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ディープシークショック:中華AIの技術の高さに全米が震えた!
2025年1月27日、中国のAIスタートアップであるDeepSeek(ディープシーク)が発表した生成AI『DeepSeek-R1』は、全米に衝撃を与えました。この低コストかつ高性能なモデルの登場は、AI業界の勢力図を塗り替え、市場に大きな影響を及ぼしています。
私のnoteでは、2023年の前半から、日本でのみ『AI研究の第一人者』とされている松尾豊に関して、その学術的評価に疑問を呈してきました。特に、松尾研およびその関連ベンチャーの技術力が中国のAI研究に遠く及ばない点について、具体的なベンチマークテスト結果や、開発に費やした期間および費用を他の研究機関と比較しながら、彼らの能力や諸問題を指摘してきました。
また、これらの議論を、松尾豊が取締役を務めるソフトバンク社の孫正義に関する問題とも関連づけて考察を展開しています。
さらに、OpenAIの技術力の限界や、そのアプローチではオープンソースAIに太刀打ちできないことも指摘してきました。加えて、同社が経営破綻する可能性を2024年末と予測していましたが、市場の反応が遅れがちなため、実際の破綻時期は予測より1か月ほど遅れる結果となりました。それでもなお、中国のAI企業ディープシーク(DeepSeek)の登場は、OpenAIにとって『終わりの始まり』を象徴する出来事です。
OpenAIは非上場企業であるため、その株価や企業価値が市場全体に与える影響は限定的です。しかし、OpenAIと提携して多大な投資を行ったマイクロソフトにとっては、深刻な打撃となる可能性があります。この点については『マイクロソフト不要論』という形で、別の記事にて詳しく論じたいと思います。
第二次トランプ政権崩壊の始まり
ディープシークショックにより、米国株式市場では大規模な時価総額の減少が見られました。特に、AI関連銘柄の代表格であるNVIDIA(エヌビディア)の株価は17%下落し、時価総額は約5,890億ドル(約91兆円)減少しました。
このNVIDIAの下落は、単一銘柄として米国市場史上最大の時価総額減少となりました。また、フィラデルフィア半導体株指数も2020年3月以来の大幅な下落を記録しています。
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これらの動きを受け、S&P500種株価指数は約1.5%の下落、ナスダック100指数は約3%の下落となり、米国株式市場全体で数兆ドル規模の時価総額が失われたと推定されます。
このように、ディープシークショックは米国株式市場に大きな影響を及ぼし、特にAI関連銘柄やハイテク株の下落を引き起こしました。
現在、私なりにすべての銘柄を分析している最中ですが、ナスダック100指数およびS&P500指数全体の下落率を基に算出すると、ディープシークショックによって米国市場全体から消し飛んだと推定される金額は約1.11兆ドル(2025年1月27日の為替レートで約173兆円)に達します。この規模感を理解するための例として、トヨタ自動車の時価総額が約40兆円であることを挙げると、トヨタが約4.3社分消滅したのと同等の影響があったと言えるでしょう。
また、この金額を2008年に発生したリーマンショック時の損失と比較すると、リーマンショックでは世界経済全体で約20兆ドル(約2,600兆円)の資産が失われたとされています。それに比べると、ディープシークショックによる損失は規模的には小さいものの、AIおよびハイテク分野という特定のセクターに集中している点が際立っています。今後、この分野に多額の投融資を行ってきた機関投資家や企業、特にソフトバンクのような企業が経営の危機に直面する可能性を考慮すると、ディープシークショックはより大きな崩壊の序章となり得るかも知れません。
特に注目すべき点は、ディープシークショックが単なる一時的な市場混乱にとどまらず、AI技術競争の構図を根本的に変え得る契機となっていることです。この現象は、単なる経済的損失を超え、技術面での覇権争いに直結する重要な出来事として捉えるべきでしょう。
ディープシークショックがスターゲート計画に与える影響
ディープシークショックは、米国のAI市場だけでなく、OpenAI、ソフトバンクグループ、オラクル、MGXが共同で推進しているスターゲート計画にも大きな影響を与える可能性があります。この計画は、総額5,000億ドル(約77兆円)を投資し、米国における次世代AIインフラを構築する壮大なプロジェクトです。しかし、今回のショックによって、計画そのものが大きな見直しを迫られる可能性が浮上しています。
