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「スタディー韓国語」の再考

このブログでは、韓国語教育の新しい形を模索しています。

今日の話題は「スタディー韓国語」

つまり、「韓国語を学ぶこと」そのものが目的になっている学習のことを指しています。何かの目的遂行のための手段として学ぶ意識が薄く「勉強のための勉強」になっているカリキュラムのことです。

例えばこんなこと。

・文法概念を詳しすぎるほど(変則活用や発音法則)きっちり詰め込み、無限反復というスキルトレーニングに落とし込む 
→ もはや修行。

・正しい発音、正しい文法などネイティブの「正しさ」を身につけさせる
→「即身成仏」「聖人君子」といった、フツーの人にはたどり着けない世界。少ない学習時間で目指させるのはどうなんだろう…?

・コミュニケーションの相手はいないが、とりあえず「いつか」のための妄想会話練習
→ 旅行中に見知らぬ人に声をかける? デジタル化が進み、ますます見知らぬ人と話す機会は減っています。

・リターン(合格)があることをちらつかせ、検定試験などをゴールに設定
→ 検定がゴールになることで、学習内容が狭まり、「効率化」に走り出します。

 こういった学習は、学校教育で身につけた国数英の科目スタイルを踏襲しています。国数英といった科目は、「日本人として生きていくために必要」だとか「高校や大学受験に必要」だとかいう遠い将来役立つ的な動機付け、「みんなしてる」という同調圧力によって、「何となく」学び続けています。学習すべき項目はあらかじめ決められており、試験や評価もあります。
英語業界はさらに分野がシニア層の掘り起こしと組み合わさって「脳トレ」とか言い出してます。う〜ん、苦行型のお勉強が大好きなんですね。
 こうした学校スタイル、「勉強すること」が目的の学習を「スタディー韓国語」と呼びたいと思います。
 確かに、見えないくらい遠〜くの方には「韓国語マスター」という大目標があるかもしれませんが、本当に目の前にあるのは「ただ何となく勉強している状態」です。でも、机に向かったりするので「やってる感」はあります。そこに充実感を感じる方は是非それを続けてください。

「スタディー韓国語」、何が問題?

ーー「スタディー韓国語」じゃ何かまずいですか?
いえ、別にまずいわけではありません。でも、「あらかじめ決められた学習内容」を「韓国語マスター」という「遠すぎて見えない目標」に向かって学習することだけが唯一の学習法って、ちょっとキツくないですか?

ーー他にも会話教室とか、「スタディー韓国語」以外の学習法もあるんじゃないですか?
いえ、ないです。初心者は必ず文字と文法の学習から入ります。別の入口はありません。発音や会話のレッスン、単語の暗記のコツレッスン、作文レッスン、KPOPの歌詞を味わうレッスン、ドラマの聞き取りや小説の翻訳レッスン。いずれも、「文字と文法のスタディー」を終えた人しか対象ではありません。大学のテキストを山ほど検証してきましたが、文字と文法の習得以外の内容で作成された初修韓国語テキストはついぞ見たことがありません。

 そうなんです。文字と文法の習得から入らなければならないなんて誰が決めたんでしょうか。学校の科目は文科省が指導要領で縛ってます。だから「これこれをしなければならない」という状況もやむを得ません。
でも、韓国語は?
 誰が学習内容や目標を縛っているのですか? 本当は誰にも縛る権利はないのに、言語学の天才レジェンド達が作った世界を前例踏襲という「見えない力」や「忖度」あるいは「何も考えていない思考停止状態」によって、現状のテキストやカリキュラムは、全て「学習内容」が縛られているんです。(それを壊して新しいものを作るのは、前例もほぼないし、ものすごい労力です。なんせ今のカリキュラムを作ったレジェンド達は天才ですから)
 こうした「学習内容の縛り(偏り)」は、「スタディー」が得意な人や好きな人にとっては何の問題もないかもしれませんが、そうでない人にとっては、窮屈で足を踏み入れにくくさせるものです。
「あらかじめ決められた内容」や「遠すぎて見えない目標」設定は、カリキュラムによってもっと多様であってもいいのではないか、という提言です。

