『犯人は私です』/掌編小説
その日、おかしな手紙が届いた。
「犯人は私です」
そんな一文から始まる数十枚の便箋の束だった。
便箋の裏面までボコボコと文字が写って、かなり強い筆圧で書かれたような手紙。
文章はつづいていた。
「あなたではありません」
「佐藤くんは、あなたが犯人だと思い込んでいるかもしれませんが、ほんとうは私なのです」
意味が分からなかったけれど、佐藤くんはわたしの彼だ。この手紙を出してきたのは誰なんだろう。
差出人の書いていない真っ白な封筒に入っていた手紙に好奇心をそそられて、読んでしまったことをわたしは後悔した。
「つまり、あのとき佐藤くんの下駄箱の中にラブレターを入れたのは私です」
「手紙に名前を書いていなかったので、佐藤くんは差出人が私だと分からなかったのだと思います」
「佐藤くんは私がいれた下駄箱のラブレターを読んで、あなたからの手紙だと思ったのでしょう。
違います。あれは私が書いて佐藤くんの下駄箱にいれたのです」
「あなたと佐藤くんが今付き合っているのも、私が佐藤くんの下駄箱に入れたラブレターを、あなたからの手紙だと佐藤くんが勘違いしてしまっているからです。あれは私の手紙です。つまり、本当であれば私が佐藤くんとお付き合いしているはずなのです」
「はやく佐藤くんに本当のことを伝えてください。あれは私のラブレターです。私が心を込めて書いたものです。あなたではありません」
「私が佐藤くんの下駄箱に手紙を入れた犯人です。私なのです。本当のことを知らずに、あなたと付き合っている佐藤くんがかわいそうです。」
「はやく本当のことを白状して、佐藤くんに伝えてください。あなたではなくて私が書いた手紙なのだと。きっと佐藤くんは勘違いしてしまっているのです。このままでは佐藤くんがかわいそうです。はやく伝えてください。
はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく」