、斎。集落境界や辻の道祖伸信仰。
ダイショコ:大将軍、大縄宮、大上宮。「ショウグン」に同じ。
フジ:富士。富士山信仰関係、あるいは富士山っぽい飯盛形の地元の目立つ山。
ラントウ:卵塔、乱塔。僧侶の墓塔、あるいは両墓制における諸墓。
鉱物・鍛冶地名
アカガネ:赤金、銅。銅が産出する地。
カナクソ:鉄滓。鉄の精錬時に剥がれ落ちる滓(カス)のこと。
カナヤ:金谷、金屋。鋳物師や鍛冶屋などの冶金技術者集団が住んでいた地。なお、鍛冶に限らず〈職業名+町〉ならば旧城下町地名。
カナヤマ:金山、銀山。その金属が産出する土地、あるいは産鉄に関する土地。
カネコ:金子、鹿子。金属技術者集団が住んでいた地。
サナキ、サナゲ:佐柳、猿投。古代の鐸に関する土地。
ソブ:祖父、蘇父。田の沈殿物、あるいは金属気のある赤い水。
ニウ、ニュウ:丹生、壬生、遠敷。丹砂(硫化水銀)が産出する地。
フキ、イブキ:吹、福。鉱産物の製造地。
渡来人地名
アビコ:我孫子。古代渡来人の姓のひとつ。
アヤ:漢、綾。4-5世紀頃、楽浪郡・帯方郡から渡来した機織技術者。
イマキ:今木、新。古代において、新たに帰化した渡来人のこと。
ウズマサ:太秦。土木工事技術者の秦氏関連。
カラ:唐、韓、辛。外国や朝鮮のこと。ただし7世紀以降は「唐」は中国大陸のみを指す。
クレ:呉。江南地方の呉国、あるいは朝鮮の高句麗。機織技術者。
コマ:高麗、狛。高句麗のこと。
シラギ:新羅、白木。平安時代には「新座(ニイクラ)」に改称される。
スエ:須恵、陶。須恵器制作に関わる地。
スグリ:勝、村主。古代渡来人の姓のひとつ。
ニシゴリ、ニシコオリ:錦織、錦部。高級絹織物織成の技術者。
ハタ:秦、波多。秦氏由来、あるいは古代朝鮮語「海」由来か。
おわりに
以上、とりあえず地名を書き並べてみました。
改めて書いてみるとホントに多様ですね…。
しかも、これが全てだというわけでは決してないですし…。
また、いつもは収集内容を紙のメモ帳に書き記しているので、電子化する必要はあると前々から感じていた。
それをこの場にて成し遂げたことで、満足。
メモを忘れたときに、ウェブ上で参照できそうで良かった!
なお地名編ブログ記事は、今後複数回に分けて紹介していく予定です。
第2回は地名の具体的な楽しみ方や現代都市での動向について、第3・4回はアイヌ語地名の特殊性について語ります。
ニコニコ動画・YouTubeに投稿している茜ちゃん民俗学シリーズでは、地名解説を全3回に分けて紹介していますので、是非そちらもご覧くださいね!
参考文献
今尾恵介『地名崩壊』角川新書、2019年.
鏡味明克『地名が語る日本語』南雲堂、1985年.
角川書店『角川日本地名大辞典』全51巻、1978-1990年.
金井弘夫 編『新日本地名索引』アボック社、全3巻、1994年.
筒井功『アイヌ語地名と日本列島人が来た道』2017年.
日本地名研究所監修『古代-近世「地名」来歴集』アーツアンドクラフツ、2018年.
服部英雄『地名の歴史学』角川書店、2000年.
平凡社『日本歴史地名大系』全50巻、1979-2003年.
吉田東伍『大日本地名辞書』冨山房インターナショナル、全8巻、1900-1913年.