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韓国映画『ホリデー 有銭無罪 無銭有罪』ネタバレ感想/政経癒着への悲痛な叫び

2006年制作(韓国)
原題:홀리데이
英題:Holiday
監督:ヤン・ユンホ
キャスト:イ・ソンジェ、チェ・ミンス
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『ホリデー 有銭無罪 無銭有罪』を知ったきっかけは、崔盛旭氏の著書『韓国映画から見る、激動の韓国近現代史歴史のダイナミズム、その光と影』であった。『アシュラ』と関連して紹介されていた。(以下の記事参照)

本作は、韓国で実際に起きた「チ・ガンホン人質事件」元にした映画である。1988年10月8日、護送中の車からチ・ガンホンと数人の仲間ら脱走する。最終的にチ・ガンホンを含めた4人が人質を囲い立てこもる。

逃走用の車を用意するように要求し、様子を見に行った1人が捕まり、残りの2人は絶望して自ら命をたつ。残されたチ・ガンホンは“有銭無罪 無銭有罪”と政経癒着に対する怒りをぶちまけ、ガラスの破片を首に突き立てる。

「チ・ガンホン人質事件」についても私は知らなかったが、先に述べた崔盛旭氏の著書には、もう一つ重要な事件について言及されていた。それが、「チョン・ギョンファン横領/脱税事件」だという。

日本円で7億円以上の横領等で逮捕されたチョン・ギョンファンは、懲役7年の判決を受ける。それに対し、7億円にくらべるとちっぽけな50万円余り(日本円で)の窃盗の罪でチ・ガンホンは17年の判決を受けている。この「チョン・ギョンファン横領/脱税事件」がチ・ガンホンが脱走を試みる契機にもなっていたという。

なぜこのような理不尽なことが罷り通っているのか。それは、独裁政権下における政経癒着に他ならない。横領の罪で捕まったチョン・ギョンファンは、全斗煥の弟だという。

残念ながらふたつの事件について調べたが、日本のメディアやウェブ辞書で詳細の載った確かにソースは見つけられなかった。よって2つの事件に関する全ての情報は崔盛旭氏の記事による。

全斗煥といえば、2023年の韓国の観客動員数1位となる大ヒットを記録し、2024年に日本でも公開された映画『ソウルの春』は、全斗煥による粛軍クーデターを描いている。

全斗煥に寄せたファン・ジョンミンの外見のインパクトから憎たらしいと思ってしまうほどのヒールっぷりも印象深いだろう。

チ・ガンホンが脱走した1988年10月というのは、ソウル五輪が閉幕した直後である。当時の大統領は『ソウルの春』でファン・ジョンミン演じるチョン・ドゥグァン(全斗煥)の右腕のような存在であったノ・テゴン(盧泰愚)である。

チ・ガンホンは、「チョン・ギョンファン横領/脱税事件」を受け、全斗煥前大統領を殺したかったと供述したという。

『ホリデー 有銭無罪 無銭有罪』で実際に前大統領の邸宅まで押しかけ「話を聞いてくれ」と言うが、警備などに阻まれた上に前大統領は聞こうともしなかった。この展開はフィクションであろうが、社会の末端の人の叫びが踏み躙られ続けたことへの怒りが伝わってくる。

また、映画ではチ・ガンホンが「今まで沢山の人に助けてくれとお願いしてきたが、一度だって聞き入れられたことがなかった」と呟く。恐怖を感じながらもチ・ガンホンらの人質となった家族は彼らに同情する気持ちも芽生える。

流石にこのあたりは美化しすぎではと思うところだが、後にチ・ガンホンの人質に対して紳士的であったという証言が出るなど、評価が変わっているということも関係しているのかもしれない。本作は2006年制作ということもあり、今の韓国映画と比べるとやや感情的で大袈裟な劇伴ではあるが、この映画に込められた腐敗した政治に対する怒りは、現代の私たちにも突き刺さるものがある。

また、『ソウルの春』をはじめ、民主化運動を描いた映画等を見ていると、このような理不尽なことが罷り通ってしまうことにもそうだろうと思ってしまうのが恐ろしいところだ。

長々と映画の背景について語ってきたが、本作はクライム、ヒューマンドラマとしても楽しめる映画になっている。2つの事件について知った上で本作を見たが、知らなくても十分理解できる映画だとは思う。


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