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ドラマの巨匠倉本聰は久々の映画脚本作品は秘蔵女優を売り出すためのものだった「海の沈黙」

「北の国から」や「やすらぎの郷」などドラマで長年活躍してきた脚本家倉本聰さんがかなり久し振りに映画脚本を担当した「Fukushima50」の若松節朗監督の新作です。

物語は

世界的な画家田村の展覧会で展示作品の一つが贋作であることが判明する。一方、北海道の小樽ではある女性の死体が発見され、その二つの事柄を結ぶ存在としてかつて天才画家と称されながら姿を消した津山の名前が浮上する。
かつての津山の恋人で田村の妻、安奈は小樽へ行き、津山と再会するが…

モックンの老けメイクが異様だった!

花の82年組が!

津山が本木雅弘さん、安奈が小泉今日子さんで花の82年組のアイドル二人の共演が昭和世代には懐かしかったりします。
画家田村役が倉本聰さんの「やすらぎの郷」シリーズで主演した石坂浩二さんでずいぶんと若作りしての出演。石坂浩二さんと小泉今日子さんの夫婦は世代的に違和感しかないですが、この作品の違和感がそれにとどまりませんでした。

中井貴一さんの役がとにかく変なヤツ

中井貴一さんが津山の番頭を名乗る元料理人の男を演じ、この男が年下のモックンに敬語を使い、大先輩石坂浩二さんに高圧的に接するシーンがあり、この作品の違和感が頂点に達します。
百歩譲ってモックンに敬語はモックンが主人だからわかるけど、目上の石坂浩二にあの態度は番頭ごときの身分で失礼過ぎます。
これは明らかにキャスティングの失敗か中井貴一さんがそれを感じさせてしまうほどヘタだったのかどっちかだと思います。
またしゃべる内容もトンチンカンで、津山は傑作を描いたその上にキャンパス(キャンバスと思うけど中井貴一さんはこう発音していた)を買うお金もなく、それに田村の絵を模写してさらに素晴らしい出来にしたと。そこに自分がサインを入れたのだと告白します。
何でお前が勝手に人の作品にサインをすんの?ってなります。なぜそのことをオリジナルの画家に偉そうに語るの?ってなります。
モックンが油絵の画家だけど、漁師で刺青の彫師の息子で今では彫師もやっているという設定も謎過ぎるし、意味不明です。彫師要素なくても成立する話だし、油彩画家より日本画家の方が彫師に向いていると思います。
回想シーンで「シコふんじゃった」でモックンと共演した清水美砂さんがなぜか刺青びっしりの全裸で登場するし、もうわけわからん場面のオンパレードです。


そんな中、若手女優がひとり

モックンに刺青を彫って欲しいと依頼する女性役で菅野恵さんという女優が登場します。この役もいてもいなくてもいい役だけど、末期がんで震えるモックンを裸で温めようとしたりインパクトある出演シーンが続きます。
なぜ映画初出演の彼女がここまでの豪華キャストの中に置かれているかと思ってプロフィールを調べたら、倉本聰さんの舞台に何度が出演している倉本聰さんの秘蔵っ子だったと知りなんか納得でした。
とはいえ菅野さんは魅力的に映っていたので倉本聰さんは満足していることでしょう。

作品としては

「ホワイトアウト」から退屈な映画ばかり作っている若松節朗監督作品ならではのデタラメな内容でなんか呆れつつ、やっぱりこんなもんかと思いました。
問題なのはこの作品が現代の社会とはまったく接点のない内容で、構想ん十年のせいかもしれませんが、今これを映画にする意味をまったく感じませんでした。せめて面白ければありなんだけど。
この物語の元となったのが陶芸家加藤唐九郎が古瀬戸を贋作した1960年の永仁の壺事件だと後で知り、構想64年かい!ってなりました。
絵画と陶芸ではやっぱり性質が違い過ぎて、ベテラン倉本聰をもってしても脚色が上手くいっていない気がします。
本物の芸術とは何か?確かに先日、壁にガムテープで貼られたバナナが現代アートとして高額で落札されたことを思うとタイミングが良いとも言えますが、どうにもモックン演じる芸者家と取り巻きの中井貴一がヘンテコ過ぎて、物語に入り込めませんでした。
「やすらぎの郷」シリーズには老人問題を考えさせたり、戦争体験を伝えるという意義を感じましたが、この作品にはそこまでの社会性が読み取れず、菅野恵さんを売り出したいということ以外は伝わってこない純粋な倉本聰秘蔵っ子女優の売り出し映画に見えてしまいました。
どうせなら「ブルークリスマス」級の怪作にしてくれれば良かったのに。

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