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韓国映画『戦と乱』ネタバレ感想/時代劇ブロマンス

2024年制作(韓国)
英題:Uprising
監督:キム・サンマン
脚本:シン・チョル、パク・チャヌク
キャスト:カン・ドンウォン、パク・ジョンミン、チャ・スンウォン、キム・シンロク、チン・ソンギュ、チョン・ソンイル
配給:Netflix
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お嬢さん』(2017)、『別れる決心』(2023)のパク・チャヌクが脚本を手がけ、監督は『ミッドナイトFM』(2012)のキム・サンマン。主従関係から敵対関係になっていく2人をカン・ドンウォン、パク・ジョンミンが演じた。

実を言うと、私が韓国映画にハマったきっかけはカン・ドンウォンなのである。2024年は『憑依』に続き、『戦と乱』と新作が続けて見ることができて嬉しい。

そして、パク・ジョンミンである。若手の中では群を抜いて演技も演じる役柄も好きな役者だ。若手と思ってみていたが、30代後半なのでそこまで若手ではないか…それはまあいいとして、パク・ジョンミンはMVにも出演しており、個人的には(G)I-DLEとのコラボが好きである。余談。

そんな2人の初共演作となった『戦と乱』。正直なところ本当にパク・チャヌク脚本なのか、と感じた。あまりにも粗が目立つ上に、メインの2人のドラマも薄い。アクションは確かに力が入っていて面白かった。


舞台は16世紀末の朝鮮王朝。豊臣秀吉による朝鮮出兵による混乱と日本軍の悪行も映し出す。しかし、それ以上にテーマとして描かれているのは、倭寇より両班の方が憎いという庶民感情である。そもそも倭寇とは、13〜16世紀にかけて中国や朝鮮、日本において密貿易など略奪を行なっていた海賊のような人々をさす。

前期倭寇、後期倭寇に分けられ、前期は日本人が多かったが、その中には高麗人もいた。後期になると取り締まりも厳しくなった関係で、マニラなどを拠点に中国人が多数を占めるようになる。そして、豊臣秀吉による朝鮮への侵攻が行われた時期は、倭寇は取り締まりによって消滅に近い状態にあった。

庶民がどの程度知っていたのかわからないが、攻めて来た日本軍=倭寇とみなしていたのか、というのは驚きであった。憎しみからそう言っているのかもしれないが…。

とはいえ本作は、史実を元にしてはいるだろうが、かなりフィクションの要素が大きいと思われる。別に史実に忠実である必要はないが、リアリティがあまりにもないのも考えものだ。

小西隊の先鋒隊長・吉川玄信と名乗る人物が出てくるが、この人物は存在しない。(小西隊の小西は小西行長だと思われる)玄信とカン・ドンウォン演じるチョンヨンの会話を成り立たせるため、日本側の武士に通訳ができる人物がいるが、通訳を交えて会話をしつつ剣を交えるというやや不思議な空間が出来上がっている。

チャ・スンウォン演じる絵に描いたような悪王・宣祖は、実在の人物である。日本軍の侵攻によって義州まで逃げ延び、明に助けを求め、道中民衆から石を投げつけられるのも実際にあったようだ。

そんな混乱の最中、宣祖に国を守れと押し付けられた皇太子・光海君をモデルにした映画に『代立軍 ウォリアーズ・オブ・ドーン』がある。

題にある通り、日本軍と戦うことを強いられた代立軍が登場し、代立軍と共に戦うことで成長する光海君の姿も描かれている。代立軍が戦わざるを得ないのは、上の高官が逃げて戦う人が他にいないからである。

『戦と乱』においても両班である将軍の多くは国王と共に逃げ、残されたのは庶民ばかり。またチョンヨンは奴婢であり、本作は都合よく召使として使われ、非道な扱いを受けてきた奴婢の怒りも描かれている。

奴婢とは……中国・朝鮮・日本で奴隷をさす名称。奴は男の,婢は女の奴隷の意。
殷代から存在し,法律上では清末期の1909年まで続いた。奴婢相互だけの通婚が認められ,その子も奴婢とされた。漢代から南北朝時代の豪族は多数の奴婢を所有し,農耕・織布などに使役した。佃戸制の発展に伴い,生産面からは後退。明末期から清初期にかけて,奴変と呼ばれる織工の暴動が頻発した。中国での奴隷は,奴僕・僮奴などとも呼ばれた。なお日本では8世紀末から急激に減少し,朝鮮では19世紀の甲午改革で廃止された。

(旺文社『世界史事典 三訂版』参照)

しかし、奴婢の怒りをメインにした勧善懲悪な映画ではなく、本作はあくまで奴婢であるチョンヨンと、共に育った若君・ジョンニョのブロマンスがメインなのである。それ故にチョンヨンの葛藤や怒りが消化しきれていないところはある。

身分の差を超えて友人だと思っていた2人だが、様々なすれ違いを経て、超えられぬ身分の差をまざまざと感じるのである。それでも友と思いたい、あの頃のように無邪気に稽古をしていた頃に戻りたい、そんな2人の気持ちが切ない余韻となる。

カン・ドンウォン演じるチョンヨンが役の設定でも年上で、主従関係でありながら年少の若君をどこか放っておけない様子やチョンヨンを慕うジョンニョなどカン・ドンウォンとパク・ジョンミンの良さで映画全体を底上げしている印象はある。エンタメとして振り切れていない。かといってパク・チャヌクらしいコテコテの構図にはまっているわけでもない。消化不良なのだ。


そんな本作を見て想起したのは、以前カン・ドンウォンが出演した時代劇映画『群盗』(2015)である。監督は、『悪いやつら』(2013)のユン・ジョンビン。カン・ドンウォンが、兵役後初の出演となった映画である。共演は、監督のデビュー作『許されざるもの』(2007)から4作品連続で出演しているハ・ジョンウ。

『群盗』でカン・ドンウォンは珍しく悪役を演じている。『戦と乱』とは真逆の冷酷な武官で、庶民のことなど一切考えていない。しかし、冷酷でありながら、父親への歪んだ愛憎心を抱き、美しくどこか切なさも感じさせるダークな役どころを見事に演じ、ソードアクションも見事であった。

一方、ハ・ジョンウが演じるのは、屠殺の仕事をしているトルムチ。ある仕事を引き受けたら家族全員を殺され自身も殺されたが、金持ちからしか奪わない義賊団に命を救われ、共に行動するように。屠殺として虐げられてきたトルムチが最後は民衆のヒーローに。

時代劇とマカロニウエスタンを融合させた世界観で描く勧善懲悪なストーリーは見ていて非常に心地よい。メインのカン・ドンウォン、ハ・ジョンウだけでなく、マ・ドンソクにイ・ソンミン、チョ・ジヌンとキャストが豪華である。話のわかりやすさ、面白さにおいても『戦と乱』より、『群盗』をおすすめしたい。


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