スタディー韓国語が得意な集団

「スタディー韓国語」が得意な集団とは、つまり言語学の研究者たちです。言語学者は言葉が大好き、言葉の内部構造が好き、三度の飯より文法議論が好きなんです。つまり、目標文化自体が「言語」なんです。言語が手段にならず、目標文化そのものになるという非常に稀有なケースです(外語大はまさにこれ)。
 言語学的興味関心を持つ学習者もいると思います。そういった方は、言語学的にさらに深く入っていけば、ますます楽しいと感じることでしょう。

では、問題は? 
 言語そのものが目標になっている「スタディー韓国語」しか、現在の韓国語学習に選択肢がないことです。
 韓国界隈ではなく外界で出会ったKPOP大好きな20代の男性ダンサー、BTSに沼落ちした60代女性に、「スタディー韓国語」を進めることは気が引けました。いわゆる「半分くらいの人(もっとか?)」にとって、「スタディー」は、容易に受け入れられるものではないのです。韓流時代が幕を開けて20年近くになって、大切な推しがいるにも関わらず、「いまだ韓国語に手を出したことがない」という層は、「スタディー」に腰が引けている(恐れている)のだと思うのです。おそらく学校で押し付けられてくる様な「正しさ」になんとなく忌避感を感じているのではないでしょうか?

「スタディー」から「ファスト」&「スロー」へ

 私がこれから作っていきたいと思っているのは、「韓国語マスター」という遠すぎるゴールのためにコツコツ文法学習をさせない学習法です。(←はい、めちゃくちゃぶっ飛んでます。笑)

「スタディー韓国語」は、今ピザが食べたいのに、ピザ釜を作るレンガ作り、小麦作りから教えているようなもんなんです。
 一体いつになったらピザが食べられますか? 
残念ですが、石窯のレンガにするための土をこねただけで、一生ピザを食べられない人がたくさんいます(泣)

 私が目指しているのは、「下からコツコツ登っていって、やがてリアルな韓国語ワールドに到達!」ではなく、最初から「リアルな韓国語ワールド」に身を置いて、そこから「言語にも文化にも触れながら自然となじんでいく」という学習法です。

 そして、語彙や文法の暗記という均一で単調なマニュアル教育ではなく、それまでの自分に新しい世界観や視野をプラスできる、血湧き肉躍る異文化体験を学習に含ませたいのです。

 そこで、「スタディー韓国語」とは違って、次の2つの概念を考えてみました。
「ファスト(fast)」と「スロー(slow)」です。

 先日2年半ぶりにソウルに行ってきました。私はよくコンビニを利用します。コンビニでは何かモノを買う場であって、教科書に載っているように、店員さんとコミュニケーションをする場ではありません。
 店の滞在時間中、店員さんはたった二言、こちらは一言もしゃべりませんでした。

 まずお店に入ると、「 어서 오세요(いらっしゃいませ)」と言われました。店員は特にこちらを気にするわけでもなく、無言で携帯をいじっています。「何をお探しですか」的な教科書フレーズは言われたことありません。笑
 こちらも、買いたいモノを無言でレジに差し出すだけです。
 財布からカードを抜き出すと、店員が黙ってカードを機械に挿入します。そして、ようやく店員の声を聞けました。
「결제되었습니다(決済できました)」
カードリーダーの反応があまり良くなかったので、「결제되었습니다(決済できました)」の文句は大事かもしれません。海外で、お金が絡んだトラブルはごめんです。

 これで終わりです。オプションで「袋は必要ですか?」くらいは聞かれることもあるかもしれません。でも、今の世の中、買い物に言葉はほとんど必要ありません。数字を聞き取れない? 全く問題ありません。レジに金額が表示されるし、カード払いです。お金を数える必要もありません(笑)。

