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【レポート】韓国国立中央博物館特別展「스투파의 숲,신비로운 인도 이야기(ストゥーパの森:見知らぬインド物語)」(執筆中)

2024年2月15日,韓国国立中央博物館(ソウル特別市)の企画展示室で開催されている「ストゥーパの森:見知らぬインド物語」展(開催期間:2023年12月22日〜2024年4月14日)に行った.このnoteはその時の記録である.


1. 概要

韓国国立中央博物館左手 特別展の入り口

2023年12月22日から2024年4月14日まで,韓国国立中央博物館は特別展「스투파의숲,신비로운인도이야기(ストゥーパの森:見知らぬインド物語」を開催している.これは,ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催された「Tree and Serpent, Early Buddhist Art in India, 200 BCE-400 CE(樹木と蛇:紀元前200年〜紀元後400年にかけてのインドの初期仏教美術)」展(July 21-November 13, 2023)のソウル巡回展で,メトロポリタン美術館の協力のもと開催されている.
展示されている考古遺物は,ニューデリー国立博物館をはじめとしたインドの12の博物館からもたらされた61点の所蔵品を含み,大英博物館ヴィクトリア&アルバート博物館,ドイツのアジア美術館,アメリカのメトロポリタン美術館など,4カ国18機関の南インドを中心とした所蔵品計97点である.
また,21世紀になって新たに発掘されたパニギリ(Phanigiri, Telangana)遺跡からの出土品も展示されている.

2. 韓国国立中央博物館の基本情報

韓国国立中央博物館はソウル特別市龍山区にある大韓民国文化体育観光部傘下の博物館である.

住所
04383 ソウル特別市龍山区西氷庫路137(龍山洞6街 168-6)
04383 서울시 용산구 서빙고로 137(용산동6가 168-6)
137 Seobinggo-ro, Yongsan-gu, Seoul, 04383, Republic of Korea

電話
+82-2-2077-9000 (韓国語・英語)
+82-2-2077-9085 (日本語)

博物館まで
地下鉄4号線二村(이촌, Ichon)駅を降り,改札口を出ると左手に地下道があり,そのまま博物館につながっている.
*ちなみに韓国では交通系ICカードTmoneyとの一体型プリペイドカードWOWPASSを利用すると便利.地下鉄などの公共交通機関だけでなく,飲食店などの支払いもこのカード1枚で可能.アプリで管理できるので,万が一紛失してもすぐに利用停止することができる.もちろん,入館料もこのWOWPASSで支払うことが可能である.

料金(特別展) *常設展は無料
25-64歳 10,000KRW
13-24歳  7,000KRW
7-12歳    5,000KRW

開館時間
月・火・木・金・日 10:00-18:00(入場締切:17:30)
水・土       10:00-21:00(入場締切:20:30)

3. 特別展「ストゥーパの森:見知らぬインド物語(스투파의 숲,신비로운 인도 이야기)」

プロローグ(프롤로그,Prologue)

紀元前5世紀,インド北部のヒマーラヤ山脈の南麓で誕生した釈迦牟尼の教説から始まった仏教は,数百年をかけてインド中央部のデカン高原をこえて南方へと伝播した.釈迦牟尼が誕生した故郷とは,季候や習俗,その他の文化の異なる場所で仏教は,生命力あふれる土着の神々と習合し,新たな物語を継続することになる.今から2000年前にさかのぼるこれらの物語は,南インドのあちこちに建立されたストゥーパ(仏塔)を飾るレリーフとして遺された.しかし,残念ながら歳月は流れ,ほとんどのストゥーパは崩壊に帰し,元の姿を今に伝えていない.わずかにレリーフが遺るのみであるが,その中に描かれた物語は,その生命力を伝えている.

