【第154回 開催レポート】「菜食主義者」ハン・ガン
開催日:2019年6月7日
課題図書:「菜食主義者」ハン・ガン
2005年に韓国最高峰の文学賞、李箱(イ・サン)文学賞を受賞。
その後、2016年にイギリスの文学賞で、世界的にも権威のある文学賞の一つであるブッカー国際賞も受賞したハン・ガンの「菜食主義者」が今回の課題図書。
ある夢をみたことをきっかけに、突然、肉を口にしない菜食主義になるヨンへ。
家族が心配するも誰の意見も聞き入れないヨンへは次第にやせ細り、おかしな言動を繰り返す。
そんな突如として壊れてしまった妻に戸惑い、苛立ちを隠せない「夫」。
ヨンへの臀部に未だ残る蒙古斑から自身の芸術活動と性的対象としてイメージを湧かせる「義兄」。
壊れていく妹を支え、更には壊れていく自分自身の日常を生きて行くしかない「姉」。
夫、義兄、姉。それぞれ3人の目を通してヨンへの崩壊の姿が描かれていく。
この作品は2002年から2005年に発表された独立した三編の中編小説であり、また一つの長編小説でもある。
予備知識なく読んだメンバーは、まず最初の一編が終わった後に、続きが読めることに喜びがあったようだ。
意外なことに初!韓国文学なメンバーが多く、「登場人物への感情移入ができない」「読んでいて気持ちのいいものではない」「心がゆれない」「変態さが足りない(?)」など理解の難しさや、戸惑いを語る一方。
そんな感想の後には、「でも」という接続詞が必ず現れ、
「面白い」「夢中になって読める」「予想していない展開に引き込まれる」「前衛的な新しい感覚を味わった」など両立するものなのだろうか?と思われる感想が並び、新しい感覚を味わったメンバー一同。
物語三編を通して、主人公のヨンへは菜食主義という形だけではなく、自分は「木」になりたいと思うようになる。
と一言で言っても「?」という感じだか、なぜ今まで普通に暮らしていた一人の女性が突如このような考えに至ったのか。
「肉食から草食」になりたいということの意味は「自分のなかの余分なものを排除し、光合成をし一人生きていく」「植物として生きていくことで安心する。そんな生き方しかできなくなってしまった」のではと、ヨンへの心の奥底に迫っていくと韓国での女性の立場や、背負っているもの、男性へのやり過ごし方など、息苦しい生き方からの解放を訴える姿、韓国女性の「今」が徐々に見えてきた。
またブッカー国際賞を受賞をしたのが2016年。
世界的にもMeToo運動やLGBTの権利について議論が盛り上がっている最中でこそ「菜食主義者」は評価を得たのではという意見も上がった。
最近は日本の地上波で韓国ドラマが流れ、K-POPが音楽売り上げランキングに当たり前に入り、近い存在のような気がしていた韓国。しかし今回の作品からは、今まで全く知らなかった韓国の姿を見ることができた。
その国に住む人にしか描けない苦しみや訴えを少しは感じ考えることができたのだろうか。
韓国の今を知る意味でも、韓国文学自体にも、興味を抱くきっかけになる(私はなった!)そんな作品に出会うことができた。