ヤオのこと〜料理人にできること
4〜5月は、タイのチェンマイから友人の料理人ヤオこと Yaowadee Chookongが逗子に滞在していました。会うたびに心を震わせてもらえる友達です。
以下、AMIGO HOUSE で開催したヤオのお料理教室に(通訳として)参加して、感動したことをいくつかメモ。
チェンマイで「スローフードの母」と呼ばれるヤオが扱うのは、”本物”の食材だけ。
「今、タイでは誰もちゃんと料理をしなくなってしまいました。料理をする人でも、缶入りのココナツミルクや出来合いのペーストでパッタイやカレーを作ります。皆が安さと便利さを求めるから、保存料や人工調味料が足されて、何ヶ月置いておいても腐らないようなペーストが店に溢れるようになりました。
でもね、旬の食材やとれたてのハーブに勝るものはないんです。炭火で煮詰めたココナツシュガーペーストのコクはたまらないし、漁師町で昔から作ってきた混ざりものなしのカピ(エビペースト)がやっぱり一番美味しい。ほら、食べてみて!」
と、ヤオ「推し」の調味料をテイスティングさせてもらうと、砂糖の深みとコクに驚くし、カピはおつまみでそのまま食べ続けられる美味しさ。ナンプラーも初めて食べるような軽やかさでした。どれも地方の小さな村で、高齢の方々が細々とつないできた伝統製法のものを見つけてきたのだそう。
「昔ながらの作り方では大きな収入にならないから後継者が出ない。そうすると、食材自体が失われます。それを見るたびに “私が全部、必要な金額で買い取るからどうかやめないで” と応援して、買い支えてきました。中には実際、私たちが選んだことで話題になって、後継者が立つようになった食材もあるんですよ。
“美味しさはわかるけど、そんな手間もお金もかけられない”? “オーガニックは高すぎる”? 本当にそうかな。信じられる生産者と直接つながって買取りをしたら、支払ったお金は全部必ず、その生産者の暮らしや、土地の生態系を守るために使われます。一方で、市販の安すぎる食べ物を食べ続けていたら、おいしくもない上に結局身体が壊れてしまい、メンテナンスにもお金がかかるでしょう?
自然を守りながら、ちゃんとした本物の食材を作る。それをやるのにコストも労力もかかるのは当たり前だってことは、現地に行ってみればすぐにわかります。今の時代、食べ物が基本的に安すぎるの。生産者の努力を正当な値段で買い支える人がいなかったら、結局は私たちの食べ物がなくなっちゃうと思うのです」
ヤオはそんな理念から、「サステナブルな漁業を目指す漁師を支えるために」と Maadae Slow Fish - มาเด สโลว์ฟิชを始めました。「マデー」はチェンマイにある話題店。若い料理人たちが炭火や伝統的な調理法で鮮魚を扱い、国内外からお客さんがやってきます。
生産者たちは「あの店で食材を扱ってもらえると、暮らしが成り立つようになる」と言い、訪問客たちは「ご飯が驚くほど美味しいのはもちろんのこと、働いているスタッフが皆楽しそうで、輝いている」とリピーターになります。
「最初は、もう新しい店を開店するつもりはなかったの。だって店をやるの、大変だもんw!だけど、ご縁があり、やることになったから、それだったら、そのとき漁港に溢れている旬の魚や、市場には出せない未利用魚を扱うことで、漁師を応援したいと思ったんです。漁師を応援することで海の生態系保全に貢献できるし、(美味しい魚を出すことで)肉食が減れば陸の環境も豊かになるでしょう?
さらに、店で働くのが若者ばかりであれば、若者たちが食べにきて、こうした考え方に共感し、社会が育っていく。Maadaeはレストランだけど、学校のような役割なのかな」
そんなヤオはお料理教室も開催していて、こちらも予約が取れないことで有名です。ちょっと特殊なお料理教室のスタイルで、開催場所は自宅。パーマカルチャービレッジPUN PUNで経験を重ねた大工の旦那さんが手作りした循環建築の心地いい家にヤオと共に暮らし、料理の技術を詰め込むというより、生きかた・在りかたを学ぶような、数日間の滞在型研修なのです。
企業がサステナブルをコンセプトにレストランを始める際のスタッフ研修やメニュー開発なども依頼が入るようになり、ヤオの元には今、19人もスタッフがいるそう。
「生産者を応援するため、若い人を育てるために事業をやっているようなもの。彼らの次のチャレンジのためにも、今度は日本にお店を持ちたいなと思ってるよ!」と笑っていました。
初めて出会った頃は、小さなカフェ1つを手作りで運営していたヤオが、今こんな風に自由に国内外で活躍するのを見て、私は勇気を貰い続けています。
書きたいことはまだまだあるけれど、続きが知りたい人は是非、来年もきっとまた日本に来て、お料理教室を開催してくれるはずのヤオに、直接会いにきてください。
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