朝の習慣づくり『最善手ドリル』★8★
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おはようございます! 藍澤誠です。
前回のドリル(『涙のnoteのイベント』)は、塾から離れた番外編。塾以外のコンテンツにドリルを応用したらどうなるかな、という実験でした。意外と汎用性があって、何かと使えそうなデザインですね。
さて、今回は私塾経営に戻って、テーマは「朝勉」です。
【問題】
高校受験を控えたマグマちゃん(中3女子)が「自宅ではどうしても勉強できない」と言い出しました。さらに「朝勉強をしてから学校に行くという習慣を身につけたい」とのことです。つまり「朝、塾で勉強したい」というリクエスト。マグマちゃんの家から塾までは自転車でおよそ5分の距離です。最善手はどれでしょう。
①塾の使用を許可。自分は教室に行かず、力士の消しゴムと勉強させる。
②塾の使用を許可。自分も教室に行って、努力を共有する。
③塾の使用を認めず。長い目で見て効率がもっと良い方法を再考させる。
制限時間3分
【解説と解答】
もうすでにここまでドリルを進めてきた方なら、「③:再考させる」が悪手であるのは秒殺で見抜けたであろう。ここは横綱相撲、再考を促すのではなく、まずは受けて立つ。生徒のリクエストにどのように応えるか。そして相手の想いを受け、どのように最善手へと展開していくかが問われている。ましてや「効率の悪さ」は、やってみてから本人が気づいて直すものであって、やる前に他人が修正できるものではない。
「②努力を共有する」は良さそうだが、「自分も教室に行って」がよくない。本人が求めているのは「朝勉強をしてから学校に行くという習慣」を作ることと「朝、塾で勉強したい」の2点である。要するに「勉強をしている自分」が欲しいわけであって、「成績の向上」が最大の目標の段階ではない。もっと手前の、「勉強を少しでもする」「机に向かう状態を作る」ところをクリアしたいのだ。先生がいると「授業」になってしまう。また「遅れては困る」だとか、「やばい、行かなくちゃ」、というネガティブな感情が起きやすくなる。マイナスな感情に突き動かされてやる勉強は、長続きしないし、ストレスがたまるであろう。
最善手:①塾の使用を許可。自分は行かず、力士の消しゴムと勉強させる。
◎実戦の棋譜を見てみよう
先生の代わりに、力士の消しゴム「福轟力(ふくごうりき)」を教室に置くことにしました。実物の消しゴムは、2018年大学に合格、無事に塾を卒業したマグマちゃんにプレゼントしてしまったため、チラっと映り込んでいる写真しかありませんが……
本当は「おはぎ山」という名前があるようですが、私は福轟力というしこ名を与えました(※実在の力士です)。
頭から思い切り当たる、勇敢な取組スタイルだった福轟力は、首を大けがしてしまう。引退は免れたものの、医者の忠告もあり、頭からいくことができなくなった福轟力は、取り口の変更を余儀なくされる。慣れない取り口に、成績は急下降。そこで福轟力は、大きな決断をする。命を懸けて、再び頭から当たる相撲を取ることに決めたのだ——
そんな「消しゴム福轟力」が、マグマちゃんの朝勉=朝稽古につき合ってくれるという設定を与えました。
先生という生身の人間より、ときにキャラクター消しゴムの方がパワーを持つものです。マグマちゃんは黙々と朝稽古を始め、習慣化に成功しました(もしかしたら、消しゴムとしゃべっていたかもしれません)。おはようも言えない消しゴムですが、いつも安定のリラックスフェイス。もちろん、福轟力くんは動けないので、私が4時に起きて、教室のカギを開け、部屋を冷やしたり温めたりというセッティングをするわけですが・・・(笑)
同じ場所で朝稽古を重ねた同士にしかわからない、特別な友情を深めたマグマちゃんと福轟力。もちろん小さな巨人、福轟力はその消しゴムという特性を最大限に発揮し、高校の受験会場にも潜入できました。そして三年後の大学受験の会場にも——。
盤上にない駒を上手く使うのがプロ棋士ですが、自分ではない物たちのパワーを上手に借りることで、最善手に近づくことができるのです。