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映画『プラネタリウム』ネタバレ感想/降霊術ブームと時代の過渡期

2016年制作(フランス、ベルギー)
原題:Planetarium
監督:レベッカ・ズロトブスキ
キャスト:ナタリー・ポートマン、リリー=ローズ・デップ、エマニュエル・サランジェ、ルイ・ガレル、アミラ・カサール、ピエール・サルバドーリ、ダービット・ベネント、ダミアン・シャペル
配給:ファントム・フィルム
フランス映画レビューまとめ

ナタリー・ポートマンと、ジョニー・デップとバネッサ・パラディの娘リリー=ローズ・デップが姉妹役で共演。ナタリー・ポートマンは本作で初のフランス語での演技にも挑戦している。

1930年代後半。アメリカ人のローラは、霊感の強い妹・ケイト共に降霊術のツアーでパリを訪れていた。人々は姉妹が偽物か、本物か、暴こうと群がっていた。

そんな時、大手映画会社のプロデューサー・アンドレがケイトの力に魅了され、姉妹を主人公にした映画を作ろうとする。

ローラは、今まで霊的な力のある妹にばかり世間が注目していたのに対し、女優として自分が求められていることに喜びを覚える。そして彼女の中で野心が芽生え始める。一方でどこまでもピュアなケイト。姉妹は偽物なのか、それとも……。

“人々が見せたいものを見せる”

恐らく、姉妹の正体が本作の主軸ではないだろう。注目すべきは1930年代後半という時代である。


第一次世界大戦が1919年に終結し、世界が立ち直ったかと思えば、1929年にアメリカの株価が暴落、いわゆる世界恐慌に突入するわけである。映画の終盤はまさに第二次世界大戦へと突入せんとする世界の情勢を感じさせる。

それだけでなく本作で重要になってくるのは降霊術である。降霊術をはじめとした心霊主義(スピリチュアリズム)のブームは、19世紀に遡る。

1848年のアメリカで起こったハイズヴィル事件が近代の心霊主義の起源だと言われている。

ハイズヴィル事件とは…
アメリカのニューヨーク州ハイズビルのフォックス家に叩音現象がおこった。同家の姉妹がこの音との通信法を考え出し、それが以前その家に住んでいて殺害された人の霊からのものだということが判明したということになり、この事実は、人間の死後個性の存続、霊界と現世との通信可能性を示す証拠であるとされた。(日本大百科全書)

19世紀以降、心霊主義は欧米を中心にブームとなり中でも死者との交流を試みる降霊術は大きなブームとなった。しかし、その中にはインチキも多かったという。

この心霊主義に傾倒した著名人が、『シャーロック・ホームズ』シリーズの著者として知られるコナン・ドイルである。そんなコナン・ドイルと関係があるのが、「コティングリー妖精事件」である。

イギリスのブラッドフォード近くのコティングリー村に住む2人の従姉妹フランシス・グリフィスとエルシー・ライトが撮ったという妖精との写真の真偽をめぐる騒動であるが、コナン・ドイルは妖精が存在する証拠として彼女たちの写真を信じたという。


そんな心霊主義ブームは20世紀に入っても続き、1930年代においてもイギリス・ロンドンを中心にブームとなっていた。本作はそのような時代背景のもとに描かれている。しかし、そのような心霊主義や夢に生きる人々にとって辛い時代がやってくる。そう第二次世界大戦である。

時代に翻弄されながらも生き残る側として姉のローラは存在し、対照的に妹のケイトは新たな時代に生き残ることができない。夢を必要としなくなった、神秘的なものを信じられなくなった世界に、ケイトの力は必要ないのだ。第二次世界大戦を経て時代はどんどん変容していく。

時代の変化とともに常に淘汰されてきたものが、あるように私は感じている。それはマイナスなことでもなく、時代の流れなのだ。プロデューサーのアンドレはそれを認められず、時代に逆行してまで、執着し、結果的に破滅していく。本作が描いているのは、まさに時代に翻弄されつつも生き残る人々と生き残れない人々といえよう。その残酷さが美しい。


見出し画像(C)Les Films Velvet - Les Films du Fleuve - France 3 Cinema - Kinology - Proximus – RTBF

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