レイチェル・カーソンは「知ることは感じることの半分も重要でない」と言いました。それはまさに、子どもたちを毎日見ていて感じてきたことだったけれど… それ、子どもだけの話じゃなくて、大人も結局、同じなんだよなーと、最近よく思います。
どんなに大切なメッセージでも、説教されるよりも「体感」したときに腹落ちするもの。だから、視覚も嗅覚も全開にして自然の中に身を置いたり、大切に育てられた食材を大切に料理したものを食べたりすると、ハッとすることがある。
そんなことを考えていた折、その分野において大尊敬するお二人の対談に、モデレーターとして参加させていただきました。以下、11月24日(木)の夜、SPBS Toranomon という本屋さんで野村友里さんと原川慎一郎さんのお話を伺ったときのメモ、書き起こしておきます。
(お話がしみじみ良くて、ほぼ全部書き起こしました。とっても長いので、良かったら、ゆったりとした夜にお茶かワインでも用意して、お付き合いください♪)
お二人に共通していたのが、シェ・パニースでの修行経験があること。まずは、野村友里さんに、アリスから学んだことから伺いました。
生江さんやジェロームにお話を伺ったときも、シェ・パニースの何が印象に残っているかと聞けば、「皆で食卓を囲んで話をする時間」と話してくれました。
小野寺:
そんな体験が、ご自身のお店を持とうという気持ちにもつながった?
小野寺:
2010年にシェ・パニースで学んだ友里さんがレストランeatripを始めたのは2年後の2012年。今は、表参道ジャイルに eatrip SOIL もありますね。「食」を提供するにとどまらず、さらに一歩踏み出して、衣食住の表現活動もされています。
小野寺:
あるものでやる、って本来、ものすごく面白いことですよね。でも残念ながら、私の子どもの時はすでに何かが必要なら「作る」ではなくて「新しい既製品を買う」時代になっていました。藍を育てて布を染めたり、お茶にしたりなんて、私の母親世代はもうやらなかった。味噌・醤油も。
なんでも買えるって便利だけど、その一方で、暮らしの知恵を自分の世代で取り戻せなかったらこの先なくなってしまいそうだとも思います。自然との距離を近づけることができたらと、今、子どもたちと一緒に「あるものでやる」「とって食べる」で遊んでいます。
小野寺:
アリスは今回、最後の章のタイトルを「Interconectedness」にしました。私はこれを「生かしあうつながり」と訳しましたが、自然と人のつながり、生産者と人のつながりについて書いてある章です。友里さんの映画「eatrip」にも、そんなつながりが見えました。
小野寺:
地道なローカルが国を超えてグローバルにつながるのって、楽しいですよね。大切にしている考え方は同じで、その上で、各々の個性が生かされていると、世界中旅をしていても嬉しくなる。その土地土地を尊重しながらのグローバルな考え方、ローカルな行動がいいなと思います。
小野寺:
さて、シンさんは昔、夏休みのたびにシェパニースに修行に行かれたと伺っています。そして、ジェロームが日本に来たときに意気投合、二人で神田にThe Blind Donkeyを始めた。今、どんな暮らしをしているか、教えてください。
小野寺:
岩崎さんは、80種類の種を40年以上の間、守り続けていると聞きました。これ、ものすごく大変なことだと思うんです。
私の地元では、たとえば「三浦大根」が在来の野菜です。太くて長い、大きな大根なんですが、これが真っ直ぐ育つにはそれだけの広さと深さで土を柔らかく保つ必要があるし、種取りだって大変です。最近、親しい農家さんから「みんな外から買ってきたタネで青首大根に移行している。三浦大根は大変だから、数年後にはやる人がいなくなるかもしれないね」と聞いて悲しくなりました。でも在来種を育て、タネを守って、それだけ大変なことなのですよね。
小野寺:
シェ・パニースでの学びも、今のお店に生かされていますか?
