見出し画像

香川県での想い出、お遍路札所巡り編。

香川県で過ごした一年間の記憶について、お話します。


女木島(高松市)

2023年7月より香川県に赴任しまして、早くも1年が経過。
新天地に潜む未知を全力で享受しようと日夜闊歩し、あるいは新たなことに挑戦する瞬間もあり、個人的には楽しく暮らしていたのですが…
6月末、内命が下り東京本社へ異動に。
あっ、そっかぁ‥‥

まァあまりにも有能すぎて引き抜かれたか、あまりにも無能すぎて飛ばされたかのどちらかでしょうねぇ。後者ですが。
都会がイヤだったので地方配属を希望したはずなのに‥‥
悲しいなぁ‥‥

豊稔池堰堤(観音寺市)
いいダムの想い出

それは兎も角、営業担当で外回りが多かったので、その隙間時間を利用して四国遍路札所を廻っておりました。
(こんなことしてるから左遷されるんだよなぁ‥‥)

ちょうど香川県内のすべての札所を訪問しました頃合いでしたので、このブログ記事上でのまとめでもって、自分なりの区切りとしてみたいと思います。

↑↑ 四国めたんシリーズは次回で一旦最終回の予定です ↑↑


第六十六番巨鼇山雲辺寺(観音寺市)

阿讃山地の峰、標高1,000m地点に位置する「お遍路転がし」の札所。
札所の住所自体は現在徳島県になるわけですが、歴史的には讃岐国札所の第一番であること、ロープウェイ乗り場が観音寺市に位置しているので、本ブログではここからスタート。
大迫力のロープウェイを登った先からの眺望はまさしく絶景。
これを徒歩で登るのは‥‥キツイぜ!

霊峰の雰囲気やある境内の空間設計もさることながら、ロープウェイ乗り場からお堂までを埋め尽くす五百羅漢像は圧巻の一言。
五百羅漢像の中心には釈迦涅槃像と仏舎利があり、恰も沙羅双樹といった雰囲気さえ醸し出しています。
しかしながら仏教エアプな私、尊者たちがどのような規則性で配置されているのか、全然わからない。
釈尊前の摩訶迦葉と阿難陀はわかるのですが‥‥再送案件ですね!!


第六十七番小松尾山大興寺(三豊市)

雲辺寺から讃岐平野へ9.5kmほど駆け下った場所にある札所。
標高差はなんと約850m!雲辺寺やべぇな。
さて大興寺、長閑な田園地帯の中に力強い仁王像と山門があると思えば、それをくぐると台地上の本堂へ。
境内にはこれまた示唆的な熊野社があり、さらにその脇には小さな丸石を祀る祠が。
原始的な山神・石神信仰の名残が感じられるとともに、神仏習合らしいシンクレティズムの残闕を垣間見、とてもよかったので撮影。
なんで写真がこれ一枚しかないんですか???


第六十八番七宝山神恵院、第六十九番七宝山観音寺(観音寺市)

「寛永通宝」の砂絵で音に聞こえた名跡・琴弾公園の裏側に位置し、もちろん現在の行政地名の元となった札所がここ観音寺。
しかし観音寺、一箇所にふたつの札所があるという唯一の札所であって、もうひとつの神恵院と一体と化している境内にそれぞれふたつの本堂・大師堂があり、なんとも不思議な感覚です。
それにしても紫陽花がめちゃくちゃ美しいですね‥‥

改めて香川県時代の写真フォルダを見ると、卵塔や宝篋印塔など墓関連のオブジェクトばかり。
まァ、民俗学マイブームということもありつつ、こういった事物、死霊が還ってくる場所に心惹かれている自分が少し心配でもありますが‥‥
毎日死んだように生きていたからでしょうねぇ。


第七十番七宝山本山寺(三豊市)

国道沿いからもよく見える五重塔が印的な札所。
予讃線本山駅からも徒歩圏内と、公共交通お遍路さんにもやさしいお寺。
鎌倉時代創建の本堂は国宝指定されており、他の札所とは一線を画すその歴史の重さがこれでもかと感じられます。
その組物が美しかったので一枚撮影。
だからなんで写真がこれ一枚だけなんですかね???


