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認知症グループホームのお仕事

認知症グループホームでの仕事って、一体どんな事をしているのか、わからない方も多いと思います。
事業形態の違いは少し調べればわかるかもしれませんが、職員が何にこだわって、どんな事を考えて動いているのか、というのはその業種・その職場で働いてみないとわからないものです。
そこで今回は、グループホームの仕事を一つの事例で描いてみました。

Aさんが独りで外に出ていくようになった

※個人が特定されないように、事例の情報は一部変更しています。

最近、ホームに入居しているAさんは独りで外に出て行ってしまうようになりました。まだお若いので平気で2時間でも3時間でも歩け、どこにでも行けます。
そのうち、一日に何度も自分で外に出ていくようになり、行方不明にもなりました。
警察に保護してもらう事も出てきました。

Aさんの情報

そんな時、まず私たちはなぜ出ていくようになったのかを、Aさんの生活歴や人となり・最近の様子から探ります。

Aさんは、70歳代半ばの女性で、アルツハイマー型認知症、旦那さんとは死別していますが夫婦と子供三人の家庭を築いた方で、子育てをしながら仲居さんとして働いていました。
ホームに来てからは、ホームでの家事を自分の仕事と思っていて、何も言わなくても勝手に調理・洗濯などを自ら行っていました。

しかし、独りで外に出ていくようになった頃、他の利用者や職員の悪口を陰で言ったり、家事を「やりたくない」とやらないことも増えていました。

認知症に対する知識

職員は行動の規範になる考えを持っていなくてはいけません。経験だけを手掛かりにしていると、過去の認知症に対する偏見の歴史から脱却できないからです。

認知症の方の「徘徊」などに対して、今の日本の認知症ケアは
「徘徊」自体を「問題」と捉えるのではなく
「記憶障害」に起因する「行動・心理症状(BPSD)」
と捉えます。
平たく言うと
本人は記憶障害で困っていて、困っているから自分で解決しようとして歩き回ったりする、という事です。

手がかり

そんな感じで2か月程した頃にこんなことがありました。

夕食後の事です。

Aさんが行ったり来たり、トイレに座ったりといつものようにウロウロと歩いていたのですが、私のところに来てこう言うのです。

「さがらさん。もうどうしよう」
「私わかんなくて」
「訳わかんなくなっちゃって」
「何して良いかわかんないの」

と。

困ったような、今にも泣きだしそうな顔をして
「何もできなくてごめんね」
と誤るのです。

言葉を整理する

話をゆっくりと聴き、ひとつひとつの話の内容を整理すると

調理については、「ぐちゃぐちゃになっちゃって」「わたし変な事するから」「やらない方が身のため」と言います。
片づけをしている他の利用者さんについては「あの人は自分勝手だから」と。
職員については「『あれやれ』『これやれ』と命令される」と。

言葉をつなぎ合わせると
調理や片づけなどをやろうとするけど、以前のように「できない」と自分で感じ
他の利用者がやっているのを見て、うまく出来ていない自分と比較して、相手を自分勝手と考え
できない自分を認めたくないと思って、家事をやらないようにしたり
他の方の悪口を言って自分を防衛していていた
ようです。

BPSDの原因は?(本人の気持ちを推察する)

紐解くと

主婦や仕事での生活歴や、ずっと今までホームで家事を行ってきた事から、「何かやりたい」「やらなきゃ」という気持ちでいるのに

「できない」「わからない」という歯がゆさがから

「何をしたらよいのか」わからずに歩き回ったり

何もできなくて、ここに居場所を感じられずに外に出て行っている

と、推察しました。

そしてそこから、

Aさんが本来求めていたものは、「家事がしたい」だという仮説を立てました。

対策

そこで、再度Aさんが調理をできるように職員総出で関わります。
センター方式のⅮ-1シートというアセスメントシートを使用して、Aさんのまだ「できる事」を職員みんなで調理をしながら探します。
そして、「できる」事は最大限にやってもらい、「できない」事はそっと職員が手伝ってフォローして「できない」事を突き付けないようにしました。

結果

職員と一緒に調理するようになって、Aさんの焦燥にかられて歩き回ったり、人に八つ当たりしたり、外に出ていく事は激減しました。
本当に、楽しそうに調理をするのです。
対策を行ってみて分かったのですが、「一緒にやる」という事が本当のニーズだったようです。うまく出来なくても誰かと一緒にやる事で明らかに充実している様子がわかるからです。

こんな学びがある

Aさんの事例でグループホームの仕事を描いてきました。
認知症の方のBPSDは、本人の内的体験を表現した結果です。
それなので、本人からBPSDという形で気持ちが表出された場合は、起こった結果だけを見るのではなく、認知機能の低下が原因で本人の気持ちの中で何が起こっているのか、を探る事が大切です。

そして、上で描いたように、生活歴や言動・言葉などから本人の内的体験を探り対策を立て実践するという過程がグループホームの仕事のやりがいであると思います。
また、認知症の方と関わり続けると、認知症の方の表現は、自分にも当てはまる「人」としての当たり前の表現だと感じる事が多々あり、自分自身の学びにもなります。
そして、グループホームで少しでも認知症の方が困らない場所を創る事ができれば、少しだけ社会を変える事ができると思えます。そこが何よりの楽しみです。

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