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(17)

ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催された「Tree & Serpent: Early Buddhist Art India」展は, J. ファーガッソン(James Fergusson, 1808-1886)が著したTree and Serpent Worship. Or Illustrations of Mythology and Art in India in the First and Fourth Centuries after Christ: From the sculptures of the Buddhist Topes at Sanchi and Amravati. WH Allen & Co.: London, 1868.  (『樹木と蛇の信仰 紀元後1世紀から4世紀にかけてのインドの神話と美術の解説:サーンチーとアマラーヴァティーの仏塔の彫刻より』)にちなんでタイトルがつけられたという.J. ファーガッソンはスコットランド生まれの建築史家で,インドの歴史的建造物と考古遺物に関する専門家だった.とくに19世紀のインドの考古学的発見に貢献した人物でもある.
韓国国立中央博物館の特別展の主催者は,メトロポリタン美術館での名称を継承しつつも,この特別展に独自の名称を与えた.ストゥーパを森に見立て,「ストゥーパの森(스투파의 숲)」とタイトルをつけた.それは,メインの大塔とその後に付加され続けた小塔を含め,それらはあたかもあらゆる生命を育む「森(숲)」のようであると考えたようである.そして「森」のイメージは北インドと異なる南インドの高温多湿な気候や風土を想起し,その「森」は実際の,あるいは想像上の動物や植物の生命の源にもなっていることも重ね合わせたのだろう.

展示は以下のようセクションわけで展示されていた.

第1章 神秘の森(신비의 숲)
 1-1 豊かな自然,さわやかな生命(풍요로운자연, 싱그러운생명)
 1-2 神秘的なインドの神々(신비로운 인도의 신들)
 1-3 豊かな南インドの仏教徒たち(풍족한 남인도의 불교 후원자들)
第2章 物語の森(이야기의 숲)
 2-1 舎利,新しい物語のはじまり(사리, 새로운 이야기의 시작)
 
2-2 ストゥーパ,物語をかたる(스투파, 이야기를 담다)
 2-3 ストゥーパの象徴,無言の物語(스투파 속 상징, 무언無言의 이야기)
 
2-4 ストゥーパの物語,彼の生涯のドラマ(스투파 속 서사, 그의 인생 드라마)

この展示の流れは,上述の森(=ストゥーパ)に育まれた豊かな生命というイメージを持ちやすいものとなっている.

01 サータヴァーハナ王と女性たち
紀元1世紀後半
石灰岩
167.7×110.6×9 cm
アマラーヴァティー大塔出土
大英博物館蔵

会場に入ると、まず展示されているのがこのサータヴァーハナ王を描いた浮彫である.これから展示される考古資料を考える上で示唆的である.
今回,展示された考古遺物は,北はサーンチーやバールフット,そして南は主としてナーガルジュナコンダやアマラーヴァティーと,サータヴァーハナ朝治下の遺跡がほとんどである.今回展示された遺物は,サータヴァーハナ朝の存在を自ずと考えざるをえない.
サータヴァーハナ朝は,マウルヤ朝の崩壊以後,デカンを中心とし,紀元前2世紀後半から後3世紀初頭まで覇を唱えた勢力である.ドラヴィダ系の勢力であったサータヴァーハナ朝は,公用語としてサンスクリットを採用し,バラモン文化を大いに取り込んだ.同時に仏教やジャイナ教も保護し,王の一族からは仏教徒になる者も出た.
今回の展示にはなかったが,仏教遺跡としては,カーンヘーリ,ナーシク,カールリー,アジャンター,エローラ,アウランガーバードといった西インドの石窟寺院群は、サータヴァーハナ朝治下において開鑿されている.
このように,これらの南インドの仏教文化を考える上でサータヴァーハナ朝の存在は考慮しなければならない.

参考
山崎元一 [1997] 『世界の歴史3 古代インドの文明と社会』東京:中央公論社

第1章 神秘の森(신비의 숲)

ガンガー河南岸に広がる平野は,インド中南部のデカン高原につながる.そこでは季候も変わり,熱帯性の季節風の影響で,一年中温暖で雨量も多い.マハーラーシュトラ西部からアーンドラプラデーシュ東部を横断して流れるゴーダーヴァリー河とクリシュナー河を中心に仏教文化が開花した.マウルヤ朝の崩壊以後,紀元前2世紀初頭からサータヴァーハナ朝の支配をうけた.サータヴァーハナ朝は,紀元前後にしばらく断絶することもあったが,その後200年以上この王朝が続いた.この土地は王朝の興亡盛衰に揺れることなく,ただ生成と消滅する自然の力を信奉する人々がいた.彼らは自然の精霊崇拝に関連した信仰と文化を持っていた.南インド固有の信仰は,新たにやってきた仏教徒出会い,独自の文化を形成した.そのように南インドには土着の文化と仏教が交わる世界,神秘の森が存在した

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(21)

