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タッグチームが生むブランド価値:プロレスに学ぶシナジーとマーケティング戦略(3)

劇的なドラマと共鳴するマーケティング戦略

~プロレス固有のタッグマッチが示すシナジーの本質~

 プロレスは、単なる力比べを超え、奥深いストーリーテリングの世界を提供します。その中でも『タッグマッチ』は、選手同士がチームとして連携し、観客を魅了する独特のドラマを生み出す形式です。この形式は、異なる要素を組み合わせることで相乗効果(シナジー)を生むマーケティング戦略に、多くの示唆を与えます。

1.プロレスにおける役割分担と個性の相互作用

 タッグマッチでは、選手たちがそれぞれの強みを活かして役割を分担します。以下はその典型的な例です。

パワーファイターとテクニシャンの組み合わせ
 
巨体と怪力を誇るレスラーがリングを支配し、相手を圧倒的な力で抑え込む一方、敏捷性に優れたテクニシャンが巧みな技や素早いムーブで流れを変え、勝利へと導きます。この対比は視覚的にも戦略的にも印象的で、試合展開の単調化を防ぎます。

キャラクターのコントラスト
 陽気で観客とのコミュニケーションが得意なエンターテイナータイプと、無口で職人気質なストイックなレスラーのペアは、感情移入を促し、双方のキャラクターを際立たせる相乗効果を生みます。

弱点を補う戦略的役割
 パワーはあるがスタミナに欠ける選手には、スタミナ豊富なパートナーがペースコントロールで弱点を補い、チーム全体としてのパフォーマンスを飛躍的に向上させます。

企業やブランドにおける『タッグ』の応用

 プロレスのタッグマッチと同様、企業やブランドでも、異なる強みを持つメンバーや組織が連携すれば大きな価値を生み出せます。

異なる専門性の融合
 新製品開発のプロジェクトチームでは、技術者が革新的な技術を創出し、デザイナーがそれを顧客に響く形へと昇華します。さらに広報・マーケティング担当がその魅力を効果的に発信することで、付加価値は飛躍的に高まります。

企業間コラボレーション
 異業種間のパートナーシップは、タッグチームさながらのシナジーを生みます。たとえば、ファッションブランドとテクノロジー企業が手を組み、スマートウェアを開発すれば、両者の専門知識とブランド価値が結合し、新たな市場を切り開けます。

弱点を補うチーム構成
 企業内でも、分析力に優れたメンバーとクリエイティブな発想を持つメンバーが組むことでバランスの良い意思決定が可能になります。また、リスクをとるリーダーと慎重なリーダーがタッグを組むことで、短期的成果と長期的安定を両立できます。

ブランドストーリーの深みを生む組み合わせ
 タッグマッチが単なる試合を超えた物語性を生むように、ブランドも個性の対比や組み合わせを活用して顧客の心を掴む物語を紡げます。

共感を呼ぶストーリー
 対照的なキャラクターが協力して成功を収める姿は、多くの人に共感を与えます。ブランドもこうした『共感できる物語』を発信することで、顧客の感情に訴えかけられます。

ユニークなアイデンティティの確立
 異質な要素の組み合わせは、ブランドの独自性を際立たせます。高級感と手頃な価格の両立、伝統と革新を融合したプロダクトデザインなど、矛盾を克服する価値提案が可能となります。

まとめ:異なる個性を活かす『シナジー』
 タッグマッチは、異なる個性や強みを補完し合うことで成功を収めます。同じ原則は企業やブランドにも当てはまり、個性の融合が新たな価値を創出し、顧客の心に響く物語を生み出す鍵となります。互いの強みを引き出し合う戦略があれば、1+1を3以上に変える力が発揮されるのです。

2.ホットタグの力:停滞を打破する戦略

 プロレスには『ホットタグ』と呼ばれる、観客の熱狂を最高潮に引き上げる瞬間があります。劣勢だった選手がパートナーに交代し、一気に攻勢に転じるこのダイナミックな演出は、停滞を打破する有効な示唆を経営やマーケティング戦略にも提供します。

プロレスにおける『ホットタグ』の構造

劣勢の演出:序盤は一方の選手が相手に圧倒され、何度もピンチに陥ります。これが観客の緊張感を高めます。

パートナーへのタッチを目指すドラマ:劣勢の選手が必死に手を伸ばし、何度も阻止される。『あと少し!』という期待感が極まった瞬間、パートナーへのタッチ成功が観客の感情を爆発させます。

