Shall I Dance?(MirrorDance/androp)
「よかったら、一緒に踊りませんか?」
それが、僕の口癖。
*
「どうして、そんなに踊りたがっているの?」
そう訊かれたら、どうしようかな。
そうだね……。どうして、かな。理由は、特に無いかな。
無い? そんなはずは、無いだろう。物事っていうのは、何にだって理由があるんだから。
そうなの? でも、そんなこと言われたって、無いもんは無いよ。大体、そんなものが無いとだめなの? そんなものが無いと、生きていけないの? どうして、そんなむつかしいことを考えなきゃいけないの。
……。
……。
……。
……あはは。何にも言えなくなっちゃったね。むつかしいことなんて、考えるからだよ。そりゃ、むつかしいことっていうのは、必要になるときもあると思うよ。たぶんね。でもさ、自分で自分をがんじがらめにしちゃうことも、あるんじゃないかな。だから、少なくとも今はさ、そんなことは忘れようよ。ほら、ほどいてあげるから。
……。
まだ、喋んないの? しょうがないなあ……。顔、上げてよ。手、挙げてよ。ね、簡単でしょ? むつかしいことなんて、考えなくてもいいんだよ。……そういえば君、僕とそっくりだね。顔と……それに、指の節まで。まるで、合わせ鏡だ。
……踊っていいの?
お、喋ったね。
……踊って、いいのかな。
いいよ。だって、何が悪いの? ここには僕ら以外、誰もいないんだよ? だから、誰にも咎められないよ。もし咎められたって、そんなの、僕らには関係ない。だって、咎められることなんて、何一つしてないんだから。僕らはただ、踊りたいだけなんだ。
……踊りたい。踊りたいよ。
ふふ。ようやく、言ってくれたね。ほらほら、早く行こうよ。……ああ、そうだ。理由、1つだけあったかもしれない。
……何?
僕ね、君に会いたかったんだ。一緒に、踊りたかったんだ。ずっと、ずっと。
……。ねえ。
何?
僕、踊ってみたい曲があるんだ。
はねる はねる
光が射して
もっと早く
まわる まわる
手を繋いで
踊り明かす
――androp『MirrorDance』より
ふーん、それがいいの?
うん、これがいい。
何だ。君も、僕と踊りたかったんじゃないか。
……言うに言えなかったんだ。
あはは。これで、隠し事は無しだね。じゃあ、始めようか。
MirrorDance(「door」収録)/androp(2011年)
この記事が参加している募集
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。 いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。