1-1 豊かな自然,さわやかな生命(풍요로운자연, 싱그러운생명)

赤道に近い南インドは,熱帯性の季節風影響で釈迦牟尼が生まれ育った北インドに比べ,冬も寒くなく.高温多湿である.特に夏は季節風の影響で大量の雨が大地を潤し,すべての生命が争うように大地より涌き出して成長する.美しい曲線を描きながら伸長するムンクル植物と伝説中にもみられるような不思議な動物は,豊かな自然の象徴として南インドの仏教美術に頻出する.仏教が伝播した後も,南インドではやわらかい生命のオーラが感じられるこのような象徴物を変わらず大切なものとしてストゥーパのあちこちに意匠として使用した.

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(23)
02 水の満たされた豊かな瓶(満瓶)
紀元前150-100
砂岩
44.5×34.3 cm
バールフット出土
アッラーハーバード博物館蔵
06 口から蓮の茎を吹き出す自然の精霊
約紀元前150-100
砂岩
104.1×58.4 cm
バールフット出土
アッラーハーバード博物館蔵
07 豊穣の神 シュリー・ラクシュミー
2世紀
黄斑赤色砂岩
104.1×30.5×27.9 cm
ジャマールプル(マトゥラー)出土
ニューデリー国立博物館蔵
07の背面
10 マカラ×ライオン=新たな想像上の動物?とそれにまたがる人物(塔門の端)
3世紀
石灰岩
57.8×99.1×39.4 cm
伝ケーサナパッリ(アーンドラ・プラデーシュ)
バウダスリ考古博物館蔵

「第1章 神秘の森」の冒頭のセクション「1-1 豊かな自然,さわやかな生命」と題されたとおり,ここではストーパの欄楯の笠石や柱にほどこされた蓮華の植物文,樹木神のヤクシャが蓮の蔓草を吐きだすシーン,吉祥を象徴するラクシュミーなどが展示されている.特に興味深かったのは,「02 水の満たされた豊かな瓶」だった.考古遺物の展示だけでなく,プロジェクターで映像を投影し,浮き彫りされた満瓶(pūrṇaghaṭa)を躍動的に表現している点は他ではみることができないだろう.再生を繰り返すこれらの植物は,輪廻を象徴していることを物語っていることを効果的に表現している.まさに,ストゥーパと「森」のを重ね合わせていると言えよう.
命を生み出すのは植物だけではない.また現実世界の存在だけでもない.想像上の生きものもこの中に含まれる.インド神話に登場する想像上の動物「マカラ(Makara)」がそれである.興味深いのは「10 マカラ×ライオン=新たな想像上の動物?」のように,マカラとライオンを組み合わせて,さらに新たな動物を表現しているところである.これは塔門の横梁の横に飾られたもので,仏塔の守護的役割を担っているのだが,現実と神話(物語)の融合を表現しているとも考えられる.
これらは単に装飾的なものを意味しているのではない.たとえば人類学で言われるマルチスピーシーズのように,人間を中心とせずあらゆる命あるものがともに生きることを意味しているとも考えられる.

1-2 神秘的なインドの神々(신비로운 인도의 신들)

乾季が終わり,雨をいっぱいにし,モンスーンが吹くと,乾燥した大地にも池がたまり,綺麗な蓮の花が咲く.蓮の茎はおどろくべきはやさで成長し,池の中に広がり,池の中の様々な生物は活気を帯びる.しかし,モンスーンがとまると,生物たちは息を潜め,またモンスーンが吹くのを待つ.このような生命の循環をみてきたインド人たちは,自然に宿る未知の力,精霊の存在を信じるようになった.そして再生と消滅を繰り返す豊かな精霊を擬人化し,神として祀った.その中でも樹木とともに豊かさをもたらす自然の精霊のうち,男神はヤクシャ,女神はヤクシーと呼ばれた.自然の精霊を擬人化したヤクシャ/ヤクシーには,さらにインド特有の想像が加わり,さまざまな特性を持つことになった.そして新しい宗教である仏教と混淆し,また同時にそれぞれが新たな役割とその位置を得ることになった.

