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ドッグデイズ

人物表

津村(37)探偵
間宮(26)津村の助手
久慈(31)警察官
八神玲子(29)謎の女
高遠藍人(24)ボディガード

本文

○津村探偵事務所・応接間(朝)
煙草の煙で白んだ室内。革張りのソファーが机を挟んで向かい合う形で置かれている。机の上には煙草が入った灰皿が置かれている。上座のソファーにはジャケットを羽織った八神玲子(29)が座っており、その向かいにはスーツ姿の津村(37)と柄シャツを着た間宮(26)が座っている。津村は左手で煙草を持っている。
玲子「……とある物、を運んで頂きたいのです。何を運ぶのか、何のために運ぶのかはお伝えできません。とにかく、『それ』を指定した場所まで運んで頂きたいのです」
間宮「……だから、ずっと勘違いしてません? 何でも屋じゃないんスよ。ウチは探偵事務所」
玲子「報酬は必ずお支払いします」
間宮「金がどうって話じゃなくてさぁ……」
玲子「……津村さん。この探偵事務所は持ってあと一年、といった所でしょうか?」
津村「……何が言いたい?」
玲子「……助手の方は何でも屋じゃないと仰りましたが、最近はそうでもないんでしょう? グレーな団体のお手伝いで何とか事務所を保ててる、だとか」
間宮「……お前、何者だ?」
玲子「噂話ですよ。……そうですよね?」
玲子は津村を見る。津村は何も言わずに玲子の目をじっと見ている。
玲子「依頼を受けて頂けるのであれば、まず着手金として百万円をお支払いします」
間宮「はぁ!? 百万!?」
間宮は驚いた様子。津村は対照的に表情一つ変えず玲子の目を見ている。
玲子「……成功報酬は、その百倍でいかがで しょう?」
間宮は唖然とした様子。
玲子「そのほか着手期間中に発生した会計は全て、経費として成功報酬とは別にお支払いします」
間宮「いや……、元々きな臭い依頼だってのに、かえってどんどん信用できないな。そこまでして、何を運べって言うんだよ」
玲子「何を運ぶかはお伝えできません。……ただ言えるとすれば、私の資財を投げ打ってでも運んで頂きたい物なのです」
間宮「どーします……?」
間宮は津村の顔を見る。
津村「……」

○産業研究所・地下駐車場(夜)
広く薄暗い地下駐車場に黒い車が一台停っている。車の前にはスーツ姿の津村と間宮、二人の前にはトランクを持った玲子が立っている。トランクには鍵がかけられている。
玲子「移動の際高速道路は使わず、下道で目的地を目指してください。詳細な目的地を現段階で明かすのは危険なので、進捗に応じて目的地をお伝えします。移動を始めたらとにかく北上してください」
玲子は間宮にトランクを渡す。
玲子「このトランクです。繰り返しになりますが……」
間宮「開けちゃダメなんだろ?」
玲子「……はい。決して開けず、決して誰の手にも渡らないように、お願いします」
玲子は深々と頭を下げる。