 でも、このコンビニのやり取りから、言語以上に大事な事柄があることに気付きました。その国ならではのリアルなありよう、つまり文化的知識です。
韓国のコンビニやスーパーに「あるある」なのは、「1+1祭」「2+1祭」です。
「1個ないし2個買うと、もう1個プレゼント」という意味のPOPです。初めてこのPOPを見た人には、何のことか分からない可能性があります。

 こういった文化情報は、リアルの世界では非常に重要です。今すぐ解決しなければならない、差し迫った問題(POPが何を意味しているのか今すぐ理解しないとうまく買い物が出来ない)だからです。「1+1」には韓国語が使われていませんから翻訳機の出番もありません。
「文法学習」が隠れた目的となっている「偽ショッピング会話」は教科書でしばしば見かけます。でもそれだけでは不十分で、文化ネタもしっかり伝えてほしいのです(偽ダイアログを学習する時間に、こっちを学習したほうがいいくらい、と私は思いますが)。
 デジタル社会では、語学はデジタルで解決されてしまう部分がかなりあります。韓国に初留学した学生の同行をしていて、デジタルツールをうまく使いこなして外国語の不自由さを自分なりにカバーしている様子に、「さすがデジタルネイティブ!」と拍手を送りたくなりました。使っている翻訳機を聞き出し試してみました。ヤバいですね。精度高すぎ!


傍花駅( 방화パンファ)が同音異義語の「防火」(←けっこうツボる)となっている以外は完璧です。ですが、レストランのメニューで使ってみると、UUUM、60点ぐらいでしょうか。


ちなみにカルグクスという麺の専門店でトライしました。「和毒」という毒々しいものの正体は화목(ファモク)でお店の名前です。これは仕方が無いのでしょうが、칼국수(カルグクス)を「きしめん」と訳しているのはまだしも、同じ칼국수をそのまま「カルグクス」いう訳が付いているのはなぞです笑。飲み物は음료の事で、いわゆるジュースですね。공기밥(ご飯/ライス)を「空気ご飯」と訳だししてしまうのはAIが文脈が読めない事が分かります。

訳の精度はどんどん上がってくるので今後に期待ですが、デジタルツールではカバーされない、文化的知識やリテラシーがますます大事な時代になってきたな、と学生達を見て痛感しました。
 よくよく考えると、デジタル化社会にも関わらず外国語教育は時代に全く適応できていない様に思えます。人と人とのコミュニケーション会話(偽会話)は以前に比べて機械翻訳が発達してきたいので相対化してきているのに、残念ながら外国語の教科書はあいかわらずAとBの会話を文法のオンパレードです。自戒を込めて言いますが、作り手が大好きすぎるのか、外国語を取り巻く環境の変化を知らなすぎるのかどちらかでしょう。

「ファスト韓国語」:今すぐ必要なことを解決

 さて、「ファスト韓国語」の話からしていきましょう。
 ファストフードやファストファッションなど、すぐに食べられるお手頃なものを差しています。
 単に「お手軽に韓国語を学ぶ」という意味ではありません。
 語学には、「すぐその場で解決しなければならない」問題があります。
 デジタルツールで外国語力をカバーする体験を積むことも学びになります。自分でその場で解決する、サバイブするための力を身につけるということです。

「スロー韓国語」:

もう一つのコンセプト「slow」は、学びをじっくり味わうことを意味します。ゴールがあるとそこに到達することだけが目標となり途中経過はどうでもよくなります。そして効率性だけを求め出します。好きなことはじっくりゆっくりとライフワークとしてやるべきです。様々なこと消費、もの消費、リアルな活動をことばと文化を織り交ぜながら学んでいく。そんな学びを考えています。

韓国語の学びには「スタディー韓国語」だけしかないわけではありませんよ。

そして「韓国語を勉強している」と我々は簡単にそして「無意識に」(←実はコレが強い刷り込みだったりします)言ってしまいますが、「●●のために韓国語を勉強をしている」という枕詞を一度付けてみてください。「●●」は皆さんの一人一人の目標文化が入ります。●●が目的で、言葉はおそらく手段のはずですから。そして目標に照らし合わせて、今やっている勉強の効果を考え直してみてください。

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