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(43)
17 コインをそそぐ蓮の帽子をかぶったヤクシャ
3世紀末
石灰岩
72×38 cm
ナーガールジュナコンダ出土
ナーガールジュナコンダ考古博物館蔵
18 豊かさの象徴で飾られたヤクシー
紀元前1世紀
粘土
26.7×20 cm
チャンドラケートゥガル(西ベンガール)出土
メトロポリタン美術館蔵

この「1-2 神秘的なインドの神々」のセクションでは,人格化されたヤクシャ(夜叉),ヤクシー(夜叉女),ナーガがならぶ.ナーガールジュナコンダから発見された「17 コインをそそぐ蓮の帽子をかぶったヤクシャ」は,一対の片方の像で,タイトルにあるように,蓮の花の帽子をかぶり,そこからコインが涌きだし,こぼれ落ちている.その様子をプロジェクターで投影し,躍動的に表現していた.1−1でもそうであったが,これらの彫像を静止した状態でみるのではなく,常に動的に表現しようとしている点は興味深かった.西ベンガルのチャンドラケートゥガル(Chandraketugarh)から発見された「18 豊かさの象徴で飾られたヤクシー」(英語のタイトルではラクシュミー)も興味深い.チャンドラケートゥガルは,コルカタの北東約35 kmのビドゥヤダリ川近くにある遺跡で,プトレマイオスの『地理』に言及されるガンガリダイ王国の版図であると考えられている..発掘は1957年から1968年にかけて行われた.このヤクシー像は第3期(シュンガ朝期)のものと思われる.
これら以外のヤクシャ,ヤクシー,ナーガといった精霊たちの像は,人格化され,そして仏教と融合し,豊かさを,あるいは仏教を守護する役割を担いつつ,仏塔そのものもつ生命力のようなものを表現しようとしていたようにも感じた.

1-3 豊かな南インドの仏教徒たち(풍족한 남인도의 불교 후원자들)

南インドに仏教が伝播したのは,インド初の統一王朝であるマウルヤ朝の第3代王アショーカの時,ガンガー河流域から,デカン高原南方へと勢力を拡大したころである.以後,マウルヤ朝の滅し,南インドは新たにサータヴァーハナ朝が統治し始めたが,依然として仏教は勢力を維持した.南インドであらたに仏教徒となった彼らは,王侯貴族ではなく,商業や貿易,あるいは製造業に従事した人々であった.インド全域はマウルヤ朝期を経て交易網が拡大し,サータヴァーハナ朝期には,東は東南アジア,西はペルシャ,あるいはローマに至るまで活発な国際貿易を継続した.仏教が王朝の興亡盛衰に左右されず,安定的に南インドに根付いたのは,経済的に豊かで新たなことに好奇心の旺盛な商人と職人階級の支援があったからだ.

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(65)
28 4頭立ての戦車と射手のメダル
紀元前200年ころ
黒色粘土
直径7.6 cm
パトナ出土
ビハール博物館蔵
33 ローマで製作されたポセイドン
1世紀
銅合金
15×5×5 cm
ブラフマプリ(コーラプル,マハーラーシュトラ)出土
マハーラーシュトラ・タウンホール博物館蔵
41 ギメ博物館におけるアフガニスタン仏教寺院発掘を記念した
ギメ博物館における特別展のポスター
1938年
リトグラフ
73.5×52 com
パリ・フランス
メトロポリタン美術館

第2章 物語の森(이야기의 숲)

かつてのインド人たちは,生命が誕生して死ぬまでの人生が一度限りであるとは考えていなかった.生命あるものなら,生まれては死に,また生まれかわるという,輪廻を信じていた.悟りを得たものだけが輪廻の鎧を脱いで涅槃にいたって仏陀となった.ヒマーラヤ南麓で誕生した釈迦牟尼も幾代にもわたって数多の生涯を繰り返し,功徳を積むことで仏陀となった.ガンガー河流域を中心とした釈迦牟尼の前世の物語は興味深く,教訓的でもある.
釈迦牟尼のさまざまな人生の物語は,彼の舎利(遺骨)とともに伝えられ,仏教がインド全域に伝播するのに大きな役割を果たした.ストゥーパを飾った釈迦牟尼の人生の物語は,南インドの人たちの情熱に満ちた豊かな想像力に支えられ,あたかも楽しい映画のワンシーンへとして描かれることになった.このように映画の場面がストゥーパを荘厳しながら,南インドには神秘的な森が広がる.