私は厨房に入ったわけではないですが、その感じ、すごくわかります。アリスの関わる場所は、シェ・パニースでも、エディブルスクールヤードでも、スローフードでも、どこでも個性が大切にされていて。
アリスに伝えたことがあります。「あなたが関わる場所ではいつも、食材の一つひとつ、スタッフの一人一人の個性が大事にされている。しかも、そのありようが周りの皆に伝わって、文化になっている」と。するとアリスはこんな風に答えてくれました。
「私一人でやったことなんて一つもないからですよ。シェパニースで地域に新しい経済圏を生み出すことも、エディブルスクールヤードという、校庭を畑にするという壮大な試みも、一人じゃできっこないから。私は、何かを始める時はいつも友達に “助けて” っていうことから始めるんです。そうしたら、自ずと皆の個性が開いていくから」
きちんとするのは当たり前、でもその前に「その人がそこにいる」「その食材がそこにある」ことを尊重する姿勢、素敵だなと思います。
小野寺:
ただ美味しいだけではないエネルギー。そこに感動がありますね。アリスも本書に「"オーガニックは高いからお金持ちのためのもの" じゃないよ、工業的に作られた野菜の方がむしろ、医療費や環境負荷、補助金などの隠されたコストがある」と書いていました。
昨日、ポケットマルシェの高橋さんが本書についてのトークイベントをしてくださったのですが、印象的な話をしていました。
「オーガニックが高い、なんて言えませんよ。土の中の循環まで考えて、野菜のことまで考えて作ってくださる方がいる。
お金を払うのはかつて "作ってくれてありがとう" の気持ちだったと思うんですね。いまどちらがありがとうございますを言っているかというと、販売する側。これでは "何に生かされているのか" が見えなくなってしまう。都会の人は働いているけれど、実は生活していない。消費しているだけなんです。そして、消費するだけって、ものすごく孤独です。僕は、孤独を解消するにもポケマルをやっているのかもしれない。
消費するだけから、"ありがとう"を言える豊かなつながりの中にもう一度戻ること。この転換のために、アリスさんが言う "スローフード文化" が大事だと思いましたね」
岩崎さんが育ててくれた野菜にはまさに「ありがとう」、そしてそれを生かしてくれるシンさんのお料理を食べるとさらに「ありがとう」。まさに、つながり直せている感覚になるのではないかと感じました。
さて、ここからはQ&Aです。
料理の枠を越え、アートや舞台でも表現をする理由を聞かせてください。Open Harvestや「Inner eatrip-食の鼓動」「”Life is beautiful” 衣・食植・住」で、友里さんが感じていることはどんなことでしょうか?
小野寺:
「食の鼓動」は、食のパフォーマンスだけれど、最後、「食べない」ことで終わる表現でもありました。森の音を聴き、土の香りを感じ、でも、最後に「食べる」ことはしなかった。
小野寺:
情報はいくらでも取れる時代になりました。でもだからこそ、最終的には五感が開くことで学びがある、理解があるとも感じています。学校での学びも情報の伝達ではなくて、「感じる」ものであってほしいなと思います。
会場より:
私は普段、ファストフード側にいる人間です。本書を読んで感銘を受けて今日ここにいますが、分断はしたくなくて。ファストフードとスローフード、両方大切なのかなと思っています。スローフードを大量生産の側に乗せていく必要もあるかな、とも。どんなアプローチがありますか?
小野寺:
どんなことにも変換期はありますよね。すべての貿易が公正ならわざわざ「フェアトレード」と呼ぶ必要はない。皆が昔ながらの循環型農業を続けていたら「オーガニック」と呼ぶ必要もない。昔ながらのままでは飢えてしまう人が多かった時代に、農薬や化学肥料が命を救ったこともありました。
だから本書でも、すべてをいきなりスローフードへ、というよりは、大量生産の側に加速しすぎてしまった社会を、どう揺り戻してバランスを取るかという話なのだと思います。
小野寺:
シンさんの仰る「感動」を大きな企業が手掛けようと思ったら、幅はグンと広がります。アリスも「スピード感が大事なこともある」と書いていましたが、その可能性にはワクワクしますね。
小野寺:
アリスの友人に、町中の空き地に食べ物を植えているゲリラガーデナーがいます。ロン・フィンリーさんというんですが、彼は「サステナブル=持続可能じゃ、もう足りない」って言ってます。「人間があまりに多くを破壊してしまったから、このままを維持するんじゃなくて、再生しなくちゃ。これからは、サステナブルじゃなくて regenerative = 環境再生型 でいこう」と。
サステナブルへの移行期に、さらに加速させるアイディアも出てきている中で、何が始まっていくか、楽しみです。
会場:
伝統について、お考えを聞かせてください。伝統は、囚われすぎれば足枷にもなりますが、インスピレーションの源でもあると思います。日本の伝統をどう生かしていくのがいいでしょうか?
小野寺:
お二人が今後したいことは?加速しすぎてしまった社会を揺り戻すためにできることはなんでしょうか。
ガンジーも、「Be the change you wish to see in the world = 見たいと思う世界の変化に、あなた自身がなりなさい」と言いました。まさにそんなお二人からゆっくりとお話が聞けた、とてもいい夜でした。
覚えておけるように、ちょっとだけ… と思ったら、
削る箇所がなくて、思わずほぼすべて書き起こしてしまいました。笑
企画してくださったSPBS虎ノ門の佐和さん、参加してくださった皆様、
いい夜をありがとうございました!