少年アヤ「焦心日記」感想

 書店員の一押しコーナーにあった、少年アヤ「焦心日記」。少年アヤさんの存在は元々知っていた。下北沢とか中央線沿いとかの個人書店でよく名前を見かけた。少年アヤという名前も著書の装丁も可愛らしくオシャレだったので、勝手に黒髪ボブヘアで肩幅が狭くて華奢でまつ毛がたくさん生えていて目力が強いが青みがかった色白の肌でヘッドホンとパーカーの似合う24歳くらいの女の人を想像していた。親近感は湧かないなあと手に取ることはなかった。


 少年アヤさんか〜とスルーしようとしていたら、帯に「柚木麻子」の文字を見つけた。柚木麻子さんが帯描いてるならこっち側(?)なのではと思い手に取った。パラパラとめくるとおかまやらブスやらオタクやらの刺激的な自虐単語が並んでいた。目がチカチカしてきてこれは読まねばとなりカゴに入れた。


 ショッキングピンクが似合う文体で、このひとのメンタルはギャルだと感じた。友だちもパンチの効いた人が多い。東京のどこに行けばこんな面白い人たちと会えるのだろう。話してみたいが、大きな声で猥談をしたりシワっシワの綾波レイのコスプレをしたりしている人に近づく勇気はない。


 読み進めていくと、アヤちゃん辛いね、私も辛いよ、一緒にがんばろ〜みたいな気持ちになってくる。勝手にマブダチ気分で応援してしまう。


 後半に文体が大きく変わる。可愛いオタクギャルのアヤちゃんは身を潜め、自身のコンプレックスと向き合い自身をケアしていく24歳の人間が立ち現れる。心のままに書かれた自己対話は深緑の色彩へと変貌をとげる。すごいもの見ちゃった。


 Z世代だとかギャルだとかサブカルだとか言って大人は表面に出ている部分を見て若い人たちを一緒くたにしてしまうけれど、彼らの極彩色は鎧なのかもしれない。かつての私たちも同じように時代の鎧を纏っていた。鎧の下にはいろんな色が、葛藤が渦巻いていて、それをないものとするレッテル貼りは絶対にされたくないと思っていた。じゃあ鎧を着るなと思われてしまうだろうけども、鎧を身につけなくては深傷を負わされてしまうだろう恐怖があった。レッテル貼りは処理落ちしないための防御だ。あくまで自己保身であって正解ではなく対象に押し付けてはならない。特に親は自分の子どもに0距離になりがちだから気をつけるべきだと思う。


 少年アヤさんは鎧の中身に向き合った。そして羽化した。「焦心日記」の後の作品や、現在の少年アヤさんがどんな人物になっているのかを追っていきたいと思った。

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