家族の風景
…全然人がいない。
家の近所を運転している時に、ふと気付いた。
時間は午後6時。
いつものこの時間は、平日・休日問わず軽く渋滞するのに今日に限っては道にほぼ誰もいない。運転しているのは片側一車線の道だが、自分が運転する車線にも対向車線にも車が見当たらない。
そのせいか、いつもと同じ道なのにいつもの道より広く感じる。
ゴールデンウィークもいよいよ終盤。
都市部ではUターンラッシュも始まっているというニュースを見た。ただウチはというと、特にどこにも行かず、いつもの休日と同じ感覚だ。
車を走らせて向かった先は、近所のうどん屋。
実は今日昼過ぎからお腹の調子が悪く、夕方に2時間近く家で寝込んでいた。あんまり重いものは食べられないからと、選んだ夕食がうどんだった。
「ぼく、冷たいうどんがいいんだけど」
「本当に?この前、冷たいうどん頼んだら『温かいうどんの方が美味しい』って私の食べちゃってたけど」
駐車場で車から降り、うどん屋へ向かう途中で6歳の息子と奥さんが話している。
確かに今日は汗ばむくらいの陽気だったので、ざるうどんも悪くない。ただ、お腹の調子が悪い時は温かいものを食べた方が回復する気がしている。
色々と考えたが、温かい天ぷらうどんを頼んだ。
金額は税込500円。お手頃だ。
出来上がったうどんを見て、思わず首を傾げた。
海老天と、うどんと、天かす。
彩りが少し寂しい気がする。
「ねぎ入れる?」
そういえば、注文の時におばちゃんに聞かれて思わず「抜きでお願いします」と頼んだのだった。
ねぎも最近そこまで嫌いじゃなくなってきているので「抜かなくても良かったかもな」と思いながら出汁をひと口すする。うどんから立ちのぼる湯気がふわりと顔を包んだ。
うん、おいしい。
いりこが中心に使われているという出汁は、いつ食べてもホッとする味だ。そこに海老天の衣や天かすが良い具合に混じって更に美味しさが増す。
「明日、小学校行きたくないな」
ざるうどんをすすりながら息子が言う。
いつの間にか一人前を食べられるくらいに成長していることに驚いた。
みんな、そうだよ。頑張ろうぜ。
毒にも薬にもならない励ましでお茶を濁す。小学校に行くのが仕方のないことだということは、きっと息子も分かっている。とりあえず「言ってみた」くらいな感覚だろう。すぐに、自分がうどんを一人前食べられるようになったという自慢に話がシフトした。
食べたのが温かいうどんで正解だったと思う。
食べ終わる頃には温かい出汁が身体を暖めてくれて、多少なりとも体調の回復に一役買ってくれている気がした。
店を出て駐車場に向かう時に、息子が寄ってきて手をギュッと握ってきた。「明日も頑張れよ」の意味も込めてそっと握り返した。
帰りの車の中では、ラジオで「こいのぼり」の歌を使った大喜利が流れている。
あ、今日はこどもの日か。
窓から見える景色はすっかり暗い。車のヘッドライトが今から進む少し先の未来を照らしていた。
(note更新155日目)