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面差しに宿るもの

商店街に魚屋さんと八百屋さんがあるのだけれど
まあ商店街にはふつうどこでも
魚屋さんと八百屋さんがあるとは思うけど笑
この魚屋さんと八百屋さんは同じ店主が経営しているみたいで
魚屋さんと八百屋さんを大女将とその息子、
その嫁の若女将が忙しく行き来している。
料亭じゃなくなったってやっぱりそこで仕切っている
一番偉い人のオーラは買い物客にも見れば分かる
八百屋さんだけれどお化粧をパリッと施して
髪をうんと短く刈り上げて
言うたら前田美波里さんみたいな宝塚の男役みたいなオバやんが
買い物客を煽ってあしらって捌いている

息子はそっくりだからわかる。
それにどこかお母ちゃんに頭が上がらない感じもある。
年配の男性の姿は見えないから
お母さんが女手一つでここまで来たのかなとも勝手に思ったりする。

お嫁さんは、コロンと丸っこい体でせわしなく
よく動いているけれど
まだ上げ染し前髪のじゃないけど
お嫁に来てから始めた商売なのか所作が初々しく
イラッシャイイラッシャイとだみ声で煽るような商売人ぽさがなくて
カナリヤみたいな声で
イラッシャイマセ、アリガトウゴザイマスと
お客さんの勢いにかき消されそうだ
赤毛だって嘗ては全日本嫁連盟の末席を汚したんだ
買い物するたびに頑張れと小さいな声でエールを送っていた

その八百屋でひと際大きくイラッシャイマセイラッシャイマセ
今日は鱈が安いよ、お買い得だよと威勢の良いオバやんがいて
市場みたいに3時過ぎには売り切ってしまう店なのだけれど
最後の最後までお客に声をかけ続けている
良く働くオバちゃんのひな型みたいな人なんだけど

私が7時半ごろに出勤すべくちんたら自転車を漕いで
八百屋の横を通り過ぎる頃にはもう
山と積まれた段ボールから
早朝市場で仕入れた新鮮な野菜を
うず高く売り場にオバちゃんは並べている

売り場に響くダミ声は
私が引っ越してきた20年前から変わらないけれど
あの時のお嫁さんにも、息子にも、そして大女将にも
等しく時は流れて
嘗ての紅顔のお嫁さんの面差しに
威勢の良いオバやんが突然重なってみえて

ああ、そうか 
二十年の時が顔の皺やシミに流れてみれば
今の若女将はあのときのオバやんにそっくりで
ここも母娘だったのかと20年近く経って
お前どんだけ鈍いねんってツッコむところだけれど気づいて
ああ、お母さんは嫁いだ娘の商売先で自分も朝から晩まで
炎天下でも極寒の朝でも共に働き
イラッシャイイラッシャイと
娘を鼓舞し続けていたのかと思うと

20年分の走馬灯が私の脳内で上映されて
母の愛は深いなあと
それは勿論嫁ぎ先の大女将もそうだけれど
ふたりの母親があの八百屋と魚屋を切り盛りしていたのかと思うと
跡を継いだ息子さんもヘイ、いらっしゃいと
商店街の看板みたいな両店舗を切り盛りし、
遠方より客来るまた嬉しからずやと集め続けていると思うと

最初に結婚する時に元夫と商店街のある街に住もうと
それだけは条件だったのだけれど
買い物はいまやネットでもできるし大型ショッピングセンターが優勢だけれど
買うことの向こう側には食べるとか暮らすがあるし
そこを媒介してくれるお店と物語と人のいる商店街で買い続けたいなと
離婚はしたけれどお互いやっぱり商店街の近くに住んでいるなと
ふと思うブルーマンデイ

行ってきまっしょい

驚異の17億回再生
地球の反対側でもきっといま誰かが
聞いていると思うそんな曲


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