第七十一番剣五山弥谷寺(三豊市)

天霧城址に隣接する丘陵上にある札所。
山岳霊場に相応しい大自然を掻き分け上へ上へと進んでいき、恰も人跡未踏とも思われる岩体に築かれた仏堂・仏舎利というのはこれまた壮観。
それなりに階段を登るので、注意。

神聖さを全身で感じるこの空間設計、なんとなく高野山を忍ばせるものでもあります。
凝灰岩質の山体に刻まれた仏さまや梵字も、人びとの生々しい信仰を感じさせるものですね!
しんどい営業の帰りにふと立ち寄ったものですから‥‥
心がね、洗われましたねぇ、ええ。


第七十二番我拝師山曼荼羅寺(善通寺市)

弘法大師空海の出身地はここ善通寺市。
地元の英雄というか、香川県民以外は空海が香川出身であることを知らない気がする。
本札所は続く出釋迦寺至近に位置、過不足無いステキな札所ではありますが、個人的なマンネリに直面していたため写真はありません。


第七十三番我拝師山出釋迦寺(善通寺市)

流石、沖縄以外の全国各地に伝説を残す大師様ですが、出身地である当地では伝説のレベルが違うぜ!
幼少の大師様、本札所の後背の山上・奥の院のところから身を投げ、それを御仏のご加護により救われ聖たる悟りを拓かれたのだという。
たまげたなぁ‥‥
そんなわけで札所から望む奥の院の姿もまた霊験あらたかな感がありますが、振り返ると中讃地域の市街地や瀬戸大橋までもが一望でき、これもまた香川らしい風景であります。


第七十四番医王山甲山寺(善通寺市)

ちょっとした川沿い・鶴巻状の小丘陵の付け根にある札所。
コンパクトでよいですね!
踊り獅子の瓦細工が興味深かったので撮影。
全国所々で見かけたり見かけなかったりしますが、どういう分布パターンがあるんでしかね???(未調査)


第七十五番五岳山善通寺(善通寺市)

観音寺と同じく、現在の行政地名にその名を残すお寺。
「善通」は空海こと佐伯真魚の父君・佐伯善通卿の名から。
そして本札所は真言宗善通寺派の総本山であり、他の札所とは別格とも思える伽藍規模と迫力の五重塔がお出迎え。
心なしか「お遍路さん」というよりかはインバウンド観光客も多い印象です。すごいですね!
近くには旧帝国陸軍時代に乃木希典大将が赴任していた所縁のある官舎である通常・乃木館が現存、そして数キロ南方にはかの名刹・金刀比羅宮がありますので、そちらも忘れずに訪問をば。


第七十六番鶏足山金倉寺(善通寺市)

善通寺市内最後の札所であり、今日でも駅名や河川名にその名を留めている金倉(蔵)寺。
街なかにふと出現する真言宗寺院の隔絶された境内というのは讃岐平野あるあるで、本札所もその典型のような落ち着いた雰囲気。
特筆すべきなのは鬼子母神堂の存在でしょうか、インド由来の羅刹であり、元来の名を音写した訶梨帝母(हारीती)のほうが原語に近い。
血盆経然り女性に厳しめな仏教において後世登場した、ありがちな女性を救う系の信仰ですね!
四国遍路そのものの世俗化というか商業化というか、それに合わせて女人禁制の現代史を垣間見た気がしたので、ここに記憶しておきます。


第七十七番桑多山道隆寺(仲多度郡多度津町)

「仲多度郡」は合成地名で、由来は讃岐国の旧郡名のひとつである那珂郡・多度郡から。
そんな多度津町にある道隆寺、営業中にしばしば通り過ぎてはいたのですが、訪問したのは県内札所の中で最後。
立派な山門と多宝塔が特徴的な境内であり、不可分ない平地の札所の典型といった雰囲気があります。
よかったですね!