投資家の信頼低下と資金調達の困難化
ディープシークショックにより、AI関連株の急落が引き起こされ、市場全体で約1.11兆ドル(約173兆円)もの時価総額が消失しました。このような市場の動揺は、スターゲート計画に必要な巨額の資金調達に悪影響を及ぼす可能性があります。
特にOpenAIがディープシークショックの直接的な影響を受けたこと、さらにはソフトバンクグループが過去のWeWork投資失敗の教訓を抱える中で再び大規模なリスクを取る姿勢が投資家から疑問視されることが予想されます。このような状況では、スターゲート計画への出資者が慎重な姿勢を強め、計画全体が遅延する可能性があります。
中国AIの台頭による戦略見直し
ディープシークが発表した生成AIモデル『DeepSeek-R1』は、圧倒的なコストパフォーマンスを誇り、オープンソースとして公開されました。これにより、米国主導のAI技術競争が根本的に揺らいでいます。スターゲート計画が目指すインフラは主に米国の技術を基盤として構築されていますが、中国AIの台頭によって競争力を失うリスクが高まっているのです。
たとえば、スターゲート計画の目標は『米国がAI分野での覇権を維持すること』ですが、DeepSeek-R1の登場によって、スターゲート計画の想定した競争環境が急激に変化しました。その結果、中国のAIインフラが国際的に採用される可能性が高まり、スターゲート計画の意義自体が問われる事態にもなりかねません。
米国内での政治的圧力と予算削減の懸念
ディープシークショックによる市場の混乱は、米国内での政治的議論にも影響を与えるでしょう。スターゲート計画に対する政府の支援や補助金も、その妥当性が問われる可能性があります。特に、AI技術が軍事分野や監視社会への利用につながる懸念がある中で、市場の不安が増幅されれば、予算の削減やプロジェクトの方向性変更が求められるかも知れません。
インフラ構築の加速か停滞か
一方で、ディープシークショックは米国のAI業界に強い危機感を与え、スターゲート計画の重要性が再認識される可能性もあります。中国AIに対抗するため、計画の一部を加速させる動きが出るでしょう。ただし、これには各参加企業の戦略的な連携が不可欠であり、市場の信頼を取り戻すための具体的な行動が求められます。
このように、ディープシークショックはスターゲート計画に対して二面性を持つ影響を与えています。一方では、投資家の信頼低下や中国AIの台頭によって計画全体の見直しや遅延が懸念されます。他方では、米国がAI技術競争における地位を維持するための重要な転換点ともなり得ます。今後のスターゲート計画の成否は、いかに市場の信頼を取り戻し、ディープシークに対抗できる技術と戦略を構築するかにかかっていると言えるでしょう。
スターゲート計画は、発足したばかりの第二次トランプ政権の目玉政策の一つです。このプロジェクトの規模は、ケネディ大統領時代のアポロ計画と比較すると分かり易いでしょう。アポロ計画に投入された金額や産業波及効果をインフレ補正すると、スターゲート計画の規模の大きさが際立ちます。
アポロ計画の総コスト:1960年代のドルで約254億ドル(25.4 billion USD)
これを2025年のインフレ率で補正すると、約2,051億ドル(205.1 billion USD)となります。
アポロ計画の産業波及効果:投資に対して約7倍の効果があったとされます。2025年基準での産業波及効果は、約1.44兆ドル(1,435 billion USD)に相当します。
スターゲート計画の総コスト:総額5,000億ドル(500 billion USD)の投資が予定されています。
スターゲート計画の産業波及効果:控えめに5倍と仮定すると、約2.5兆ドル(2,500 billion USD)と推定されます。
結論としてスターゲート計画の直接投資額はアポロ計画の約2.4倍に達しており、その産業波及効果もアポロ計画を上回る可能性があります。特にAI技術が幅広い産業分野に影響を与えることを考慮すると、スターゲート計画は現代版『アポロ計画』と呼ぶにふさわしい規模であるといえます。
つまり、トランプ大統領は就任後たった1週間で、米国の国威をかけたスターゲート計画で躓いてしまったのですしまったのです。そのため、米国が国威をかけてソビエト連邦と対峙して敗北したスプートニクショックの『中華AI版』だとして、すでに『AI版スプートニクショック』という名前が付けられ始めています。
アメリカの大統領制度は、日本の首相制度と異なり短期間でトップが交代することはありませんが、トランプ大統領の政治手腕が厳しく問われることは間違いないでしょう。
武智倫太郎