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(93)

2-1 舎利,新しい物語のはじまり(사리, 새로운 이야기의 시작)

紀元前400年ころ,釈迦牟尼が般涅槃に到達したと知った仏弟子たちは,彼の遺体を荘厳に,荼毘に荼毘に付した.火葬後に得た舎利(遺骨)を8つに分けてそれぞれのストゥーパに安置した.その後,約150年後,全インドを統一したマウルヤ朝のアショーカ王は,凄惨な殺戮をくりかえす戦争を悔い改め,釈迦牟尼の教えにしたがって国を統治しようとした.このため,ガンガー河流域に建立されたストゥーパから舎利を取りだし,インド全域に八万四千のストゥーパを建立した.「八万四千」は仏教で「非常に多くの」数の比喩的表現で,アショーカがインドを兆智し始めたころに,仏教もまたインドの隅々にまで伝播した事実を意味している.このように仏教は釈迦牟尼の舎利とともに南インドにも伝わり新たな物語を作っていった.

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(95)
46 舎利容器を運ぶ象
紀元前2世紀後半
砂岩
44.5×40.5 cm
バールフット出土
アッラーハーバード博物館蔵
48 舎利容器
紀元前1世紀
滑石
16.5×18 cm
ソーナーリ(ヴィディシャー)出土
ヴィクトリア&アルバート博物館蔵
49 舎利容器
紀元前1世紀
滑石
5.5×5.7 cm
ソーナーリ(ヴィディシャー)出土
ヴィクトリア&アルバート博物館蔵
51 ピプラーワーの仏塔から発見された舎利(第2期)
*1898年,W.C. ペッペ(William Claxton, Peppé. 1852-1936)によって発見
紀元前約240-200年
ピプラーワー出土
個人蔵
51 ピプラーワーの仏塔から発見された舎利(第2期)
51 ピプラーワーの仏塔から発見された舎利(第2期)
51 ピプラーワーの仏塔から発見された舎利(第2期)

2-2 ストゥーパ,物語をかたる(스투파, 이야기를 담다)

釈迦牟尼は涅槃に入る前,仏弟子たちに転輪聖王と葬送にしたがって自らの遺体を処理せよとあらかじめ伝えていた.これにしたがって遺体を火葬したのちにのこった舎利を,転輪聖王と同じようにストゥーパに安置した.舎利を安置したストゥーパはできるだけ壮大につくり,最も高いところに権威を象徴する傘蓋を幾重にも荘厳した.そして,参拝者が右繞して祈ることができるように,3段の高い柵でストゥーパを取り囲んだ.ストゥーパ本体と欄楯は美しいレリーフで荘厳された.仏舎利塔を参拝するために欄楯の中に入ると巨大なストゥーパを囲む壁面と欄楯にチョコ腐れた仏陀の物語がパノラマのように広がっただろう.

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(107)
54 手で触れられたストゥーパ
紀元前約150-100年ころ
砂岩
83.8×108×16.5 cm
バールフット出土
ニューデリー国立博物館蔵
56 釈迦牟尼の舎利を安置したストゥーパ
約1世紀ころ
石灰岩
ドゥパドゥ(Dupadu,アーンドラ・プラデーシュ)出土
アマラーヴァティー遺産センター博物館蔵
56 (部分)
57 釈迦牟尼の象徴表現を含むストゥーパ
約1世紀ころ
石灰岩
139.7×114.3×15.2 cm
ドゥパドゥ(Dupadu,アーンドラ・プラデーシュ)出土
アマラーヴァティー遺産センター博物館蔵
57 (部分)

2-3 ストゥーパの象徴,無言の物語(스투파 속 상징, 무언無言의 이야기)

ストゥーパに釈迦牟尼の物語を表現する方法はいくつかある.その中でも最も興味深いのは,釈迦牟尼がいない状態で釈迦牟尼の物語を伝える方法である.明らかに釈迦牟尼がいるはずの場所に人物を見ることができない.釈迦牟尼が悟りを開いた菩提樹の下,台座,足跡、または彼の教説を意味する法輪など,釈迦牟尼を象徴するものがその代わりになる.そして,誰もがそこに釈迦牟尼がいると暗黙の了解を交わす.
釈迦牟尼が見えなくても彼の存在を信じさせる力,ストゥーパの中の象徴にはそのような無言の力がある.

