映画『魚の目』ネタバレ感想/殻を破れないもどかしさ
田辺・弁慶映画祭の受賞作品を上映する『田辺・弁慶映画祭セレクション2022』にて上映されたが、劇場で見逃していた映画。「魚の目に水見えず人の目に空見えず」という言葉のように近くにいるからこそ気づきにくいもの。思春期の男女の、それぞれが思っているのに一方通行の思いをみずみずしく描き出した。
優等生の殻をうまく破れない、恋もよく分からず、言いたい言葉を飲み込んでばかり。誰かを傷つけることにも臆病な怜奈。家庭環境から先生に父親の影を追い求め、憧れと恋の狭間の感情をただ相手にぶつけてしまう海。
怜奈は、自分とは違う、感情を押し出し、相手にぶつかっていく海に、友情、愛、憧れ……様々な感情を抱く。一方で、脆くて折れそうな海を支えてあげたい、私がそばにいると伝えたくて伝えられずに1人もどかしく思っている。親友でも、彼女が求めている愛を与えられる訳ではないのだ。
また、怜奈の幼馴染で、ずっと怜奈を思い続けている楽人。しかし、怜奈は幼馴染としか思っていない。楽人は、諦めることはできず、気持ちを打ち明けて関係性が壊れることにも怯えている。自分を慕う女子に逃げ、気まぐれに付き合う。
皆が誰かを思い、その誰かは別の人を思っている。水槽のような狭くて息苦しい思春期のあの頃。見ている私たちも経験したことがあるかもしれない。私は特に、怜奈の切なる思いに共感し、グッときた。個人的に刺さるか否かで評価が分かれる映画だが、自分と波長の合う映画は大切にしていきたいなと思う。