劇的な展開の転換:交代した選手が一気に攻勢に出ることで、試合は一変。観客は大きなカタルシスを得て、チームへの支持がさらに強まります。

『ホットタグ』のビジネス応用

停滞したプロジェクトへの新リーダー投入:行き詰まったプロジェクトに新たな専門家やリーダーを投入することで、状況が劇的に好転します。

マーケティングキャンペーンの刷新:期待した効果が得られない場合、ターゲット層の再設定やブランドアンバサダーの変更などで『ホットタグ』的な転換を図れます。

外部コンサルタントやパートナーの活用:内部リソースだけでは解決が難しい課題には、外部の専門家を招くことで新たな発想や戦略が得られます。
イノベーションによる新展開:停滞感を打破するため、思い切ったイノベーションを実行することも有効です。

『ホットタグ』を効果的に発揮する条件
危機感の共有:
問題が明確であればあるほど打破のインパクトは大きくなります。

適切なタイミング:プロレス同様、ビジネスでも状況を見極め、最適なタイミングで新リソースを投入する必要があります。

万全な後方支援:パートナーが交代の瞬間に備えるように、企業内でもバックアップ体制を整えておくことが重要です。

まとめ:ホットタグで組織を活性化
『ホットタグ』は単なる交代でなく、状況を劇的に変える転換点です。組織においても、行き詰まりを打破し、新しいエネルギーを注入することで、課題解決と士気向上、さらには新たな成長機会を生み出す重要なツールとなります。

3.継続的なストーリーテリングでファンを惹きつける

 タッグチームの魅力は、一試合や一瞬の勝敗で終わらない『継続的な物語性』にあります。試合の裏にある葛藤や絆、不和と和解などが積み重なり、ファンを長期的に引きつけます。この積み重ねこそがタッグチームのブランド価値を高め、ファンコミュニティを育む原動力となります。

タッグチームにおける継続的なストーリーの力
勝利と敗北の積み重ね:
連勝が生む無敵感や、思わぬ挫折による人間味がファンの感情を揺さぶります。

内部不和と和解のドラマ:パートナー間の意見対立や危機、そして和解は、チームの成長物語を深め、ファンの共感を呼びます。

ライバル関係の構築:特定のライバルとの長期的な対決は、単なる試合を超えた特別な記憶と物語をファンに刻みます。

ブランドにおける継続的なストーリーテリングの重要性

 ブランド戦略でも、一貫したメッセージや価値観、挑戦と成長の物語を長期的に発信することで、顧客との深い関係性が築けます。

ブランドの『連続性』と『成長』の演出:持続可能な素材への移行など、ブランドが掲げた目標や取り組みの進展を共有すれば、顧客はその誠実さと努力に共感します。

失敗と挑戦のストーリー:失敗や不具合を隠さず共有し、改善への挑戦を示すことで、ブランドは『人間味』を獲得し、親近感を高めます。

ライバルとの対比:伝統と革新など、差別化ポイントを物語に織り込むことで、ブランドのアイデンティティが明確になり、顧客の理解と支持を得やすくなります。

顧客との絆を深める具体策
顧客をストーリーの一部に組み込む:SNSでのブランド体験のシェアやクラウドファンディングを活用することで、顧客が物語に参加できる場を提供することが可能です。しかし、中途半端な情報発信は、寧ろブランド価値を下げてしまうリスクがあります。これはプロレス業界に限らず、一般企業や政治家にも当てはまる課題です。

 例えば、石破茂総理大臣閣下のように、発信そのものが極めて少ないケースは最悪と言えます。また、一国の首相が『米粉のラーメンうめぇ~』といった軽い発言しか行えないのでは、国民や支持者に対して何の影響力も生み出さないどころか、リーダーとしての信頼性を損なう恐れがあります。

パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない

レスラーが発信することの是非
やっぱりね、何でもやるんならば、戦略がないと。
今ほとんどのレスラーがSNSをやっていますけれど、試合のスナップだったり、食事の写真だったり、つまらない愚痴だったり、要するに落書き帳なんですよ。
それが悪いとは言わないし、ファンもそれを楽しみにしていると思うんですけれど、僕はそういうありきたりな、フツーのSNSの使い方だと、かえってレスラーのブランドに悪影響を与えるんじゃないかと危惧しているんですよ。
一番いけないのは、半ば義務化した発信です。
眠いとか、疲れたとか、飯食った美味かったなどとつぶやくことに、何の意味があるんでしょう。
きょうラーメン食った美味しかった写真はこれっていうのも、ファンとの一体感を育てるかもしれませんけれど、ブランドは育ちませんよ
ブランドっていうのは、そのレスラーだけの「切れば血が出るような個性」のことですから
ツイッターに出す一つのポストだって、あだや疎かにできないんであって、適当に書いとけ的な投稿は、百害あって一利なしです。
ブランドを完成させる、っていうそういう意識すらないレスラーが、つまらないブログをやるんです、って言ったら言いすぎかな。