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(123)
58 空の台座に礼拝する人物
紀元前約150-100年ころ
砂岩
68.6×49.5×17.1 cm
バールフット出土
コルカタ・インド博物館蔵
60 空の台座に礼拝する人物
紀元前2-1世紀
砂岩
104×54.5×47.5 cm
パウニ(マハーラーシュトラ)出土
ニューデリー国立博物館蔵
61 太陽のような法輪と礼拝する人物
紀元前約150-100年ころ
砂岩
59.7×50.2×14.6 cm
バールフット出土
コルカタ・インド博物館蔵
64 ストゥーパの前に立つ法輪と礼拝する人物
紀元前1世紀
石灰岩
114.3×78.7×12.7 cm
ドゥリカッタ(Dhulikatta,テーランガナ)出土
アマラーヴァティー遺産センター博物館蔵
65 一目瞭然の仏足石
3世紀末-4世紀
石灰岩
38×38×9.5 cm
パニギリ(Phanigiri,テーランガナ)出土
ハイデラバード州立考古博物館蔵
68 燃える柱と礼拝する人物(ストゥーパ図)
3世紀
石灰岩
91×95×18 cm
アマラーヴァティー出土
アマラーヴァティー考古博物館蔵

2-4 ストゥーパの物語,彼の生涯のドラマ(스투파 속 서사, 그의 인생 드라마)

想像力に豊かなインド人は,釈迦牟尼を主人公にして多くの物語を紡ぎ出した.紀元前5世紀,釈迦牟尼がこの地に人間の姿で生まれた時の話や,その前に何度も繰り返された前世の話まで様々なドラマが存在する.釈迦牟尼の舎利を収めたストゥーパには,このように様々な彼の生涯のドラマが繰り広げられている.
釈迦牟尼の教説に従ってストゥーパを訪れた参拝者にとって,彼の生涯の物語は,最近流行している映画と同じくらいエキサイティングで感動的なものであっただろう.釈迦牟尼の様々な生涯のドラマをもう少し積極的に表現するために,この前の時代の象徴的表現から,ついに人間の姿をした主人公の釈迦牟尼が登場することになる.

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(145)
70 ヤギとして生まれた前世の物語と舎利争奪戦
3世紀
石灰岩
40×145×18 cm
ナーガールジュナコンダ出土
ナーガールジュナコンダ考古博物館蔵
70 (部分)ヤギとして生まれた前世の物語
70 (部分)舎利争奪戦
71 釈迦牟尼の今世の伝記
3世紀末
石灰岩
54×254×19 cm
ナーガールジュナコンダ出土
ナーガールジュナコンダ考古博物館蔵
73 マカラ×ライオン,釈迦誕生の物語(塔門横梁)
3-4世紀
石灰岩
59×134×21 cm
パニギリ(テーランガナ)出土
テーランガナ遺産局蔵
73 (裏面)
74 マカラ×象,釈迦の降魔成道の物語(塔門横梁)
3-4世紀
石灰岩
55×267×27 cm
パニギリ出土
インド考古局 パニギリ・ストゥーパサイト
74 (裏面)
75 不動王子の物語(Mūgapakkha Jātaka)
紀元前約150-100年ころ
砂岩
63.5×54.6×15.2 cm
バールフット出土
コルカタ・インド博物館蔵
76 釈迦牟尼の今世の伝記
3世紀末
石灰岩
54×254×19 cm
ナーガールジュナコンダ出土
ナーガールジュナコンダ考古博物館蔵
76 (部分)
76 (部分)
76 (部分)
76 (部分)
78 剃髪したシッダールタ
3世紀末
石灰岩
87.6×94×16.5 cm
ナーガールジュナコンダ出土
ニューデリー国立博物館蔵
80 成道から初説法
3世紀
石灰岩
200×86×24 cm
ナーガールジュナコンダ出土
ナーガールジュナコンダ考古博物館蔵
82 忉利天での母への説法と降下
3世紀末
石灰岩
122×75.6×17.1 cm
ナーガールジュナコンダ出土(ストゥーパ Site 6)
メトロポリタン美術館蔵
83 仏陀像
3世紀
石灰岩
103×40×18 cm
ネーラコンダパッリ(テーランガナ)出土
ハイデラバード州立考古博物館蔵
88 仏陀像
5世紀末-6世紀
銅合金(銀箔押)
5世紀末-6世紀
ネーラコンダパッリ(テーランガナ)出土
ハイデラバード州立考古博物館蔵

