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優良誤認と無添加への盲目的信仰の問題

前回のnoteで、かつお節のオーガニック認証について書きました。
そこでは、オーガニックや有機JAS認証を取得した食品を中心に扱っている会社とのやり取りについて記載しましたが、これは現代の日本に溢れている、」盲目的な無添加信仰の問題が表出していると考えます。

かつお節とは少しお話がずれますが、今回は今の日本における「優良誤認表示」と、それらを鵜呑みにする人の「無添加への盲目的信仰」について、少し辛口で書いていこうと思います。

ひょっとしたら、皆さんの中にはこの記事に反感を持たれる方がいるかもしれませんが、「添加物」というものについて一歩引いて考えていただける機会になったらいいなと思います。

透けて見えるほどきれいに捌かれたカツオ。中落の身もスプーンでこそぎ落として使われる。

『優良誤認』を誘う表示の問題

前回の記事に上がっていたサイトでは、オーガニックな食品を中心に扱っておられ、弊社に対して『御社の商品がオーガニックでしたら、ぜひご出品いただきたいと思い、メールを差し上げました。』というメールをいただきました。
かつお節は、オーガニック認証や有機JAS認証を取れない食品であることは前回の記事でも書きましたが、このメールを送ってこられたサイトでは既にかつお節の取扱いがあります。(こちら)
そして、その商品の説明文に

添加物・保存料・化学調味料不使用|削り節は鮮度が命!作成2年+熟成2年の本格鰹節。真空パックで酸化防止対策済み!

(サイトより引用)

とあります。
さて、ここでかつお節屋の私から、この説明に疑問の声を上げるとすればこうなります。
『かつお節を製造する工程において、どこで添加物や保存料、うま味調味料を使用するのでしょうか?』
このような書き方では、一般的なかつお節の製造現場に於いて、添加物・保存料・うま味調味料(このサイトで指す化学調味料)といったものが、あたかも使われているように誤解されてしまいかねません。
これは優良誤認を誘う手段と言われても、否定できない書き方です。
(尚、現在において、化学調味料という表記は誤解を生む表現として使用が取り止められ、うま味調味料と表記するようになっているので、その点でもこのサイトの表記には問題があります。)
かつお節の製造工程は非常にシンプルで、

①荒節
生切り→煮熟(煮る)→骨抜き→焙乾(燻製)
②枯節
生切り→煮熟(煮る)→骨抜き→修繕→焙乾(燻製)→表面削り→日干→カビ付け

<かつお節は洗った方がいい理由> より引用

このようになっています。
この中で、どの工程で添加するというのでしょうか。
良く見せたいと思って書いたという事であれば優良誤認であり、もしもどこかで本当に添加物を使用しているとすれば、それは表記されるもので、未記載では済みません。

また「作成2年+熟成2年」と、お客様のお手元に届くまでに約4年(48カ月)経っているという点につきましても多くの疑問点がありますが、これはサイトの表現というよりも問屋さんに尋ねるべき内容かと思いますので、こちらでは割愛いたします。
ですが…参考までに記載いたします。
製造をかなり丁寧に時間をかけてやっている弊社の生産者は、魚の生切り~タイコウへ出荷するまでに最長で8か月、弊社で熟成~出荷までは2か月~18か月が目安となります。ただし、熟成期間が8か月を超えるような節は、かなり水分が抜けて硬くなってしまうため、一般消費者向けではなくなりますので料理店さん向けとなります。
ですので一般のお客様向けに販売する場合は、最長で製造(このサイトで言う作成)8か月+熟成8か月として、16カ月が目安となります。これは、かなり長い方です。
48か月という時間が、いかにとびぬけた数字かご理解いただけると思います。

また、実はこのサイトの食品の説明については、かつお節だけではなく、昆布についても大きな疑問があります。
その内容について、弊社も取引させていただき、度々勉強させていただいている大阪の「こんぶ土居」さんにお尋ねしましたところ、こちらのようなブログを書かれました。

ウソ情報を見破りたい、昆布の誤情報を紹介します

 (こんぶ土居の店主ブログ)

先に申しておきます。
キレッキレの切れ味で…はっきり申しまして、かなりお怒りで書かれておられました。
どのような内容かご覧になられたらわかりますが、これは優良誤認を誘うというよりも「間違った情報を書かれている」と言えます。
よろしければ、どのような問題があるのか、一度目を通していただけますと、内容の意味と土居さんのお怒り具合が伝わるかと思います。

『無添加の代名詞』の出汁素材、いりこも、酸化防止剤が使われているものがあります。

無添加への盲目的信仰

そしてもう一つの問題。それが『無添加』という言葉への盲目的な信仰です。
私はここで、敢えて「盲目的信仰」と書きました。
信仰とは信じて仰ぎみる事。絶対視する事です。これは悪く言い換えるならば、強い表現にはなりますが、「考えることを放棄して鵜呑みすること」といえます。
これは非常に大きな問題ですが、これここに関しては、販売者側の問題ではなく消費者である私たち自身の問題であり、またそれを逆手に取った販売方法が上記のサイトのような表記になるのではないのでしょうか。
無添加という「言葉のみ」を盲目的に信仰していると、本来は添加物を使用していないもの、不要であるものに対して、「あえて使っていません」と表記することで、あたかもそれが他の製品よりも優れているように見せられた場合、それを考えることなく鵜呑みにすることで『良い商品』であると思い込んでしまいます。
それは、本当に良い品を選んでいると言えるのでしょうか。
単に『無添加』という響きだけで、良さそうなものだと思い、購入してしまうことで、無添加と書かれていない本当に良い品を見落とすことになりませんでしょうか。
その品物が作られる場合、どのような原料が必要なのか、何のためにそれが加えられているのか、逆に何故添加物が無くても問題がないのか、そういったことを消費者自身が考えて知識を身に付けない限り、言葉遊びに翻弄されるだけになってしまいます。

