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日米半導体摩擦と米中半導体摩擦から考える日本経済復活の可能性

意外と知られてないんですけど、半導体はデジタル社会とグローバル経済における重要な基幹技術なんです。

 半導体はスマートフォンやパソコンなどの民生品から、AI、クラウド、さらには軍事・防衛分野に至るまで、幅広い応用が可能であり、その技術優位性をめぐって各国の利害が複雑に絡み合っています。本稿では1980年代後半に激化した日米半導体摩擦と、近年浮上している米中半導体摩擦について、その背景や影響、そして日本の立ち位置を考察します。

半導体産業における電力・水問題とアフリカの可能性

 半導体産業では、大量の電力と水が必要です。日本は世界有数の水処理技術と効率的な水リサイクルシステムを備えているものの、発電コストの高さが大きな課題となっています。一方、アフリカの一部の国では、ソーラー発電コストが1円/kWh程度と圧倒的に安価であり、バッテリーを組み合わせても日本の工業電源より低コストで、かつ安定的な電力供給が可能です。

 このような状況を踏まえると、日本国内に台湾の半導体メーカーを誘致することの経済合理性について、慎重に検討しなければなりません。寧ろ世界屈指の半導体製造装置メーカーを有する日本企業が、再生可能エネルギーが豊富なアフリカへ進出し、『再生可能エネルギー工業団地』の設立を目指す戦略の方が、長期的な視点で見た場合、より有望な選択肢となる可能性があります。

日本企業の強み:製造装置・材料技術

 最先端のCPUやGPUを製造するには、高度な半導体製造装置と材料が不可欠です。そして日本企業は、この分野においてグローバルなサプライチェーンの中で欠かせない役割を果たしています。以下に、特に注目すべき日本企業を紹介します。

東京エレクトロン:エッチング装置やコータデベロッパーなど、多様な半導体製造装置を提供する大手メーカーであり、最先端の製造プロセスに不可欠な装置を供給しています。

ディスコ:ダイシングソーやグラインダーにおいて世界トップクラスの技術を有し、シリコンウェハーの精密切断・研削を可能にし、高精度なチップ製造を実現しています。

信越化学工業:シリコンウェハーで世界トップシェアを誇る化学メーカーとして、高品質なウェハーの提供を通じて、最先端の半導体製造を支えています。

レーザーテック:EUVマスクブランクス検査装置で独占的な地位を確立しており、最先端のリソグラフィ工程における欠陥検査を可能にしています。

SUMCO:シリコンウェハーの製造に特化し、信越化学工業とともに世界市場の大部分を占めながら、高純度ウェハーを供給し、先進的なCPUやGPUの製造を支援しています。

東京応化工業:フォトレジストの製造で世界的なシェアを持ち、EUVリソグラフィ対応製品を提供し、微細加工技術を支えています。

アドバンテスト:半導体検査装置の分野で世界的なリーダーとして、CPUやGPUの性能検査・評価に必要な装置を提供し、半導体の品質保証を支えています。

イビデン:高性能な半導体パッケージ基板の製造を通じて、CPUやGPUの高密度実装を実現し、性能向上に大きく貢献しています。

ULVAC:真空技術をコアとした半導体製造装置や材料プロセス装置をグローバルに展開し、成膜やエッチングなど最先端工程に不可欠な技術を提供しています。

アフリカ進出の経済合理性

 半導体は農産物や天然資源とは異なり、重量当たりの単価が非常に高いため、空輸による物流コストが製造コスト全体に与える影響は限定的です。また、半導体製造は高度に自動化されており、装置産業であることから、従来の工業生産とは異なり、高度な熟練労働者の必要性が低下しています。さらに、現地に交換部品や保守部品を十分に確保することで、安定的な稼働が可能となります。

 初期の装置導入コストが仮に3倍かかったとしても、電力コストや水処理コストの削減、さらには再生可能エネルギーの環境価値を考慮すれば、長期的な製造コストへの影響は最小限に抑えられます。むしろ、安価な再生可能エネルギーを活用できるアフリカは、日本の半導体産業にとって、競争力を発揮できる最適な立地といえるでしょう。