プロレス&マーケティング第80戦 プロレスラーはもうSNSをやめろ、という暴論。

多様なメディア活用:ブログ、動画、ポッドキャストなどで継続的な発信を行い、顧客の関心を持続させます。

コラボレーションでの新展開:顧客が新製品開発に関与できる仕組みを設ければ、感情的なつながりが一層強化されます。

まとめ:継続的な物語でブランドファンを育てる
 タッグチーム同様、ブランドも勝敗や挑戦の積み重ねを通じて顧客との絆を深められます。こうした長期的なストーリーテリングは、一過性ではないロイヤリティを育み、競争が激しい市場での成功を支える鍵となります。

4.企業における信頼と価値観の共有

 タッグチームが信頼と価値観の共鳴でファンを惹きつけるように、企業やブランドもステークホルダーとの間に信頼と価値観を共有することで、強固な絆を築けます。

社内連携と信頼:営業と製品開発が互いの強みを信頼し合えば、効率的かつクリエイティブな成果が生まれます。

顧客との信頼関係:顧客のフィードバックを真摯に受け止め改善することで、ブランドへの信頼は深まります。

価値観の共感が生むブランドファン:環境配慮や社会貢献など、ブランドが示す価値観に共感した顧客は、単なる消費者でなく『ブランド支持者』となります。

パートナーシップによる価値拡大:食品メーカーと地元農家の提携が『地域を支える』という価値観を強化し、ブランドの魅力を高めるように、外部とのコラボも価値観共有で強固になります。

信頼と価値観を築くための手段
透明性の確保:
製造プロセスやサプライチェーンの公開は、顧客に安心感を与え、価値観共有を強めます。

ストーリーテリングの活用:創業者の想いや従業員の活動、開発の背景を発信すれば、顧客はブランドの人格性に共感します。

長期的なビジョンの共有:ブランドが掲げるビジョンを行動で示し続ければ、顧客や従業員、パートナーとの絆は一層強固になります。

ブランドと顧客の絆が進化するプロセス

『認知』から『支持者』へ:ブランドの価値観に共感した顧客は単なる購入者から支持者へと移行します。

『支持者』から『共同体の一員』へ:ブランドコミュニティやイベントへの参加によって顧客はブランドを自分事化し、共創関係が生まれます。

まとめ:信頼と価値観が生む強い絆
 タッグチームが信頼と価値観で築く絆は試合を超えた魅力を生み出します。同様に企業やブランドも、ステークホルダーとの信頼と価値観共有で強固な絆を築くことができます。この絆がブランド価値を高め、長期的な成功をもたらす原動力となるのです。

5.結論:タッグの力をマーケティングに活かす

 プロレスのタッグマッチは、人間ドラマや感動を生み出す独自の舞台であり、その中核にある『シナジー』の本質はマーケティングやブランド戦略にも応用できます。異なる個性やスキルの補完、継続的なストーリーテリング、停滞を打破する転換点、そして共感を育む価値観の共有——これらをいかに活用するかが、ブランド成功の鍵です。

異なる個性やスキルの相互補完
 異分野チームの連携や異業種コラボレーションは、新市場開拓や差別化を可能にし、1+1を3以上にする力を発揮します。

継続的なストーリーテリング
 長期的なメッセージ発信やシリーズ化されたキャンペーンで顧客との絆を深め、ブランドへの愛着を高めます。

新展開を生む転換点の活用
『ホットタグ』のような刷新のタイミングを設けることで、停滞を打破し、ブランドは進化し続けることができます。

価値観の共有による共感創出
 ブランドのビジョンや使命を明確にし、ステークホルダーと価値観を共有することで、支持者を生み出し強固な関係を構築します。

ブランドを進化させるタッグ戦略
 プロレスのタッグマッチが示すシナジーは、マーケティングやブランド戦略を強化するための豊富なヒントに満ちています。要素の融合や物語の継続性、適切な転換点、価値観の共有を通じて、ブランドは市場での地位を高め、顧客との関係を深めていくことができます。この『タッグ戦略』の巧みな活用こそが、単なる製品・サービス提供を超え、長く愛されるブランドへと進化する原動力となるのです。

武智倫太郎

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