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文色みち【ショートショート集】

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私が書いた約1000~2000文字前後のショートショート(掌編小説)をまとめておくマガジンです。
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#恋愛

アオすぎる彼【#ショートショート】

透き通るようなアオい空。 この空を眺める度に、別れを告げられたはずの彼のことを思い出してしまう。 あの時の彼は言った。 ――僕は、空が嫌いなんだ、と。 なぜか、その言葉だけが私の心に今も棲みついている。 彼と出会ったのは、今日とは真逆。車軸のような雨が降る夕刻だった。 山に囲まれた田舎で暮らしていた私は、屋根のあるバス停でいつ来るかわからないバスをベンチに座りながら待っていた。すると、雨粒の隙間を縫うかのように彼は颯爽と姿を現した。 「急に降ってきましたね」 全身びしょ

執事の勤め【#ショートショート】

私の名前は、白銀純一。今年で三十路を迎えます。 幼き頃から財閥である黒金家に仕えてきた私は、執事としての職務を全うしてきました。特にお嬢様であられる黒金香純様とは2つほどしか年が変わらず、大変おこがましい話ではありますがその成長を間近で拝見させていただけたこと、誠に嬉しく思っております。 香純様は幼き頃から美しく、ご両親から蝶よ花よと育てられ、その愛情を多く受け取り立派なお嬢様となられました。 始めは煙たがっていた習い事も、通い続ける内にその天賦の才を目覚めさせ、誰よりも

グレーな薔薇色【ショートショート】

いつのまにか、薔薇色の青春を味わうことの無いまま僕は大人になってしまった。しかしそのことについて焦ったこともなければ、後悔したこともない。 ただ人生は長いようで短い。一度くらいそんな経験をしてみたいという気持ちは、心の片隅にあったのだ。 相変わらず僕は、行きつけの喫茶店のカウンター席で文庫本を片手に紅茶を口に運んでいた。 この街の喧噪から百歩ぐらい離れた深々とした空間。ここをプライベートルームのように利用していた。 だから、接客ということをほとんどやらないマスターが、唐

夫婦のルール【ショートショート】

私たち夫婦にはいつつのルールがある。 ひとつめは、嘘をつかないこと。 嘘と言っても、冗談や嬉しいサプライズとかなら良い。その境目は相手に禍根を残すか残さないか。その案配が難しいと思うかもしれないけど、私たち夫婦にとってちょっとした刺激は興奮剤でもある。 ふたつめは、感謝を忘れないこと。 何かをしてもらったりした時は必須。毎日の習慣的なことで、当たり前となってしまったことであれば尚のこと、感謝の言葉は必要なのだ。食事を用意したり家事をこなしたり、お互いに感謝し合えば不満は生