第七十八番仏光山郷照寺(綾歌郡宇多津町)

「綾歌郡」は合成地名×瑞祥地名の代表例であって、同じく旧讃岐国の阿野郡・鵜足郡に由来する歴史のある地名。
もちろん「宇多津」は「鵜足郡の津」であって、香川県初訪問時に多度津と混同することでお馴染みの地名ですね!
そんな綾歌郡宇多津町は讃州細川家の居館が置かれた地であり、町役場より南側に広がる古町には昭和然とした町並みが広がります。
そんな町並みの奥まりの丘陵上にあるのが郷照寺。
ひっそりとした札所ではありますが、所々に細川氏由縁を物語る遺物があるなど、南北朝室町シンパにはたまらない場所であります。


第七十九番金華山天皇寺(坂出市)

これは白峰神社

保元の乱で讃岐国へ配流となった崇徳院を祀る白峰神社に隣接する札所。
駅の真裏…というかホームからも見える位置にあり、公共交通機関お遍路勢にも優しい。
札所自体はこじんまりとしているのですが、件の白峰神社は立派な境内と拝殿を有し、いままでの札所の境内社とは別格の威厳を感じられます。

「ここもまたあらぬ雲井となりにけり空行く月の影にまかせて」

記憶の奥底から自然と崇徳院の歌が思い出され、得も言われない寂寥感というか、幽玄なる心地へ引き込まれました。


第八十番白牛山国分寺(高松市)

予讃線沿いと旧国道沿い、高松市中心部から10kmほど西に位置する札所。
その名の通り讃岐国国分寺として奈良時代に創建された札所であり、開基は
実は讃岐国、かの右大臣菅原道真が四年間国司として赴任していた土地であって、国府の置かれていたのが同札所付近。
本札所周辺の景色を彼と共有しているのだと思うとエモいですね!
‥‥天神様も左遷されましたが、私も推定左遷されるという、そんな経験まで共有してしまったと。

かくして。
住宅街の中にありながら歴史ロマンと穏やかな香川の暮らしを感じられる、ステキな寺院空間でありました!


第八十一番綾松山白峯寺(坂出市)

讃岐平野を二分する開析溶岩台地・五色台の西側丘陵に位置する札所。
標高は約300mと極端に高いというわけではないものの、いざ奥地まで足を運んでみると山岳信仰の霊場といった雰囲気が強まります。
寺院境内に隣接して崇徳院の御陵があり、普段の札所とはまた違った類の荘厳さと、なんとなくの寂寥感を覚えさせる空気があります。

「ここをまたわれ住み憂くてうかれなば松はひとりにならむとすらむ」

かの西行法師が同地を訪れ、崇徳院を偲んで詠んだ歌。
記憶の彼方からそんな意趣が無意識化に湧き出てくるような、そんな霊場でありました。


第八十二番青峰山根香寺(高松市)

白峯寺から五色台の峠を越え、高松市側に位置する札所。
こちらも五色台に構える山岳霊場といった隔世の雰囲気であり、クリシェかもしれませんが「空気が違い」ます。
役小角の像がけっこうデカい!

また、同地には牛鬼の伝説が伝わっており、その角が現在も残されているとかなんとか。
全国にこうした事例はありますが、解析すると舶来品の大型哺乳類の骨であるという結果が出て、つまらない。
核心は聖徳太子信仰同様に、それが民間信仰として語り継がれていることこそが重要であるわけで。
‥‥ぜひ拙作妖怪回もご覧くださいね!


第八十三番神毫山一宮寺(高松市)

高松市中心街から南方へ数kmほどの閑静な郊外にある札所。
正直特筆すべき感動は無かったのですが、こんな住宅地の中に札所が紛れ込んでいるというのは、同地が元来は農村集落にある健気な一寺院であったのだという記憶を呼び覚ますことができ、なかなかにエモーショナル。
近世城下町より発展した高松という40万都市の古今を窺い知ることができる、そんな場所なのかもしれませんね!


