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日活ロマンポルノ『花弁のしずく』ネタバレ感想/トラウマから解放へ

1972年制作(日本)
監督:田中登
脚本:久保田圭司
キャスト:中川梨絵、三田村玄、牧恵子、大泉隆ニ、長弘、高橋明、雪丘恵介、大谷木洋子、橘田良江、金井千恵、佐藤八千代、原田千枝子、葵三津子、白川和子
配給:日活
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『(秘)色情めす市場』などで知られる田中登監督のデビュー作。主演は『エロスの誘惑』、『恋人たちは濡れた』の中川梨絵。


生花の名家の一人娘・雪絵は、不感症であり、性行為を穢らわしいものと嫌悪していた。それ故に、「女の悦びを知ったはずなのに、何か足りない」と父に生花を批判されると、「お父様の花は不潔だわ」と苦々しげに吐き捨てる。

そんな雪絵の表情を捉えたオープニングに、ああ流石田中登だなと感心してしまう。本作以降の作品と比べるとおとなしい印象を受ける本作だが、雪絵が行為を妄想する場面のアーティステックさや、行為を捉えた凝ったカメラワークなどそのこだわりが見て取れる。

雪絵は性行為を拒み、夫の春彦が強引に求めても反応をしない。その姿に嫌気がさした春彦は、雪絵の友人である秋子や、女中の和代と浮気をしていた。秋子との行為の最中に春彦は、タオルを口に咥えさせる。

何のために…と思ったが、その後のシーンで、秋子の家にあったタオルを見て、友人と夫が浮気をしていることに雪絵が気づくというところに繋がった時には、おおーと感嘆してしまった。更に秋子と春彦の行為で、足だけを映して前戯から挿入への流れを見せるカメラワークにも唸らされた。

ストーリー展開としては、不感症な雪絵がかつて雪絵に思いを寄せていた婦人科の精神科医と再会し、トラウマに向き合い、性の悦びに目覚めていくという、ありがちな展開である。

雪絵のトラウマは、幼い頃に両親の性行為を見てしまったことと、レイプをされたことに起因していた。それだけでなく、レイプをされた娘に対し「お前はもう傷物だ」「お嫁にいけない」と嘆く母親にショックを受け、母に対する嫌悪が、女性としての自身の肉体への嫌悪にも繋がっていた。

トラウマを思い出し泣き叫ぶ雪絵が、トラウマを乗り越え性の欲求を解放していく様は、グロテスクで、男性目線の都合の良さを感じるものではある。しかし、時代性や日活ロマンポルノという特性を鑑みてやむなしと目を瞑る。

そのような点を除けば、雪絵が自分で選んだ人と共になる、浮気をして自分のことを理解しようとしない夫から別れるという流れも、清々しさがあって良い。それによって父に生花の作品を評価されるという流れはやや癪に触るが、「花の道で生きていく」と雪絵が宣言するのは良い。

そもそもストーリーがあってないような日活ロマンポルノも多いなか、破綻せず監督のこだわりもつまっている……と、作品としての完成度の高さに目を見張る。カメラワークのスタイリッシュさがとにかく良く、満足度の高い一作であった。



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