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『デバッグの神』/掌編小説

あるところにデバッグの神と呼ばれる男がいた。
すべてのコマンド、すべての動作をありとあらゆる組み合わせで試行し、プログラマーに報告されるバグのほぼすべてを、この男が発見していた。
男は日々の生活においてもその才能をいかんなく発揮し、1ドットごとに移動するため、すべての動作に桁違いの時間がかかっていた。1度の食事をとるのに18時間を要し、体は小枝のように細かった。
彼は地面や壁などあらゆるものに体当たりで挑み、片足ケンケンやでんぐり返し、スキップをしながら出社した。会社のビルの壁と街路樹の間に挟まってみて、抜け出せないポイントはないかと日々チェックを怠らなかった。
そう、彼は現実世界においてもバグを発見しようとしていた。

近年の物理学の研究、シミュレーション仮説によれば、この世界も何者かがプログラムしたシミュレーションもしくはテストプログラムである可能性がある。
彼はプロのデバッガーとして、日々の行動をあらゆる角度から試行することでそのバグを発見しようとしていた。
この世界がプログラムされたものであれば、ゲーム内のキャラクターやNPC自身がバグを発見することは不可能だろうと思われるが、彼は諦めなかった。

そしてついに会社の健康診断を受けた日、バグを発見した。
彼の心臓は1つしかなかった。



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矢入えいど@『ファースト読み物』
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