エピローグ(에필로그,Epilogue)

3世紀前半,デカン高原東南部では,サータヴァーハナ朝が崩壊し,新たにイクシュヴァーク朝が誕生した.この南インドにも礼拝対象としての仏像が作られ始め,仏教と仏教美術に変化が生じた.規範に則って安定したプロポーションで制作された仏像は,デカン高原を越えてスリーランカーや東南アジア,そして東アジアにまで影響を与えた.満面の笑みを浮かべた仏像は,南インドの仏教美術の発展段階が相当なレベルに達していることを示している.しかし,以前の南インド美術に見られた活力に満ちた動きは消え去った.生命力あふれるエネルギーと想像力に満ちていた南インドのストゥーパの森に安定が訪れると,根深いインド古来の宗教がやがて残された場所を占領し,ここを新たな空間にしていく. そこに残された人々は、仏教が最初に伝わった時と同じように,別の宗教と自然に調和し,新たな顔のストゥーパの森を作っていった.

図録『스투파의 숲,신비로운 인도 이야기』(193)
図録と論考集

図録だけでなく,今回の特別展には論考集も発行されている.いずれの論文もすべて韓国語である.目次は以下のとおり.

発行者 [08]
論文紹介(논고편소개) 南インドの仏教美術を理解するための12の論文(남인도 불교미술의 이해를 위한 열두 편의 에세이) [14]
序分(서문) John Guy 「樹木と蛇:インドの初期仏教美術(나무와 뱀, 인도 초기 불교미술,Tree & Serpent: Early Buddhist Art in India」 [16]
01 John Guy 「南インド初期仏教の風景(남인도 초기 불교의 풍경,Early Buddhist Landscape of Southern India)」 [22]
02 Peter Skilling 「ストゥーパ・仏足跡:初期仏教の想像力(스투파, 불족적, 초기 불교의 상상,Stūpas, Footprints, and Imagination in Early Buddhism)」 [38]
03 John Guy 「ストーパと舎利信仰(스투파와 사리 신앙,Stūpas and the Cult of Relics)」 [52]
04 John Guy 「初期南インドの仏陀の讃歎(초기 남인도 찬불,Celebrating the Buddha in Early Southern India)」 [68]
05 Gregory Schopen 「仏教寺院の経済的側面(불교사원 경영,The Business Side of a Buddhist Monastery)」 [88]
06 Vincent Tournier 「アーンドラの仏教支援と僧院施設: 銘文を根拠として(안드라의 불교 후원과 승가 조직: 금석학적 증거,Buddhist Patronage and Monastic Institutions in Āndhra: Epigraphic Evidence)」 [100]
07 Himanshu Prabha Ray 「アーンドラデーシャ沿岸の海上交通(안드라데샤 연안의 해상 무역망,Maritime Networks of Coastal Āndhradeśa)」 [114]
08 Norman Underwood 「ローマとインドのつながり(로마와 인도의 관계,Rome and Its Connections with India)」 [124]
09 Sunil Gupta 「仏陀の喚起 インド・スリーランカー・東南アジア(부처를 떠올리며: 인도, 스리랑카, 동남아시아,Evoking the Buddha in Peninsular India, Sri Lanka, and Southeast Asia)」 [140]
10 Akira Shimada 「初期アーンドラデーシャにおける仏像崇拝の発展(초기 안드라데샤 불상 숭배의 발전,The Development of Buddhist Image Worship in Early Āndhradeśa)」 [150]
11 Monika Zin 「カナガナハリにおける仏教の物語(카나가나할리의 불교 서사 미술,Buddhist Narratives at Kanaganahalli)」 [162]
12 Federico Carò 「アーンドラデーシャの岩石(안드라데샤 불교 암석,The Buddhist Stone of  Āndhradeśa)」 [174]

4. 参考動画

この「ストゥーパの森,見知らぬインド物語」展について,ソウル大学教授・韓国仏教研究院理事長のイ・ジュヒョン(이주형)先生が解説講義を行っている.1部と2部は2024年1月5日に韓国国立中央博物館で開かれた記念講演,3部と4部は同年2月1日に韓国仏教研究院で行われた展示品の解説になっている.


5. 常設展(仏教関係)

6. おわりに

(執筆中)

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