ロング・グッドバイ(長いお別れ)
「認知症はロング・グッドバイ」
アメリカでは、認知症を患い、徐々にゆっくりと記憶を失っていくことを
「ロング・グッドバイ(長いお別れ)」と呼んでいる。
そんな話を聞きました。
確かに、ゆっくりと記憶を失い、いろんなことがわからなくなり、
性格も変わっていったりする様子を見ていると、わが親が少しずつ遠ざかっていくように感じます。
自分だってもう十分に大人だし、なんなら立派に中年街道まっしぐら。
なのに親が年老いていくのを肌身で感じると、自分を守ってくれていた殻が溶けて消えていくような、漠然とした不安感を感じるのはなぜなんだろう。
去年の今頃は、もうこの人とは距離を置こうと考えていたのにね。
どうしようもなく、切ない。
腹が立つこともたくさんあったけど、なんだかんだとやっぱり好きな
部分もたくさんあった。
だけどこうして少しずつ遠ざかっていく。
どちらも意図しないところで……
でもそれは、認知症だけじゃないと思う。
親子だって、恋人だって、友達だってそう。
人は少しずつ変わっていく。
ずっと続いている関係だって少しずつ微妙に変化していく。
もちろんいい方向に変わることもあるし、近づいていくこともある。
逆に関係性が突然終わることだって……
その変化の芽はいつの間にか芽吹いていて、知らない間に大きくなって
そして「あぁ、あの人昔はああじゃなかったのに。」って
そんな切ない気持ちにさせる。
変わってしまったのは相手だけじゃなく、きっと私自身もなんだろう。
だけど。
いろいろなことが変わってしまって、誰もいなくなってしまっても、
「その時その瞬間」がそこににあったのだけは、間違いない。
一緒にのんびり過ごした時間や、笑いあった時間や、おいしいものを食べて満足げな表情を交わした瞬間や、励ましてくれた言葉や、きれいな景色に歓声をあげた瞬間や……
その時、それは確かにそこにあって、私を幸せにしてくれたし、今も
温かい気持ちにしてくれる。
その思い出が大切だからこそ、ロング・グッバイが切ないのだ……
だったら、仕方がない。
二つの思いを抱えて歩いていこう。
過ぎ去った大切なひとときを今も変わらず大切に抱きしめたい思い、
そして、今のこの、涙がこぼれそうな切ない思いとを。