○車内(夜)
薄暗い森の車道を車が走っている。運転席には間宮、助手席には津村が乗っ
ており、後部座席にはトランクが置かれている。
間宮「さっき口座確認したらマジで百万振り込まれてましたよ。何者なんスかね」津村は助手席側の窓を開け、煙草に火をつける。
間宮「何が入ってんのかな。開けてもバレないんじゃないスかねー?」
津村「とりあえず目的地までは何もするな」
津村は煙草を吸って煙を外に吐く。
津村「……目的地まで運んで報酬が振り込まれたら、トランクと得た情報を使って更に金を巻き上げる」
間宮「うわ、めっちゃいいじゃないスか。んなこと良く思いつくっスねー」
津村「気に食わない女だ。俺らを利用したつもりでいるんだろうさ。舐めやがって」
津村は狡猾な笑みを浮かべる。
津村「……でもいいさ。今はあの女の犬になってやるよ」
車が薄暗い森を走っていると、警察が検問しているのが見えてくる。
間宮「はぁ……? こんなとこで……?」
警察車両の前で旗を持った久慈(31) が、二人が乗る車に留まるよう指示する。
津村「面倒は起こせないな」
間宮「普通にしてりゃ何も起きないっスよ」
間宮は指示に従って車を止める。久慈は駆け足で運転席側の窓に近寄る。間宮は窓を下げる。
久慈「すみませーん。ご覧の通り検問してましてねー」
間宮「こんなとこで珍しいっスね。何かあったんスかー?」
久慈「ホント一応なんですけどね、近くの大学に爆破予告があってですねー。免許証見せてもらってもいいですかね?」
久慈は物腰柔らかく申し訳なさそうに言う。間宮はスーツの内ポケットから財布を取り出し、免許証を手に取る。
間宮「どうぞ」
久慈「すみませーん」
久慈は免許証を受け取る。
間宮「こんな夜遅くに大変っスね」
久慈「そうなんですよー。困りますよねー。……はい! ありがとうございます!」
久慈は間宮に免許証を返す。
久慈「ご協力ありがとうございました!」
間宮「おつかれさまでーす」
間宮が窓を上げようとしたのと同時に、津村は久慈が後部座席をじっと見ていることに気づく。
津村「早く閉めろ……!」
久慈はポケットから懐中電灯を取り出し、後部座席を照らす。
間宮「ちょ、なんスか」
久慈「後ろの席」
間宮はドキッとした表情。
久慈「何を置いてるんですか?」
間宮「……え?」
久慈「確認してもいいですか?」
間宮「……爆弾じゃないっスよ?」
久慈「じゃあ何ですか?」
間宮「えーっと……」
間宮の目が泳ぐ。津村は自身の腰元を左手で触る。腰元にはベルトに縛られた拳銃がある。
久慈「確認させてもらいますね」
間宮「そ、そんな強引過ぎやしないスか? 免許証だって見せたじゃないスか」
久慈「そんなに確認されるのが嫌ですか?」
間宮は焦った表情を浮かべる。
久慈「もしかしてですけど」
津村は久慈から見えないように拳銃を握る。久慈は睨むように二人を見る。
久慈「八神玲子に運べって言われた?」
間宮はハッとした表情。
津村「車出せ!」
間宮「はっ、はい!」
津村は拳銃を久慈に向ける。間宮はエンジンを思い切り踏み、警察車両を警察車両を突き飛ばしながら猛スピードで走っていく。

○下水道(夜)
暗い下水道の脇を、懐中電灯を持った玲子が照らしながら歩いている。その後ろを、右手にスマートフォン、左手にトランクを持った高遠藍人(24)が歩いている。高遠のスマホには津村と間宮が乗っていた車のドライブレコ―ダーの映像が映し出されている。
高遠「うわ、この二人警察吹っ飛ばして行きましたよ。早速大事になっちゃった」
玲子「囮として雇ったの。騒ぎを大きくして目立ってくれた方が好都合」
高遠「囮に百万も使ったんすか?」
玲子「一千万使ったの。囮はその二人だけじゃない」
高遠「俺も囮のうちの一人ってオチはないですよね?」
玲子「私が一緒についてるんだから、信頼して」
高遠「信頼ですか……」
高遠は前を歩く玲子が持っているトランクを見る。
高遠「だったら、そのトランクに何が入ってるか、教えてくれたっていいじゃないですか」
玲子「言えないって言ってるでしょ。何度も言わせないで」
玲子は吐き捨てるように言う。
高遠「警察が動いてましたよ? 俺が想像してた以上に只事じゃないみたいだ」
玲子「私が君に頼み事をしたんだから、そのくらい分かった上で受けてくれてるのかと思ってたけど」
高遠「俺の行動原理は常に金です。玲子さんの頼みだから、とかじゃない」
玲子「そうなの。少しショック」
高遠「思ってないでしょ」
玲子「思ってるよ。思ってるから、尚更中身は教えられない。知るだけで危険なの。これの中身は世界を変えかねない」
高遠「……冗談ですよね?」
玲子「私が冗談を言うキャラに見える?」

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