それだけで、よかったんだ(音楽のある風景/haruka nakamura)
あのね。
あなたに、言いたかったことがあるんだ。
ずっとずっと、言えなかったんだけど。
聴いて、くれる?
どうか、笑わないでね。
*
僕はね。
あなたがいてくれて、よかったと思っている。
あなたがいなければ、こんなことをしていなかっただろうから。
あ、
「こんなこと」っていうのは、こうして僕が喋っていることね。
いつもはだんまりしている僕だけど、
ここではちょっとだけお喋りになるんだ。
だけど、
一人で喋っていると、時々寂しくなるんだ。
「このことばは、誰にも届いていないんだ」って。
でも、
本当はそんなことないんだよね。
僕は、わかっている。
あなたが、これを見てくれていることを。
このことばは、ちゃんと届いていること。
僕はそれを忘れちゃうときがあるけど、
だからこそ、思い出したときはすごくうれしいんだ。
僕はよく、「僕なんか、僕なんか」なんて言っている。
でもね。
あなたには、「僕なんか」「私なんか」なんて言ってほしくないんだ。
わがままだって、思うかな。
それでもいいよ。これは、僕のエゴだから。
僕は僕のために、あなたに笑っていてほしい。
僕は僕のために、あなたに泣いてほしくない。
(あ、とびっきりうれしかったときは別だよ。)
……うん。
僕は、あなたのことを何も知らないよ。
あなたがどんな人なのか、
あなたがどんな気持ちでいるのか、
僕には、知りようがないからね。
あなたは、
僕を嫌っている人なのかもしれない。
僕が嫌っている人なのかもしれない。
でも、そんなのどうだっていいんだ。
ここにいるのは、僕。
そして、あなた。
それだけ。
それだけなんだよ。
ここには、嫌いとか、厭うとか、そんなものは無い。
あなたが怖がるものは、あなたを怖がるものは、何も無いんだよ。
だから、安心してほしい。
もしも、あなたが不安な気持ちでいるのなら。
ああ、そうだ。
あなたに言いたかったこと、まだあるよ。
それはね。
あなたに、これからも生きていてほしいってこと。
たとえ、あなたがもうここには来なくても。
どこかで、笑っていてくれれば。
どこかで、幸せでいてくれれば。
それを思い出す度、僕は幸せになれる。
……うん。
言いたかったことは、全部言えたかな。
じゃあ、最後に1つだけ。
まず、目をつぶって。
あ、そんなにぎゅーっとつぶらなくていいよ。
……うんうん。じゃあ、ちょっと後ろから……。
……あはは、「だーれだ」じゃないよ。
あと少し待ってね、あと少し……。
……。
……。
……うん、そろそろいいかな。
目、開けて。
ほら、見て。
世界が、変わるよ。
Live at Arumakan - AMC Vol.9 - haruka nakamura"音楽のある風景 アルマカンver."(2017年)
音楽のある風景(「twilight(Reissue)」収録)/haruka nakamura(2013年)