もうやだよ(命ばっかり/ぬゆり)
「死なないでよ」
ああ、なんて薄っぺらいんだろう。
どうせ、そんな顔していったって、
その夜には、
ビールでも開けて、
チーズでもつまんで、
バラエティなんか見て、笑ってるんだろ。
知ってるよ。
数年前、
僕は、障害者支援施設で働いていた。
どこでもそうだと思うけど、
定期的に研修が開かれていた。
とある研修の、とある講師。
忘れもしない、
その人は、こう始めた。
「皆さん、
障害をお持ちの方は、天使なのです。
生まれる前から試練を与えられた、
尊ぶべき方々なのです」
吐き気がした。
めまいもした。
天使?試練?尊ぶべき?
利用者さんに、
そんな扱いをしなきゃいけないのか?
利用者さんは、
そんな扱いをされなきゃいけないのか?
そんなもん、人間じゃないだろ。
差別だろ、ふざけんな。
でも、怒りが収まってから、
僕はこうも思った。
「うちの子は、天使だから」
「うちの子は、試練を与えられているんだ」
そう思わないと、やってられないことは、
たくさんあるかもしれない。
利用者さんも、利用者さんの家族さんも。
(あの講師はさておく)
けれど、
そうやって付けさせられたはりぼての翼は、
やがて、
本人が見えなくなるほど巨大になっていき、
いずれは、
本人を窒息させるのかもしれない。
「これは、試練なんだ。
これを乗り越えられれば、
きっと楽になれるんだ」
試練っていうのは、そういうもんだ。
でも、「障害」っていうのは、
試練は引き起こすけど、
試練そのものじゃない。
楽になんて、なれないよ。
「なにを偉そうに。
お前は、健常者のくせに」
ここまで読んで、
そういいたくなる人も、
もしかしたらいるかもしれない。
だから、いっておく。
僕も、障害者だ。
……別に、
自分が障害者であることを、
盾にしたいわけじゃないよ。
ただ、これから自分の話をするから、
いっておいただけだ。
僕は、とろい。
周りの人達のように、速く走れない。
でも社会人だから、
自分がどんなにとろくても、
周りの人達に合わせないといけない。
でも僕は、元が元だから、
なかなか追いつけなくて、
すぐにバテてしまう。
ずっと前の方にいる人達は、
ずっと後ろの方にいる僕を振り返り、
口々にこういう。
「お前は、弱い人間だな」
僕は、天使なんかじゃないよ。
人間にさえ、なりきれてないよ。
人間のはずの周りの人たちが、
みんなみんな、薄っぺらく見えるよ。
こんなに薄っぺらいんなら、
いっそのこと、
全部かき集めて、火にくべて、
たき火にしてしまいたいよ。
そうしたら、少しはゆっくりできるかな。
ゆっくり、したいな……。
……あ。
今いったことは、誰にもいわないでね。
命ばっかり/ぬゆり feat. Flower、結月ゆかり(2017年)(YouTubeより)