1.日米半導体摩擦の歴史的背景と影響

(1)1980年代の米国の焦り
 1970年代後半から1980年代にかけて、日本はDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの分野で高い技術力と量産能力を背景に、世界シェアを拡大しました。一方、米国企業はコスト競争力の面で劣勢に立たされ、国内市場においても日本製半導体が大きな割合を占めるようになりました。これに対し、米国政府や業界は日本企業を『ダンピングを行っている』と非難し、保護貿易的な措置を求める声が高まりました。

(2)日本政府と業界への圧力
 1986年に締結された日米半導体協定では、日本製品の対米輸出規制や国内市場のより一層の開放が要求されました。日本側は自国の半導体業界保護と米国の要求のバランスを取るために苦慮しましたが、最終的には米国の強い圧力のもと、日本市場における海外製品のシェア拡大や価格是正措置などを受け入れました。これにより、日本企業の一部は経営戦略の転換を迫られ、後の半導体産業の再編や他分野への進出につながっていきました。

(3)その後の日本企業の変遷
 日米摩擦を経て、日本メーカーは技術開発力こそ維持したものの、1990年代後半からは韓国や台湾企業の台頭、そしてシリコンバレーでの設計力強化などの要因により競争が激化しました。その結果、日本の半導体産業は一部の分野では依然として存在感を示しているものの、かつてのように世界市場を席巻する状況からは遠ざかっています。

2.現在の日中半導体摩擦の構図

(1)急成長する中国半導体産業
 中国は『中国製造2025』戦略や大規模な政府補助金をテコに、半導体の国産化比率を高める政策を推進してきました。設計(ファブレス)から製造(ファウンドリー)、テスト・パッケージまでの一貫したサプライチェーン確立を目指しており、その投資規模は世界でも群を抜いています。特にデジタル経済分野での需要拡大を背景に、中国企業は独自の半導体開発を加速させています。

(2)米国の輸出規制と日本の対応
 米国は先端半導体技術が安全保障上の最重要事項であるとの観点から、中国への先端機器や技術の輸出規制を強化しています。その圧力を受ける形で、オランダや日本も最先端の露光装置などの輸出管理を厳格化しています。2023年には日本政府が『先端半導体製造装置の輸出規制強化』を表明し、中国への直接的な輸出を制限する方針を示しました。

回答:半導体露光装置の3大巨頭は、オランダのASML、日本のCanonとNikonです。ASMLは、EUV(極端紫外線)露光技術において圧倒的な技術力を持ち、世界シェアの大半を占めるリーダー企業です。

半導体露光装置の3大巨頭

(3)日本企業への影響と課題
 先端半導体製造装置や材料分野で、世界的に強い競争力を持つ日本企業にとって、中国への輸出制限は短期的な売上減につながる可能性があります。しかし、米国と共通のルールを順守しない場合は、米国市場での信頼を損ねるばかりか、制裁措置を受ける恐れもあります。日本企業は地政学的リスクを慎重に見極めつつ、研究開発や供給ネットワークの再構築を図る必要があります。

3.TRONとHuawei問題の本質

(1) TRONの教訓
 1980年代、日本が開発したリアルタイムOS『TRON』は、高い技術力と汎用性を誇っていましたが、米国からの圧力によって普及が妨げられました。米国は安全保障や市場独占の観点から、日本の先端技術が世界標準となることを警戒し、さまざまな妨害を繰り返していたのです。TRONにとって致命的だったのは、米国通商代表部(USTR)により、貿易障壁としてスーパー301条の対象に指定されたことでした。

 ところが、これがまったく事実に基づかないものであったという点については、以下の落合陽一さんのYouTubeビデオで、TRONプロジェクトを立ち上げた坂村健先生が説明しています。

 坂村先生はTRONのプロジェクトリーダーとして、日立製作所、東芝、NEC、富士通などの主要な電機・半導体メーカーやコンピュータ製造企業13社をまとめていました。つまり、TRONプロジェクトは日本の半導体とコンピュータ業界だけでなく、世界のコンピュータ業界を牽引する日本の重要プロジェクトだったのです。

