第19回「包丁」2分
人物
清水靖(45)アルバイト
清水真貴子(80)主婦
小林(35)靖のアルバイト先店長
〇ドラッグストア・外観
〇同・内
レジで怒鳴る高齢客。
アルバイトの名札を付けた清水靖(45)
高齢客「なーんで売ってないんだよ?」
靖「あの、だから、売ってないんですよ」
高齢客「は?聞こえないよ」
小林、フロアから駆けつけて
小林「おじいちゃん、包丁はね、売ってないんです」
高齢客「ああ?前はあっただろ」
小林「前は、ホームセンターだったんです」
高齢客「ああ、そうだっけか?」
と、店を出ていく。
小林「……はぁ」
靖「さーせん」
小林「あのさ、清水君さ、もうちょっと優しく言ってくれないかな?」
靖「ああ、そうっすね」
と、頭を搔く。
小林、あきらめた様子で立ち去る。
〇清水家・外観(夜)
〇同・内
台所に立つ清水真貴子(80)。
手には短くなった包丁を持っている。
大根を細かく切っている。
靖「ただいま」
真貴子「おかえり、みそ汁つくってっから」
靖「それさ、そんなに小さいと使いにくくない?」
真貴子「そうかね?あんたんとこで売ってない?」
靖、むっとした表情。
小さな包丁を握る皺、シミのついた真貴子の手。
手のひらサイズの包丁。
靖「ねぇ」
真貴子は耳が遠く聞こえない。
靖、真貴子の肩を叩いて、
靖「ねぇ」
真貴子「なんだい?」
靖「この包丁いつから使ってんの?」
真貴子「そうだねぇ、ココに嫁いで少ししてから削って使ってるから……」
真貴子は包丁を軽くゆすいで布巾へ乗せて、
真貴子「あんたと一緒くらいかね」
と、みそ汁のみそを溶いている。
靖「まだ使える、ね」
真貴子「あんたのトコで売ってないんだろ?だったらこのままでいいさ」
靖「ああ、ないよ、けど薬とかは売ってっから」
真貴子「そっちのが大事だぁ」
靖「ふ……どっちもかな」
と、微笑む。
了