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2024年に見た映画の与太話
「――で?どうせへんな映画ばっかり見たんでしょ?」
「失礼ね。わたしのなかではジャンルがかたよらないように面白い映画を探してるだけよ」
「わかったわかった。年に1回くらいだから、その詭弁にもつき合ってあげる。面白い映画教えてほしくてきてるのは確かだし。今年もお願いします。じゃ、まずはジャブから頂戴。ジャブから」
「なにジャブって……?」
「とりあえず、このへんならまだ世間様に白い目で見られないかな……っていう弱パンチのラインよ」
「なにそれ。まあいいけど……。あーあと、まず一応断っとくと、わたしの選ぶものは新しいものばかりじゃなくて、あくまでも去年見たものからってくくりだからね」
「はいはい。了解」
「そうね……じゃ、そのジャブ感はよくわかんないけれど、例えば清水崇監督の撮った『犬鳴村』っていう映画があって――」
「あ、その人、聞いたことあるかも!たしか『呪怨』とかの監督でしょ?」
「そうそう。日本の有名ホラー監督ね。その清水監督がとった都市伝説と因習ホラーをかけ合わせた作品に『犬鳴村』って言うのがあるんだけど、その『犬鳴村』には"恐怖回避ばーじょん"っていうのがあるのよ」
「え?ホラー作品なのに、恐怖回避バージョン?それ意味あるの?」
「怖いものが苦手な人にも見れるようにという配慮のもと、怖いシーンがくるとかわいい犬が教えてくれたり、なぞに明るい音楽が流れたりして、恐怖を回避するという努力は垣間見えたかしら。ただ……」
「ただ?」
「わたし的にはもともと『犬鳴村』がたいして怖くない。あとまぁご想像のとおり結局、本末転倒ね」
「ですよね~」
「試みとしては評価したいとは思ったのだけれど、もはやどうなったら成功だったのかわからないというのが正直な感想だったわ」
「なるほどね。でも、たしかに気になる!見たいかどうかはともかくいいジャブだったと思うよ。ちゃんと世間との距離感意識しててグッド!この調子でいってみよ!はい、じゃあもうひと声お願いします!」
「今年はわりと素直に聞いてくれるのね。じゃふたつ目は『鬼畜大宴会』っていう……」
「まってまってまって……。急に距離感バグってるパターンだから。だってそれヤバイ映画でしょ?」
「赤軍をモチーフにして、脳みそぐちゃぐちゃしたり、森のなかでリンチしたり……」
「はい、もういいから。ごめんわたしが悪かった。頼むからもうちょっと普通のTPO意識した感じでお願い」
「そう――。いい作品だったのに。じゃあ話題作とかの話にする?」
「話題作?」
「そう、例えば『バービー』とか」
「ああ、名前聞いたことある!人形のバービーの話よね」
「そう、人形のバービーが人間の世界にやってくるって感じの話なんだけど、人間の世界は男性が優遇されていてヒドイ。こんな世界でいいの?みたいなフェミニズム映画ね」
「なんか頭でっかちみたいな感じ……」
「そういう要素があるのは否定できないけど、バービーを作ってるマテル社っていうのが全面協力してて作中にもがっつり出てくるし、バービー役のマーゴット・ロビーは見事にバービーだった。日本人が好きな感じではないかもしれないけど良くも悪くも精力的な映画だったのは確かよ。面白かった」
「へえ~そうなんだ。今度、見てみようかな。ほかには?」
「話題作をならべるなら『リバー、流れないでよ』とかはどう?」
「それは聞いたことないな。どんな映画?」
「なんとこの作品、2分しかもたないのよ」
「……?どういうこと?」
「時間が2分たつと、みんな元の場所に戻っちゃうの」
「え?たった2分?それじゃなにも進まなくない?」
「記憶はのこるから、2分ぶんの経験は引きつがれるの。その2分をつみかさねることで、どんどんドラマが進んでいくっていうSFコメディね」