 私は以下のカンナ隊長の記事を読む以前は、落合陽一さんのことを単なる『人気YouTuber』だと誤解していました。

 しかし、実際には落合陽一博士の博士論文『計算機音響場によるグラフィクス表現』の副査を坂村健先生が務められていたと知り、たいへん驚きました。これから落合陽一さんを呼ぶ際に、『落合くん』『落合さん』『落合博士』『落合先生』『落合教授』のいずれが適切なのか、私には微妙なところです。ちなみに、落合くんが、物心がつくころには、私はTRONの主要開発者だったのです。

 YouTube番組内では、坂村健先生がムカついた様子で名前を出さずに『思い出させるな、おい、も〜っ!』と苦笑いし、落合くんが『それを坂村先生の口から聞きたかったんですよぉ』と突っ込んでいるにもかかわらず、アメリカに手を回してTRON潰しを画策した人物の名前は出ませんでした。

 しかし、実はこの名前を口にするだけでも腹立たしく感じる人物こそが孫正義であり、日本のコンピュータ業界ではこれは常識となっています。逆に、孫正義が日本の半導体産業を破壊したという事実を知らない人は、コンピュータ業界において非常識、あるいは無知と見なされるほどです。

 孫正義は、アメリカと結託し、存在しない貿易障壁をでっち上げ、米国の『ガイアツ(外圧)』を利用して日本の半導体産業を壊滅に追い込みました。これは情報産業界において広く認識されている事実です。もし孫正義による破壊工作がなかったならば、現在の日本経済がこれほどまでに衰退することはなかったでしょう。

 そもそも『貿易障壁』と言われていた当時、日本の半導体産業は自動車産業よりも遥かに大きな可能性を秘めており、当時は『半導体は産業の米』と呼ばれるほど日本で最も重要な産業でした。その半導体産業を破壊した張本人が孫正義なのです。

 この孫正義の画策については、ルポライターの大下英治による著書『孫正義 起業の若き獅子』に詳述されており、孫正義がTRON潰しを行った経緯がノンフィクションとして描かれています。当時、孫正義は米国からパソコン用ソフトを輸入し、ビジネスを展開していました。しかし、日本独自の技術によるパソコンが普及すれば、自らの事業に悪影響を及ぼすと懸念していました。そこで彼は、通商産業省(現在の経済産業省)の高官や政治家、財界の人脈を駆使し、さらにはアメリカの外圧まで利用してTRONを市場から排除し、日本の半導体産業に深刻な打撃を与えました。

USTRを利用したいわば風評被害によりBTRONという独自技術を潰したのは、実は米国の企業ではなく日本人だったということは後年わかったことだ。詳しく記述してある1冊の本が出たからだ。ルポ作家・大下英治著の『孫正義 起業の若き獅子』。簡単に言うと、当時孫正義はパソコン用ソフトを米国から輸入して商売をしていた。日本で独自技術のパソコンが普及したら商売にならない――ということからTRON潰しに動いたらしい。この本で書かれている通産省の高官、政治家、財界など孫正義が持てるあらゆるツテを動員しTRON潰しをやっていく様は、私も感心してしまうぐらいだ。

TRONプロジェクトの30年

 もし孫正義がこうした画策をしなければ、現在の日本のGDPは米国を抜いていた可能性すらあります。実際、バブル経済崩壊前の1991年頃には、東京の地価だけで全米を買えるとも試算されたほど、日本の景気は絶好調であり、とりわけ日本の半導体産業は圧倒的な競争力を誇っていました。

 いわゆる『土地神話』によって、日本の銀行は過剰融資を続け、大蔵省の総量規制が結果的にバブル経済崩壊の引き金となりました。しかし、ここで重要なのは、なぜ世界中の人々が土地神話を信じることができたのかという背景です。その背景にあったのが、日本の半導体産業の驚異的な成長力だったのです。

 半導体産業は、農業や酪農とは異なり、大規模な農地と比較すると極めて狭い土地で生産が可能であり、しかも『産業の米』と呼ばれる半導体を通じて高い利益を生み出すことができました。そのため、地価の理論的な上昇が際限なく続くと考えられていたのです。

 これら一連の動きによって、日本の半導体産業は壊滅的な打撃を受けました。そして現在、孫正義は『スターゲート』計画を通じて、日本に再び致命的な損害をもたらそうとしているという概要については以下の記事で指摘しています。