第八十四番南面山屋島寺(高松市)

高松市を代表する観光地でありその景観を特徴づける存在・屋島。
その成り立ちは、讃岐平野ではもはやお馴染み開析溶岩台地。
屋島を登っていくにつれて展望できる備讃諸島のシルエットも、その起源を同じくするものであることが伺い知れますね!
死ぬほどいい景色ですね‥‥

さて境内、過不足のないお遍路札所といった景観ではありますが、よく見ると瓦には葵の紋が見え、高松松平家との繋がりを感じられます。
というわけで、屋島には水族館があり、古戦場があり、朝鮮式山城跡があり、ケーブルカー廃線スポットがあり、そして瀬戸内海の多島海を堪能できる絶景があり。
香川県札所の中でもイチオシの場所です!


第八十五番五剣山八栗寺(高松市)

こちらも五色台・屋島と同じく開析溶岩台地上にある札所でありますが、アクセスはケーブルカーで。
屋島のものは廃線でしたが、こちらは現役。
レトロな車両に数刻揺られ、凝灰岩の山肌が目立つ境内には僅かな土地を切り拓いて建てられたお堂が点在。
聖天・歓喜天が本尊の寺院というのも、もしかしたら私史上初めてかもしれません…。
本堂よりさらに上に天狗堂があるというのも示唆的でおもしろい。


第八十六番補陀落山志度寺(さぬき市)

ことでん志度線の終点、そして高徳線志度駅から徒歩圏内のアクセス至便な札所。
よく目立つ五重塔があり、それに向かって歩いて行くと、たまげた。
境内が至る所で草に覆われており、これまでのどの札所とも全く異なる、恰も植物園かのような様相を呈しております。
不思議な感覚がおもしろかった(小並感)


第八十七番補陀落山長尾寺(さぬき市)

こちらはことでん長尾線の終点・長尾駅と同じ名を冠する札所ということで終点感があり、エモい。
駅から徒歩数分で到着、壮大な境内というわけではないが札所としての威厳は十分。
さて参拝を終えた後、お遍路札所の山門にはありがちですが、ここ長尾寺にもドデカい藁草履が。
こうしたオブジェクトは基本的にはハヤリ神-流行病を齎すという身近な厄神-を人間社会の境界から追い払うため、大きな物体を掲げて驚かしてやろうというもの。
ちょうど此頃、櫻井徳太郎の著作を読んでいてハヤリ神について知見を深めたところであったので、ついつい興味が惹かれてしまいました。


第八十八番医王山大窪寺(さぬき市)

長尾寺から只管山側へ進むこと約9km、阿讃山地の峰に聳える荘厳な札所であり、四国八十八か所遍路結願の地。
尾根伝いに広大な境内と立派な山門、そして茶屋などお勤めを終えたお遍路さんを迎える商店でそれなりに賑わっており、これまた独特の雰囲気のある寺院です。
インバウンド客がそれなりに多いんですが、わざわざ日本にまで来て徒歩お遍路やっているんですかね…?
兎も角、皆さんお疲れ様でございました!


おわりに

レオマワールド(丸亀市)
ローカルいい遊園地

以上、香川県内のお遍路札所での想い出を振り返ってみました。
営業帰りにふとお遍路札所に立ち寄って日頃の穢れた精神を浄化できるというのは、私の強ぇ心―処世術ともいう―を鍛え上げるうえで重要な役割を果たした気がします。
そして文量に偏りがあり、興味を惹かれ撮った写真もまちまちなのですが、それはその時の志向を反映しているということで、また一興。
香川県。四国の外に出ようと思わなければ、生活に困らない程度には便利で、穏やかな気候で、住みやすい土地でありました。

あの無頼の都、人間喜劇の只中で再び暮らさなければならないのは、圧倒的に不安なのですが。
仕事なので、やれるだけやってみましょうね!

いいなと思ったら応援しよう!