きゃー 今日も遅刻!『最善手ドリル』★11★
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こんにちは! 藍澤誠です。今回のドリルは、仕事には必ずつきまとう事態、「遅刻」についてです。
【問題】
あなたが塾を開くと、「生徒が決められた時間に来ない」ということを度々経験することになります。どのような対応を取ればいいのでしょうか。
①「遅刻しない」を全員に共通するルールとして定め、周知させる。
② 遅刻した生徒によって、その都度対応を変える。
③「社会に出たら遅刻は厳禁」を踏まえて、しっかり注意する。
制限時間3分
【解説と解答】
まず③の「社会に出たら遅刻は厳禁」という選択肢から検討してみよう。「遅刻は厳禁」という「社会の在り方」が果たして理想なのだろうか? それぞれの事情や生活は二の次で、成人したら仕事を優先順位の最も高いところに置かねばならないのか。「今ある社会」を固定化したもの・絶対的なものとしてとらえ、それを前提に「自分をその型に合わせていく」という行為が、心に豊かさをもたらしてくれるとは思えない。そうした既存の社会をデザインし直す力ではなく、そこに適応する準備を子ども時代からさせていくことが本当に最善手なのかを検討されたい。少なくとも今、仕事を通して社会と対峙している自分は、適応ではなく、デザインし直す力を発揮したい。
「共通ルール」といった①も検討の余地がある。「遅刻したか、間に合ったか」のレベルの話になってしまう。ポイントは、その場――塾なり会社なり――で、どのような経験をしたいかだ。「契約として自分に与えられた時間が明確な区切りとしてある。そこをどう活かすかは自分次第」というスタンスの方が、お互いにストレスがないであろう。
最善手②遅刻した生徒によって、その都度対応を変える。
◎実戦の棋譜を見てみよう
いつもはゼッタイに遅刻して来ないのに、2か月に1回くらい遅れてくる中学生の男の子モーちゃん。その理由は――彼はときどき私に「ケーキ」や「プリン」を作ってくれたりするのです。もちろん驚かせたいので「事前連絡」はありません。彼の場合、少し遅い日は、心配すべき日じゃなくて、楽しみな日でした。その後、彼は近所のパン屋さんでお仕事を始めることに。
小5の頃の虹色きららちゃんは、「遅刻すること自体が嫌」なので20分前に塾についちゃってました。早く来た時間で、おしゃべりをしたり絵を描いたり。「遅刻しても怒らないから、不安に思わなくていいよ」と伝えていたら、だんだん丁度良い時間に来られるようになりました。彼女は一度だけ、塾を連絡なしで休んだ日がありまして、それは中学校に入ったばかりの月曜日で、「ぞうきんを縫う」ことに熱中していて忘れちゃったそうです。新学期、心が落ち着かないよね。
いつも微妙な「数分遅れ」が続いていた高校3年女子マグマちゃん。彼女の場合、それを直したいということだったのに、その日も数分遅れ。それでも「叱らない」を選択。遅刻の事情が判明したのは、その日の帰りがけの会話。自転車にいたずらをされ「カゴに入れていたチェーンタイプのカギ」を勝手にかけられた。それを開けるためのカギを、どこかに捨てられてしまったとのこと。それで親に連絡したり、泣きべそかいたりして、ようやく塾に数分遅れで到着。事情も聴かずに「叱った」らどうなっていたんだろう。そして「叱る」ことによるメリットは?!
差し迫った課題がないときは遅刻や欠席が常習。しかし自分がピンチになるとえらい早く来る高校生男子チャンピオンくん。学校も超遠いし、部活も理不尽で忙しい。ここで「もうよそに行って」と見捨てたら、彼には行き場が(たぶん)ない。それなら定期で授業を組まず、最初から「ピンチのときだけ助ける」という形式に移ってもいいのですが、ピンチじゃないときにも「雑談や愚痴」をしにくることもあるんです。塾まで遠いのにわざわざ。だから「行きたいときに行ける都合のいい場」として、今はいつでもポジティブに迎え入れておくことにしてます。
逆に自分(藍澤)が遅刻しちゃったときに、許してくれた高卒生ミヤビちゃん。次の日「疲れているときは甘いものです」と手紙とお菓子をくれました。ありがとう。今でも忘れないよ。
遅刻をされても「自分の価値を低く見られてしまった」ように感じないようにしよう。相手の事情に寄り添おう。遅刻云々で感情を乱されないように。目を向けるべきは自分の課題とスタイル、相手の課題とスタイル。
もし小さな集団を組織したり、小さな塾を経営するのであれば、メンバーひとりひとりに応じて、独自のルールを生成した方が善いように思います。ひとりひとりに応じるなんてムリ、というデザインはやめて、それぞれの事情からより善い何かが生成できるような工夫をする。そんな方向を目指すための最善手ドリルでした。