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韓国映画『不思議の国の数学者』ネタバレ感想/落ちこぼれの生徒が出会った数学の天才
2022年制作(韓国)
英題:In Our Prime
監督:パク・ドンフン
キャスト:チェ・ミンシク、キム・ドンフィ、パク・ビョンウン、パク・ヘジュン、チョ・ユンソ、カン・マルグム
配給:クロックワークス
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名門私立高校の夜間警備員と、学校で落ちこぼれ扱いをうけている生徒の交流を描くヒューマンドラマ。韓国の学歴社会の厳しさは、様々なドラマや映画で目にするものである。更に、親のプレッシャーなど鬱憤を抱えた生徒や、親の財力を盾に弱い者を虐めるなどの構図も同様によく目にする。(どこまで実情に即しているかは分からないが)
本作も例に漏れず、描かれているのはそのような構図である。名門学校が恐らく体裁を保つために設けた支援制度の枠で入学したジウ(キム・ドンフィ)は、母子家庭で裕福ではない。周りにいるのは、裕福で良い塾に通う余裕のある家庭の生徒ばかり。ジウは学校に馴染めないどころか、パシリにされている。
成績も悪く、教師からこの成績ならランクを上げてトップになれる高校に転校した方が良いと言われる。教師までもジウを見捨てているのだ。しかし、名門校に入れたことを喜ぶ母の期待を裏切るわけにはいかず、学校に馴染めていないことも相談できずにいた。そんなジウが出会った警備員のハクソン(チェ・ミンシク)。ひょんなことからジウは、ハクソンが数学が得意だと知り、教えて欲しいと頼み込む。
ハクソンは、北朝鮮の出身で数学の天才として、北朝鮮代表にもなった過去がある。学問の自由を求め、韓国へと逃れてきた。しかし、息子を失った上に、競争が激化する韓国の教育の現状に愕然とする。そして、過去を隠し警備員としてジウの働く高校に勤めている。
失った息子をジウに重ね、親友のような親子のような関係になっていく2人。しかもジウは母子家庭である。あまりにも綺麗な、よくある設定・展開であるが、チェ・ミンシクが流石の貫禄をみせ、映画に重厚さを与えている。
数学が苦手であっても、数学の美しさを語る数学者の話には思わず魅了されてしまう。本作においても、ただ点数を取りたいだけのジウに、数学そのものの面白さを説く。その言葉にハッとさせられる人も多いだろう。
日本においても受験のための勉強、詰め込み主義、単なる暗記としてしまう教育が当たり前のようになっている。しかし、それは本来の学問だろうか。学ぶことの意味をどこかで忘れてしまっている。この映画のメッセージに胸を打たれつつも、それは理想だ——と思ってしまう自分が悲しい。
学歴社会で、道をちょっとでも外れればオワコンや、親ガチャなどが囁かれる昨今。学びとは……と考え、うだうだ言っていられる、少しでも選択肢があるだけ優遇されているのかもしれないと思うほど、貧困も格差も進んでいる気がしてならない。本作は良い話であるが、背景にある問題を考えると憂鬱な気持ちは晴れない。
また、邦題についてひっかかる点がある。英題は、「In Our Prime」で、「Prime」は、名詞で素数という意味を持つ。それに対し、邦題は「不思議の国の数学者」である。ハクソンが、脱北者であることから、“不思議の国”というのは、“北朝鮮”を指しているのか、と思ってしまう。そうだとしたら、些か無神経ではないだろうか。そのような細かいことを気にせずに見れば、本作は見やすい良い映画ではあると思う。
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