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トンガ 大噴火の影響

まずは、被害に遭われました皆様にお見舞い申し上げます。

日本時間で2022年1月15日、トンガの首都から北におよそ65㎞離れたところにある海底火山、フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイが大規模な噴火をしました。これにより、現地では多くの被害が発生し、15m級の津波の他に大量の火山灰の降下による飲み水の汚染や、噴火によって排出された二酸化硫黄による酸性雨の影響などが考えられますが、今なお現地の状況は詳しくわかっていません。
この噴火によって発生した津波は、日本にも1.2~60cm程度の津波となって押し寄せ、全国で30隻ほどの船が転覆や沈没の被害が出ました。

甚大な被害を及ぼした今回のフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイの噴火ですが、この火山の事について少し調べたことを書いておきます。

フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイは、上にも書きましたが、トンガの首都の北方約65㎞の位置にある海底火山で、以前より小規模な噴火を繰り返していた活火山です。その山体の殆どが水中に隠れており、海面から僅かに顔を出していた2つの小島が噴火前にありましたが、その小島がカルデラの縁に当たり、それぞれにフンガ・トンガ島、フンガ・ハアパイ島と名前を付けられていました。
フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ(以降火山)は海底から約1800mの標高があり、山裾の直径は約20㎞、火口のカルデラは今回の噴火前は直径5㎞ほどもあったと言われている、大きな活火山の一つです。

日本の富士山(3776m)も、今や活火山として扱われている。

1800m級の山といいますと、福島の磐梯山や大分のくじゅう連山、群馬の赤城山、新潟の八海山などがそのくらいの高さに当たります。
今回の噴火で、海面に出ていた小島はほぼ無くなっており、カルデラの一部が崩壊するほどの強烈な衝撃であったことがわかります。
この噴火があった日は、私は出張中で夜中に宿のテレビで知りました。翌日になっても詳細が殆ど無く、津波の危険性を報せるアラートが続いているだけで、噴火の状況がわからないものでした。

3日たち、徐々に情報が入るにしたがって、何が起こったのかざっくりと様子がわかってきましたが、その情報は正直なところかつお節屋にとっては非常に苦しい内容でした。

地震が起こった火山は、赤道から南緯20度のあたり、西経175度のあたりに位置し、これは回遊魚であるカツオの産卵海域に当たります。
次に、今回の噴火によって大量の火山灰と軽石、そして二酸化硫黄が吐き出されました。火山灰や軽石の影響は、近年の鹿児島や沖縄の噴火で多々報道がされているのでご存知の方も多いかと思いますが、二酸化硫黄はあまりなじみがない人もいるでしょう。温泉で感じる特有の、卵が腐ったような匂いはこの二酸化硫黄ですが、これは水に溶けると酸性雨の原因となります。
そして、噴火による熱で海水温の上昇も考えられています。

水産庁・水産総合研究センターのデータを元に書き入れました。

カツオはこちらの図の黄色い産卵海域で大体生まれることが多いです。
赤道には赤道海流系という流れがあり、大まかに東から西に海流が流れています。その海流に乗って、産卵域から徐々に成長するに従い緑の分布域に広がっていき、成長と共に一部の群れは2歳令程度まで日本海域まで上がってきます。その後、熱帯域に戻ってきたカツオは緑やピンクといった海域に広く生息します。
ところが、今回の噴火の地点を見ていただくと、産卵海域と分布域の境目に近い地点です。海流が生息域に向かって流れてくため、水中に放出された軽石や火山灰、そして海に戻った二酸化硫黄などの影響が広く大きく響くのではないかと思われます。

また、海水温の変動もまだ未知数ですが、これだけ規模の大きな噴火であれば、影響は小さくないと考えられます。
魚にとって水温の1℃の違いは、人間にとっての10℃の気温の違いと同じと言われています。それが幼生体であれば、尚の事調整は難しいでしょう。

軽石による太陽光の遮光に魚の誤食による栄養不良状態や餓死、火山灰の影響や酸性雨の問題、水温の上昇、海流の変化、様々な問題が考えられます。更に天高く、約16,000mもの上空まで上がった火山灰はこれから世界中を覆い、気温の低下をもたらすでしょう。今年と来年は記録的な冷夏になるかもしれません。

こんな立派な節が作れなくなるかもしれない危機。

これらの事から予測されることは、カツオの漁獲量の大幅な減少、または小型化が考えられます。諸外国とのカツオ資源の奪い合いも予想されます。
そうなると、まずカツオの魚価の高騰からかつお節そのものの仕入れ値、卸値、最終的には小売価格の上昇が起こるでしょう。
その前に仕入れ値の高騰で魚が買えずに、廃業をする生産者が出てくるかもしれません。そうなると更にかつお節の生産量が減りますので、そこからも仕入れ値が上がることが予想されますし、連鎖的に問屋も廃業をするところが出てくるかもしれません。
それから魚質の低下が見込まれます。多分痩せたカツオが増えるのではないかと見込まれます。そうなると出汁の出ないかつお節になってしまいますし、刺身にしても美味しくないと評価されますので、消費者の買い控えが起こると思います。

まだどのような影響があるのか、全くの未知数です。
ですが、早ければ今年の秋以降には、影響が見えてくると思われます。
現状として、何ができるかまだ分かりません。できることは仕入れられるときに魚を仕入れておくこと。保管しておくこと。
でもこれは、生産者がやることで、私たちには何もできません。買い続けて支える事。売ること。それがうちにできる仕事です。
ただ、そうも言っていられない時間が間もなくやってくるでしょう。今からできる事、変えていく事を進めていかないといけません。

様々な問題が一気にまとまってやってきたというのは、自然の本来の脅威を見せつけられますが、同時に地球の怒りが噴出しているのかもしれません。
原油やガスを抜き、山を切り崩し、川や海を堰き止め、埋め立て、我が物顔で振る舞い続ける人間は、地球から見るととんでもない住人です。
全ての悪環境を一度リセットし、もう一度ふりだしに戻ろうとしているのではないか、そんな思いもよぎります。
今、私たちにできることは何か、悔い改めなくてはいけないことがあるのではないか、それを考えていく時なのでしょう。

かつお節屋として、日本の食文化を伝えるものとして、何をして行かないといけないのか、見極めるときですね。

蛇足的に…
海産物以外での影響を考えますと、冷夏によって2022年の米の収量が減り、質が下がることが懸念されます。そうなるとJAの米の買取価格が間違いなく下がり、ただでさえ近年の米食を控える動きがあり収入が厳しくなっている中、収入が下がることが重なり米農家を辞めざるを得ない人が出てくることも見込まれます。日本は今、世界的に見て非常に物価が安い国で、他国に様々なものを買い負けをしています。そのため海外から食糧を仕入れることや、国内の食糧を流出させないということが難しくなるでしょう。
自分たちの口にするものをどうやって確保するか、この日本ですらも真剣に考えないといけない時代が来ています。


文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。