見出し画像

僕たちの失敗

夏ごろから慢性的なしんどさを感じていたんですけれども、なんか調子が上がらない時期というのは一年を通して時折あらわれる症状でして、この性質とも随分長い付き合いですから、おれはこれを「終わりの季節」と呼んでやりくりしてきました。今回も、「はいはい終わりの季節終わりの季節」ととらえ、さてこの季節が過ぎ去ったらどう笑い話にして昇華しようかな、と呑気に構えていたわけなんですけれども。

うだるような夏の熱気に浮かされて微妙な気分の上げ下げはあったにせよ、時折さわやかな風が吹く絶好の運動会日和の10月にあって、心身の重苦しい感じは消えず、むしろこれまで夏の暑さを身にまとうことで隠せていた部分に風が吹き抜けていく感覚すらあって、これはちょっといつもと違う感じだぞ、となっているのが今です。

仕事でも私生活面でも別に書いても何も面白いことないストレスをたくさん抱えていることが原因で、もういっそ環境をガッツリ変えて生活を仕切り直そうと思っています。この辺は粛々とやっていきますんで、面白いことあったらまた書きますけれども。


よく飲みに集まる友人グループで、精神的なバランスを崩して休職・離職をしたり、投薬治療などの経験がある者、PMS(主にメンタルにくるタイプ)に悩まされている者ばかりがなぜか集まった、「不安定ズ」と呼んでいる一団があるんです。おれはこれまでそのような経験がなく、唯一健康優良児で通っていたのですが、学生時代からのつながりでなんだかずっと付き合ってもらってます。「終わりの季節」はときどきあるにせよ、割合元気なおれが基本は居酒屋の予約をしたり、開始時間を統計上みんなが遅滞なく集まりやすい21時台からのスタートにしたりもろもろ調整を行うなどして仲良くしています。


彼ら彼女らが折に触れて口にするのが「毎日生きてるだけでえらい」という主旨の言葉です。起きて化粧をする、あるいは着替えて外に出るだけでえらいなどの派生形もありますが、それを聞くたび正直「そうなんだけどさ…」と思っていた自分がいます。そうなんだけどさ、乾杯お前待ちなんだわ!みたいな。ただ、この頃はそんな彼ら彼女らの気持ちが分かるといいますか、ギリギリのところで生きている彼ら彼女らの祈りのようなものだったんだな、と思いますよね。


おれは音楽は気に入った一曲をひたすら聴き続けるスタイルでやっているのですが、すっかり参ってしまっているおれの精神状態をあらわすかのように、この頃のおれのプレイリストもまたいつもと様子が違います。

これは本当の話なのですが、まず今月に入って一番聞いてるのが"Alone Again"です。ギルバートオサリバン。中島みゆきの"タクシードライバー"であたしもあいつも好きだったでおなじみの曲です。それからDSDCの"Left Alone feat.土岐麻子"ね。それから銀杏BOYZの"漂流教室"。これはYUKIのカバー版を好んで聴いていますけれども。ご覧の通りAloneが続いてますんで、これは完全に都市生活でストレスを抱えて孤独に震えているアラサーのプレイリストだなと一目で分かります。YUKIのカバー版は例外かと思いきやこの曲が収録されているアルバム名が「きれいなひとりぼっちたち」。アローンやないかい。もちろんスナックでこの頃必ず歌うのはB'zの"ALONE"です。アローンやないかい。あと6分くらいあるこの曲をスナックで歌うのはあまりおすすめの立ち振る舞いとは言えません。

一人暮らしのやりくりはそれなりにできるけれど、年々ストレスの耐性が弱まってきているというか、これは他人と共同生活のひとつでもして矯正せねば、このままひとりぼっちだと心にカビが生えちゃう!と思ったおれ、このごろは不安定ズをはじめ、飲む人飲む人に酔っぱらうとおれと一緒に住まないか?と持ち掛けるところまできています。限界かよ。

不安定ズの面々はおれの恥ずかしい部分をよく理解しているところでありますから、「そろそろお薬飲んで寝なさい」とかわしてくれるんですが、困ったことに、仕事での年の近い同志の飲み会はおろか、マッチング・アプリなどで知り合った人にもそのような傾向がありますんで、ちょっと話が変わってきます。

意気投合して酒が進むと「いやー本当に今日は楽しい!もういっそおれと居を一にしませんか」と持ち掛けるわけです。これはもう完全にヤリ目と思われても仕方がないのですが、じゃあ具体的にどこに住むのがお互い都合が良いか、どちらの家電がより新型かのすり合わせをし、今残っている酒を飲み干して今から不動産屋さんに駆け込みましょう、とかえらい具体的な話をしだすわけです。夜10時過ぎとかにです。会って2回目とか3回目の関係値なのにも関わらずです。カフェデート、お酒デート、内見ですよね。一段ずつ昇ってきた階段を突然10段飛ばしするようなものですから、かなりキてるなと思います。

相手の側も、ここまで具体的な話をすると冗談半分で話に乗りかかってくれることもあるんですが、当然その時間には不動産屋さんはクローズしている。仕方なく店先に貼り出された間取り図にあれこれと言いながら、じゃあ試しに今晩だけは一旦一緒にいてみましょうかと言ってくれることもあり、僕も一匹のオスですんでね、我が家にお招きするんです。オスですんで。

ただ、以前にも申し上げましたが、おれは酔った翌日は、早朝に起きて立ち食い蕎麦のお店に行くのが大好きなんです。帰りの道すがらに明日は朝早く起きおそばを食べ、そしてモーニングのコーヒーを飲んだのち、不動産屋さんに駆け込みましょうねとスケジュールを確認しあいます。それでうちに帰ってきますと、すぐに就寝のしたくをはじめるわけです。

相手の方からは「もう寝ちゃうんですか?」など言われますが、明日は朝から早いですから!明日は朝6時に起きておそば屋さんに行き、そしてその足で不動産屋さんに行かねばなりませんから!そのように明日の予定を何度も復唱しながら、「そば屋さんに不動産屋さん、そば屋さんに不動産屋さん・・・」とうわごとのように繰り返しているうちにいつの間にか眠ってしまっています。

そんなことをやっていると、翌朝目を覚ましたらば横にいたはずの彼女の姿はそこになく、

「予定を思い出したので先に帰ります。また飲みましょう!」

とか書かれた一枚の便箋だけが残されているのです。当然LINEもブロックされています。


やぶれかぶれとしか言えない生活を繰り返しているわけなんですが、おれは一体どこで何を間違えたんでしょうか?何もわからない。でも、生きてるだけでえらいということは、朝6時に起きて、ひとり着替えて立ち食いそばを啜るだけでえらいということでもありますから、減らず口が叩けるうちに、やるべきことをやるだけさのアンビシャスジャパン精神でなんとかやっていきます。そんな感じです。


いいなと思ったら応援しよう!

さんし
拙アカウントは皆様からのあたたかいご支援によって運営されています。心を寄せてくださる皆様の貴重なお気持ちを価値高いものとして、今後ともより質の高いコンテンツ制作に励んでまいります。

この記事が参加している募集