「え、気になる~」
「オチは好き嫌いあるみたいだけど、ネタは抜群におもしろいし、わたしは好きだったよ」
「いやほら、そういうのだって!誰か食べたりとかグチャグチャとかじゃなくって、そういう気になる~ってやつ教えてよ!」
「普通ね……別にいいけど。去年はわりとマンガの実写化作品が良かったかな」
「あーでも実写化ってよく酷評されてるよね」
「まあ『デビ〇マン』にはじまり『進撃の〇人』とか『耳を〇ませば』、まったく擁護できないレベルの作品が多いのもたしかだけど、人間描写を描いた作品には結構秀作が多いよ。去年、見たなかでいうと『君は放課後インソムニア』とか『東京リベンジャーズ』とか、あとちょっと前の作品だけど『ちはやふる』もすごくよかった。わたし、『ちはやふる』のシリーズ最終作「結び」に去年の最高得点をつけてたし」
「おおーすごい!そうなんだ。広瀬すず好きだし、『東京リベンジャーズ』とかイメケン沢山でてるやつよね。見てみよ~っと」
「あとは、そうね……実写化という意味ではプーさんやハイジも頑張ってたわ」
「むかし、パディントンのやつとかもあったもんね。やっぱりかわいくて胸打つヒューマンドラマって感じ?」
「たとえばこの『プー あくまのくまさん』は……」
「ちょっと待って。いまのなに?」
「なにって、映画タイトルだけど?」
「……一回、聞かなかったことにしてあげるから続けて」
「プーたちとクリストファーロビンは少年時代には森で仲良く遊んでたんだけど、クリストファーロビンが引っ越したあと、食べるものがなくなってしまい、プーは手始めにイーヨーを食べて急場をしのぎ……」
「まてコラ」
「その後、成長して森に帰ってきたクリストファーロビンとその彼女に対して、八つ当たり的に復讐をするスプラッタホラー……」
「ヒューマンでもドラマでもない」
「プーさんの著作権が切れたのをいいことに、好き勝手につくりあげたネタ色の強い映画ね。さっきのイーヨーが食べられちゃうところは冒頭のナレーションしかなくて、いわゆる"ナレ死"なんだけど、はっきりいってそこが一番テンションあがったかしら」
「出オチもいいとこ……。その流れだとハイジっていうのも?」
「いや『マッド・ハイジ』のほうはちゃんと面白かったよ」
「タイトルがすでに出オチなんですけど」
「"アルプスの少女ハイジを、B級エログロバイオレンスバージョンにアレンジした"ってうたってて、クラファンでお金集めた作品ね。スポンサーがいないぶん、自由に楽しんで作ってる感じがあってとってもいいのよ。エロはほとんどないしグロもたいしてないR18作品だけれど、見どころあふれる良作だったわ」
「うそ……ふつうにオススメしてるし」
「だっていい作品だったから。B級じゃないとは言わないけど、いいB級作品だし、良し悪しに貴賎はないわ」
「なんの文句もいえないド正論……」
「あと好きだったと言えば『ヴィ―ガン・ハム』っていうのも面白くて……」
「ヴィーガンといえば野菜しか食べない人のことよね。これも、さっきあげた『バービー』みたいな感じ?なにか主張するような固い感じの映画?」
「これはね肉屋のお話なの」
「え、ヴィーガンなのに?」
「そうヴィーガンはいっぱい出てくるけれど、彼らは主に食べられる役」
「ストップ!ダメ!放送コードにひっかかります!」
「不謹慎でおもしろいのに。牛でもへんなもの食べてると美味しい肉にならないでしょ。その点、ヴィーガンなら問題ないから。最後まで不謹慎をつらぬいていて、食べそこねた少年の名をつげるシーンとか最高……」
「問題ありまくり!もうおしまい!ダメ!今年はもうおしまい!皆様、また来年お会いいしたしましょー!」
「またね~」
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