![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/156001687/rectangle_large_type_2_231f64d9b30488f2c90410daefe74220.jpg?width=1200)
2024年晩夏、地方創生の仕事
おれは今、日本各地の地方自治体と呼ばれるまちの活性化のお手伝いをする仕事をしている。この仕事を始めてもう3年くらいになるか、学生のころからちょこちょこ地域活性化の真似事をしていたので、日本の地域に関わるようになったのはもっと前だと思うんだけど、ニッチ好みなインバウンドの皆さんでも訪れないような日本のローカルな部分に根差した、土地土地の文化をさまざま吸収しては、このまち素敵なんすよってみんなに伝え続けてそれなりに長くなる。
出張が多い仕事柄、様々な地域に月に数回足を運んでは現地の人と会話をし、共に汗を流し、そのまちの魅力を持ち帰る。ありがたいことに年々足を運ぶ地域は増え、北は北海道、南は沖縄まで津々浦々を訪れて素敵な場所を見つけてはGoogle Mapにピンを立て、それらは道祖神のように全国に点在している。Google Mapのピンが増えていくたび、その場所を守る人たち、仕事で関わった人たちの顔が浮かぶ。
一方で仕事で初めてまちを訪れる際、気持ちが高揚する反面でどこか不安を覚えている自分がいる。なぜか。
「地域と共に汗を流す」と言うがオフィス自体は都内にあるので、当然活動の中心は東京になる。暫時地域の方々と生活を共にすることもあるだろうが、地域の魅力を散々享受し、それを全国に発信するために企画を立て、地域を巻き込みながら仕事が終わればまた東京へ戻っていく。
また、インターネットを見ると、大きな予算を投下して東京の会社に委託をしても思わしい成果が出なかった案件や、地方創生の名の下に無責任なアイデアを飛ばし炎上している肩書がよくわからないコンサルタントなどが散見される。
穿った見方をすれば、我々は「東京から来ておらがまちを搔き回していくいけすかない連中」である。幸い、これまで訪れたまちやそこで出会った人たちはみなあたたかい人たちばかりで、都度たいへんに歓迎をしていただいているわけであるが、自分たちがその土地でどう見られているか、地域住民の方々にどう映っているのか、自分たちの行動がどう映る可能性があるのかといったところは、常に不安に思いながら仕事をしている。
つい先日まで鹿児島のとあるまちに出張で数日滞在していた。お役所の職員さんを中心に、地域の生産者やそこで事業を営む方々と共に推し進める仕事で、ここ一年ほど月に1,2回現地に足を運んでお世話になっている。それまで全く縁もゆかりもない土地であり、また様々な利害関係を調整しながら進める仕事なので当然ハレーションが起きやすく、不安を伴う場面が多い。まして我々は「東京から来たいけすかない連中」と思われる可能性を常に孕んでいるので、なおさら不安も大きい。
一方で、彼らと出会って1年程になるが、当初からあたたかく歓迎をしていただいている。毎度たいへんな歓待でもって楽しい滞在生活を送れているので、そんな不安を感じる必要はないと彼らに言わせればそうなのだが、やはり立場上、心の内ではどうしても失敗をしないようにと委縮をしてしまう。
こうした傾向からもう一段階前進せねばと思っていたのだが、思いもよらないところからスッと心が晴れるような気持ちになる出来事があった。それは滞在2日目、会議のためにお役所の庁舎を訪れたときのことだった。担当窓口のほうへ今回も来ましたとご挨拶に伺った。担当課のみなさん方に歓迎のことばをいただきながらしばらく話し込んでいたところ、ふと、課のホワイトボードが目に入った。ボードには担当職員それぞれの外出予定や一日の大まかなスケジュールなどが几帳面に書かれていた。
ボードの本日の予定に目をやると、「●●社 来庁」と、我々の会社が庁舎を訪れる旨が記載された一枚のマグネットシートが貼られていた。月に1、2回ほど訪れているが、初めて気が付いた。
「あの、後方のホワイトボードに貼られている私どものマグネットシート、どなたかが作ってくださったんですか」
と尋ねると、一人の女性職員の方がはにかんでいる。定期的にいらっしゃるものだから作ってみました、と。
ほんの些細な出来事かもしれないが、我々がいない時に職員の方が時間と手間を使って作ってくださった。嬉しいよね。見やすい大きさの文字で、几帳面にカットされたそのマグネットシートを見たときに、なんだか変に委縮してしまっている自分が、こんなに歓迎してくださっている皆さんに対して申し訳ない気がしてきてね。
ちょっと、と失礼をしてその部分だけ写真に収めた。ご本人はそんな大げさな…と笑っていたが、なんだか、この仕事をする中でたいへんに印象深い出来事で、きっとこのことは忘れないだろうなと思った。
すべての行程を終えて東京へ戻る便の中、その写真を見返していた。土地やそこに住む人のあたたかさに触れるにつけ、思わずただいまと言って帰りたくなるような第二・第三のふるさとが増えていく気持ちがする。つくづく、嬉しい仕事だと感じている。そんな感じです。
いいなと思ったら応援しよう!
![さんし](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/65160067/profile_8eef2e8e953cb989db8ffd8c57eb1ecc.png?width=600&crop=1:1,smart)