更にいうと、このような優良誤認を誘う表記をするのは、本当に良い商品を届けようと考えている会社がやる事でしょうか。
生産者のことや商品のことを、より良く、より魅力的に伝えたいという考えは、販売者側としては販売促進のためですから、当然のことです。
しかし、過剰な表現は生産者の首を絞めることになるという事に、気付かなくてはいけません。
かつお節の事も昆布の事も、標記されている内容に疑問点が多々あり、これらの内容が販売者が勝手に語っていても、生産者(又はメーカー)が言っている事であると受け取られ、その内容に問題があった場合、彼らの信用に大きな傷がつくのです。
伝える側には『責任』があります。
自分の言葉が正確に伝わっているか、拡大解釈や誇大表現で誤解を招いていないか、そもそも間違った説明をしていないか、それらを確認しないと、自分たちだけではなく多くの方に迷惑をかけてしまい、それは信用の失墜にまで至ることもあります。
今回のサイトの表現は、まさに『無添加』という言葉への疑惑が浮かび上がるものですので、消費者も一度立ち止まって、本当にここに書かれていることは正しいのか、考えなくてはいけないと思います。


伝統的な発酵食品の、運命の分かれ道を繋いだ人がいました。

添加物の意味

そして最後に、少しだけ皆さんに考えていただきたいことがあります。
それは、添加物は本当に「悪」なのかということです。
添加物は様々な働きのものがあり、単体成分では問題ないと言われても、それが複数同時に摂取した場合や、体内に入って消化液と混ざり合った場合や分解された場合、そして変化した成分が体内へ吸収された場合、身体にとってどのような影響が出るかわからない面もあり、怖いと思う方も少なくないと思います。
また、安価な原料を使うことで物足りない美味しさを、補う意味で使われることもあり、「品質の高くないものに使われている」と考えられる方もいるでしょう。
私も個人的に買い物をするときは、原材料表示を確認し、可能な限り添加物を含まないものを選んで購入します。

ですが、何故それらが生まれたか、というところにも考えを馳せてほしいと思います。

先に答えを言うと、『必要だったから』です。
別のいい方をするならば、『消費者が求めたから』です。
安価に、美味しく、いつでも、どこでも、手軽に、食べられるものが、時代と共に求められ、これが日本の成長の一部を支えたと言ってもいいでしょう。
そしてこの添加物があるおかげで、皆さんの生活が非常に便利に機能しているという側面もあります。

利点と欠点、そして影響というものを、皆さんが少しずつ考え、本当に必要なもの不要なものを取捨選択していくことが、これからの社会に求められることだと思います。
添加物をむやみに恐れたり敵視する必要はなく、無添加を盲目的に信仰することでもなく、その意味を考え、より良いものへとブラッシュアップしていけるように、私たち自身で考えて取捨選択していける社会への成熟が、今求められていると思います。

また、添加物というと最初にやり玉に挙げられるのが大量に生産を行っている大手企業ですが、大企業は好きで添加物を入れているわけではありません。
必要として使っているものが殆どです。
食文化を破壊するものではありません。
むしろ大手企業は食文化を守ったり高める役割を、昭和の時代は担っていました。
少し脱線しますが、一般的に知られていないお話を一つの例として示します。
超大手、日本一有名なお醤油の企業、キッコーマンさんについてです。
戦後、敗戦時の日本に於いて、深刻な食糧難が発生していたことは、多くの方が歴史の授業で教わってきたことです。
これは戦争による働き手不足などの影響もありますが、1944年の全国的な台風の被害と、1945年の冷夏の影響があり、作物の収穫が非常に悪いことが最大の原因でした。
都市部を中心に、深刻な食糧不足から飢餓状態に陥っている人が多々見受けられ、栄養状態が著しく悪かったため、当時GHQは飢餓の解消のために食品の生産・流通を急がせようとして、年単位で時間のかかる伝統的な製法の調味料などに対して、現代で言う速醸や添加物による味の調整を行った生産に切り替え、流通させることを命じました。
ところが製造方法がそれだけになってしまうと、これまでの醸造の技術が無くなり、日本の伝統的な食文化が失われてしまう可能性を危惧した当時のキッコーマンの方が交渉し、伝統的な醸造によってできたものと、速醸のものなどを混ぜ合わせることで生産を早め、流通量も回復させるように務めることを約束として取り付け、それによって日本の食糧不足の解消と共に伝統的なお醤油の製法も守られたのです。
やがて、GHQの命令も撤廃され、昔ながらのお醤油の製造が回復した地域と、都心部から離れた地域はなかなかその連絡が伝わらずに長期間にわたって変化したものが作られ続けて、いつの間にか地元の味として馴染んだ地域もあります。

さて、このような話を聞いて、いかが思われましたでしょうか。
背景を知る事で、皆さんの視点や、考え方が変わることがあると思います。
そしてそれを知って、行動に移していく時代に来ていると思います。

今回の営業メールは、現代の問題を様々な視点から考える、非常に良い機会となりました。
願わくば、皆さんとともにより良い社会へと進んでいけますように、この記事が何らかのきっかけになることを祈っております。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。