 いずれにせよ、TRONの事例は、技術革新が単なる技術的競争ではなく、政治的・経済的要素によって大きく左右されることを示す重要な教訓です。そして孫正義が、いまや日本経済を完全に破壊し得るポジションを確立しているのは紛れもない事実でしょう。これ以上日本の産業を没落させたくないのであれば、ソフトバンクをボイコットするのが日本人にとっての最適解だと考えられます。

(2)Huawei問題との類似点と相違点
 Huaweiは自社の通信技術と半導体技術の進展によって世界市場での存在感を増していましたが、米国の制裁により先端半導体の調達が困難となりました。この問題は、かつてのTRONと同様、技術覇権をめぐる地政学的な衝突の一端と捉えることができます。

 しかし、アメリカから貿易戦争を仕掛けられた際の対応は、日本と中国で大きく異なります。日本は、孫正義に言いくるめられ、官僚と政治家が主導して自国の半導体産業に壊滅的なダメージを与えてしまいました。一方、Huaweiはアメリカの圧力に屈することなく、研究開発を継続し、その他の半導体関連企業やICT企業も、自国の技術のみで世界市場に対抗できるよう、着実に成長を続けています。

(3)日本への示唆
 TRONとHuaweiの事例は、日本が半導体産業で独自の競争力を維持するためには、技術開発の推進と同時に、国際的な政治的対応力を強化する必要があることを示唆しています。

4.おわりに

 1980年代の日米半導体摩擦は、日本企業が経験した『成功と圧力』の一断面でした。一方、今日の日中半導体摩擦は『技術覇権』や『安全保障』という広範な文脈のもとで繰り広げられています。日本は世界的な技術競争と政治的パワーゲームのなかで、自国産業の活路と安全保障のバランスを取ることが今後の大きな課題となるでしょう。

 以上が、これまでいただいた多くのコメントに対する回答になっているかと思います。日本経済に壊滅的なダメージを与えたのは孫正義であり、日本の生成AIが中国よりもはるかに劣る原因は、日本政府や政治家が、ソフトバンク取締役の松尾豊をAI研究の第一人者と誤認し、彼の誤った方向性に踊らされているからです。

 坂村健先生は、日本を代表する半導体およびICT産業の主要企業13社をまとめ、民間ベースでTRONプロジェクトを牽引してきた方です。一方、同じ東京大学の教授である松尾豊は、ソフトバンクという日本経済に破壊的なダメージを与えている一企業の取締役でありながら、日本のAIやICT産業政策を決定する会議の座長などを務めています。

日本経済を復活させるためには、孫正義や松尾豊を徹底的に日本のICT産業から排除し、消費者としてはソフトバンクをボイコットすることが最も有効な手段でしょう。

国外に投資するより、国内の技術者に“重点を置くべき”じゃないかと。
日本円をなるべく海外に”投資“を控えてほしい。

urumaさん

科学者の育たない国に自国を維持する力が保てるのか?…そんな気が少し前からしています。少しでも技術者、開発者、科学者が育つ環境を政府も検討するべきな気がします

KANATAさん

日本の自動車産業や金融業界には未来がないと感じるのに、なぜ日本はこのままでいるのかと疑問に思います。
島国だからという理由だけではない気がしますが、いまだに『鉄鋼業や大企業に勤めれば安泰だ』という考え方が根強く残っていることには、懸念を抱かざるを得ません。

癒しのゆうすけさん

①キーエンスばりのゴリゴリ営業で欧米中の地場産業に日本製品を売り込みまくる『エコノミック・ビースト』戦略、②輸入品に高い関税をかけて内需に集中し皆でそこそこの利益を享受して慎ましく生きる『江戸化』戦略の2つに1つではないでしょうかね。

Vmasterさん

日本は、OpenAIを安泰と思う以前に「安泰もなにも、何の会社か分からない」という状態ではないでしょうか。

葛西さん

「OpenAI」ってそもそも赤字を垂れ流し続けていて、安泰以前のお話だと思っています。
競争が激化しており、設備投資に関しては今後も必要不可欠で、赤字を解消できるのでしょうか。

K.さん

『トヨタもヤキが回った』と言わざるを得ません。 <- 実際、最初ホリエモンのYOUTUBEを見たときはびっくりしました(笑)。
(実は、ショックを受けました(笑))

武器商人秘書:オリガの資料室

武智倫太郎

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