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訪問美容師さんに辞めてもらった話し

ホームに来ていた「訪問美容師」さんに辞めてもらうことにしました。
カットをするホームの利用者に対して、命令口調で指示していたからです。

その美容師さんの資質もあったと思いますが、認知症の方とのコミュニケーションの仕方を知っていれば、起こらなかったのではないか、とも思います。
そこで、事の経緯を説明しながら、認知症の方とのコミュニケーション方法についてお話しします。

美容師さんが利用者さんに命令していた経緯

うちのホームでは利用者さんのカットをしに、訪問美容師さんに2か月に一回来てもらっています。そんな中、昨年10月の訪問日にその事件は起きました。

美容師さんがカットされている利用者さんに、きつい命令口調で「足!引いて!」と言っていたのです。
私はカットしている洗面所の裏側を歩いていてその声を聞きました。見に行くとカットは終わって髪を掃いているところでした。
実際にその場面は見ていなかったので一旦その場を離れると、カットが終わった利用者さん(以下Aさん)が自分のところに来て
「私は、ここに来て欲しいと言われて来たんだけど、必要ないみたいだから帰ります」
と言い、帰ろうとします。
※Aさんは自分の居る場所を認識出来ず、今の状況に合わせてホームを自宅や職場やデイサービスなどと解釈しています。楽しければ自宅の様な場所と思うし、嫌な事があると何かのお客さんだと思い帰ろうとします。
私は、Aさんの様子から、なんか嫌なことがあったのだな、と感じ、その原因をさっきの美容師さんの声と結びつけました。

利用者さんのお話をゆっくりと聞いて気持ちを落ち着かせた後、その美容師さんに状況を聞きに行きました。

私:「Aさんがカットを終わった後に『帰ります』と言っているのですが、何かありましたか?」

美容師:「いえ。別に」

私:「間違いかも知れませんが、美容師さんがキツイ口調で『足っ!引いてっっ!』と言っているのが聞こえました。それが原因なのかと思って話しに来ました。Aさんが帰りたがっている原因かどうかは別にして、利用者さんに命令口調をするのは辞めて頂けませんか?」

美容師:「あ。スイマセンでした。キツく言ったつもりはないんですが…」

ここでお話は終わりにしました。
この状況でこれ以上お話しても、責めている、と思われてしまうからです。その日は、いつも通り普通に清算をして帰ってもらいました。

ここまでが、事の経緯です。

この美容師さんは、そもそも無愛想ではあったのでゆくゆくは変えても良いとは思っていましたが、1人1,000円という料金が安さと、私がホームに来る前からお願いしていたので特に深く考えずに継続していました。
しかし、今回の事があり、帰った後に美容師さんを派遣している業者との契約書等を確認すると、期間を定めて契約している訳ではなかったので、この機会に業者さんを変更する事にしました。

しかし、今回の事が起きてしまった事を人のせいにしただけでは、同じことが起こる可能性があり、原因を検証しなければいけないと考えました。

利用者さんへの命令口調はなぜ起きたのか

「利用者さんへの命令口調はなぜ起きたのか」を美容師さんとAさんのメッセージのやり取りに焦点を当てて分析してみます。

考えられる状況だけをあげてみると
美容師さんは髪を切り終わった後、床の髪を掃きたくて、最初はAさんに「足を引いてください」と言ったはずです。
それに対して、Aさんは足を引かなかったのだと思います。
そこで、美容師さんは足を引く事を伝えるために強い口調で「足っ。引いてっ!」と言ったんだと思います。
つまり、足を引いて欲しいというメッセージを、「強く言う」という方法で伝えた、という事です。
しかし、これは、「わかっている」のに「しない」人に対する方法で、「足を引く」という事自体が伝わっている事が大前提です。
認知症の方は、今の状況を判断する事や言葉を理解する事が難しく、そもそもわかっていない事が多いです。

私が美容院に行ったなら、カットが終わった位で「床を掃くから足を引く」という状況がわかります。寝てたりボーとしてたら言葉で言ってくれればわかります。
しかし、認知症で、その状況・言葉を理解していない方に「強く言って」も意味がありません。
結果として、「強く言われた」という行為のメッセージだけが伝わってしまいました。

その美容師さんの資質もありますが、認知症の理解がなかった
という事が今回の事の大きな原因と思っています。

悲しかった事

悲しかったのは、少し時間が経った後、
Aさんが片づけをしている美容師さんのところに行って
「次はうまくやります。私もよくわからなくてここに来ているので…」
みたいなことを言って誤っているのです。

Aさんは、「わからない」という自分をわかっているので、強く言われた事に対して自分が悪いことをしたと思って必死に誤っていました。 状況はわからないけれど、私たちと同じように「人とうまくやらなくては」と思っているのです。
とても、不快な思いをさせてしまいました。

まとめ

認知症の方とのコミュニケーションでは、記憶障害や見当識障害・言葉の伝わりにくさなどの「認知症の特徴」を理解しなくてはいけません。

認知症の方が状況に合わない行動をするは、気付いていないか、できないのです。そこに全く悪気はありません。

また、人間ですから人とうまくやろうと取り繕って生きているから傍目には普通に見え、できない事がやらないように見えてしまうのです。

認知症の方に関わる側にその知識がないと「わからない」のではなく「やってくれない」と捉えてしまい、大きな声や何度も言う等の「怒っている」というメッセージだけを送ってしまうことになります。

今後は、直接介護をしない関連業者さんにも、「認知症」の知識を知る機会が設けなければいけないと考えました。

そこで、新しい美容師さんは、ホームで定期的に行っている地域の方向けの認知症の勉強会への参加をお願いし、前向きに参加してくれる方に来てもらう事にしました。

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