「八犬伝」を観る前に「里見八犬伝」(1983)を観直してみたら
「里見八犬伝」といえば自分の世代では角川映画の1983年版ですが、改めて観てみたら…
「里見八犬伝」(1983年)
監督:深作欣二
原作&脚本:鎌田敏夫
主演」真田広之 薬師丸ひろ子
日本映画の斜陽期だった1970年代後半から80年代、一番勢いがあったのは角川映画でした。
初期は横溝正史や森村誠一といった作家たちの小説を原作としたサスペンス系の作品のイメージだった角川映画も「野生の証明」で薬師丸ひろ子を見出してから薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子の角川三人娘を主演としたアイドル映画を打ち出していきます。
薬師丸ひろ子は「ねらわれた学園」「セーラー服と機関銃」ときて、大学受験のためいったん休業し、1983年に「探偵物語」で復帰し、その次の作品がこの「里見八犬伝」でした。
真田広之は「百地三太夫」で映画初主演し、千葉真一の秘蔵っ子としてアクションスターへの道を歩み出し、1982年の「龍の忍者」で海外に進出。
深作欣二監督とは「宇宙からのメッセージ」(1978年)と「魔界転生」(1981年)でがっつり仕事をしています。
「宇宙からのメッセージ」自体、和製「スターウォーズ」を目指した宇宙SFでありながら物語のベースは「南総里見八犬伝」なので、「里見八犬伝」の方がリメイクのようにも感じます。
旧東映版と比べると…
今回、この作品を観る前に東映で映画化された1954年の5部作と1959年の3部作を観直しましたが、ストーリーが全然違っていてびっくりでした。
伏姫はなぜ映画に登場しないのか?
八犬士の生みの親とも言える伏姫はこの3度の映画化に一度も姿を現しません。
1954年と1983年版では絵巻として登場し、1983年は声だけ松坂慶子によって演じられていますが、1959年版にはキャラクターとしてなかったことにされていました。
「里見八犬伝」のヒロインは誰なのか?
原作の「南総里見八犬伝」では序盤に犬塚信乃と浜路のラブストーリーが描かれますが、1983年版でも登場するにはするけどすごく脇役です。
代りに伏姫の末裔の静姫が登場し、八犬士は彼女を悪霊玉梓から守る役割を担います。
真田広之演じる犬江親兵衛は「南総里見八犬伝」では最年少の犬士として登場し物語の後半の主人公になる人物です。結婚する静峯姫は9歳年上の設定でびっくり。
企画の発端は角川春樹
角川春樹が子どもの頃に夢中になった「里見八犬伝」のリメイクをアイドル映画として作りたいと企画したものの、深作欣二監督が「魔界転生」みたいな伝奇ロマンにしようと脚本を書き換えたりして紆余曲折あって、結局は角川春樹が原作者の鎌田敏夫に自分の意向を反映させて脚本を書かせたというお話も。
「スターウォーズ」や「レイダース」の要素を物語に!
「レイダース」「スターウォーズ」「フラッシュゴードン」「アメリカン・グラフィティ」のイメージでと角川春樹が脚本の鎌田敏夫に要望を出し、この物語になったとか。
確かに後半の展開は「レイダース」みたいな大玉ゴロゴロ風アクションもあれば、人間関係は「スターウォーズ」ぽくもあります。
今観てもミニチュアが燃える落城シーンとかかなりよく出来ていて、映像的にかっこ良くまだCGの無かった時代にあれだけの見せ場をよく作ったなと感心しました。
ラブシーンがけっこう長い!
後半に静姫と親兵衛が結ばれるシーンがあり、その首から上だけのラブシーンがまあまあ長くて、今見ると謎です。どちらのファンにもイラっとくるだけだし。
でもその前に出てくる夏木マリの玉梓が全裸で血の池に入って若返るシーンでのチラ見せおっぱいが強烈過ぎて、主人公たちの温すぎるラブシーンはまったく記憶から消えていました。
キャスティングの妙
玉梓の息子の悪の王子的キャラが目黒祐樹で、彼は1954年版1959年版でともに里見義通役をしていただけに敵に転んでいてびっくりでした。
八犬士メンバーには千葉真一、志穂美悦子、大場健二、真田広之と半分がJAC勢なのも時代を感じさせます。
そのおかげで終盤のアクションがなかなかの盛り上がりを見せてもいます。
本来の主役キャラの犬塚信乃役は京本政樹でこの時点ではまだ「必殺仕事人V」出演前でブレイク直前の彼を起用していたのも先見の明。
主題歌がジョン・オバニオン
始まってすぐにジョン・オバニオンの主題歌が流れ、すごく違和感がありましたが当時としてはそれが新しい時代劇の在り方だったのかも。
電子音楽によるBGMは今観るとちょっと安っぽく残念。
とはいえ当時大ヒットしたのも納得の娯楽大作で今でも大スクリーンで観たらかなり楽しめそうな作品でした。「SHOGUN」の勢いに乗って4Kリマスターでまた劇場公開してもらえないものだろうか?