comedy(お題「魚、足跡、遭難」)
三日目
足跡を見つけた。
自分のものにしては、ずいぶん大きい。……倍はあるぞ。安堵よりも先に、恐怖を覚える。
しかし、周囲を窺うことは出来ない。自分の大体の位置を知ることもできない。吹雪は止まない。初日と変わらず。
雪男? ……まさか。
出会ってしまったら、どうしよう。
命乞いをするにも、食料は渡したくない……。いつこの吹雪が止むのか、わからないのだから。その場で死ぬか、飢えて死ぬか、その違いはあるけど。
「まさか、お前じゃないよな」
俺は、魚に――いや、元魚に話しかける。
元魚は、俺に食われ、便として排出され、残されたのは、しゃぶられた骨だけ。孤立してしまった俺の、唯一の仲間。
六日目
そろそろ、食料が尽きそうだ。
当たり前だ。もともと、三日分しか持ってきていなかったのだ。それを、少しずつ少しずつ……。それでも、一週間で底をついてしまうのか。見通しが甘かったようだ。景色の見通しは、悪化するばかりなのに。
「俺も、お前のようになるのかな」
元魚は、僕に恨み節をいうでもなく、自らの骨を余すことなく晒している。……まあ、晒したのは俺だけど。
「そもそも、お前はどこから来たんだ? ……川なんて、この近くにはなかったぞ?」
元魚は、沈黙している。死が沈黙したまま、そこにいる。
十三日目
体が動かない。
食料はとっくに尽きて、飲み水も三日前になくなってしまった。
いよいよか。
俺は、自分でも驚くほど冷静だった。「生きたい」とも「死にたい」とも思っていなかった。ただ、今の状況を受け入れていた。
走馬灯すら、流れてくる気配がない。俺の人生は、そんなにちっぽけなものだったのか。
……そうなのかもしれないな。今や、俺は色んなことを諦めていた。どこへも逝けないことを、悟っていた。
「結局、お前は何者だったんだろうな……」
「何者でもない」
「え?」
そのとき、誰かの気配がした。
一日目
魚がいる。
まっさらな雪の上でぴちぴちと跳ねている。零下なのに、ずいぶん活きがいい……。この近くに、川なんてあったっけ?
まあ、いいか。今夜は、ここを塒にしよう。ついでに、こいつを夕飯にしよう。
しかし、ソレを火で炙った瞬間、異変が起こった。
ソレから湯気が口から鼻から侵入すると、目の前が眩んだ。悪寒がする。吐き気がする。
こいつ、毒を持っていたのか? でも俺は、まだ齧ってもいないのに――。
そのとき、誰かの気配がした。
*
翌日、×××山へ入山した男性が、遺体で発見された。